前の講義で、うつ状態の原因による分類を紹介しました。下の表です。
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内因性うつ病 |
単極性 うつのみを示す |
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双極性 うつと躁を示す |
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● 反応性うつ状態 |
一定の体験(心因)による |
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● 神経症性抑うつ |
性格と関連 |
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● 症候性うつ状態 |
身体病による |
原因療法が医療の目標である以上、この分類が理想なのですが、実際には本当の原因は不明であることが多く、そういう時に無理にこの分類にあてはめるのは原因の決めつけになります。そこで、むしろはっきり目に見える症状だけによって診断・分類する方が現実的であると多くの人が考えるようになってきました。
その結果、現在もっともよく使われているのが、アメリカ精神医学会が作成したDSM-IV(ディー・エス・エム・フォーと読みます)というものです。まずはやってみてください。下の9項目について、あてはまればチェックをつけてください。
上の9項目のうち、5項目以上にチェックがつくことが診断の第一条件です。この条件を満たし、しかも下の5項目のすべてにあてはまる時、大うつ病(Major
Depression)と診断されます。
このチェックリストは細かすぎる、しつこすぎると感じられたのではないでしょうか。ところがこれでもかなり簡単にしてあるのです。たとえば最初の項目(ほとんど毎日、ほとんど一日中抑うつ気分がある)は、原文では、「患者自身の言明(例えば、悲しみまたは、空虚感を感じる)か、他者の観察(例えば、涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど一日中、ほとんど毎日の抑うつ気分」となっています。体重減少についても、「1カ月で体重の5%以上の変化」といった規定があります。
ですからこのチェックリストは自己診断に使うのはちょっと無理です。細かい規定は、より客観性・信頼性を高めるために決められたもので、あくまでも精神科医が実際に診断する際に使うためのものです。
大うつ病以外のうつ状態についても、それぞれ細かい基準が決められています。それにしたがって分類するのが、現代のうつ状態の分類法です。
ただし、細かいリストを使えば正しい診断ができるというものでもありません。「疲れやすい」「思考力の低下」などといっても、それが病的かどうかの判断には相当の経験が必要になります。最後の項目の、「ほかの精神疾患による」かどうかの判断もなかなかむずかしいものです。逆に言えば100%客観的な診断は精神科では不可能ということにもなります。
大切なことは診断基準(チェックリスト)ができるまでの歴史の流れです。昔は一人の患者さんに対して、診た医者の数だけ診断名があるというような時代もありました。基本となる診断がバラバラでは治療法の進歩を望むことができるはずもない、という反省が、上のような細かい診断基準の出発点です。チェックボックスの合計でこころの病気の診断を本当の意味で正確にすることはできないでしょうが、現時点ではこれがもっとも客観性の高いものとして広く使われています。
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