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うつ病でないうつ・・・さまざまなうつ状態  

 

誰でもショックで落ち込むことはあります。

そういう誰にでもあるうつ状態とうつ病はどこが違うのでしょうか。


たとえば試験に落ちるとか、親しい人が亡くなるなどのショックな出来事があって落ち込んだ場合、精神医学では反応性うつ状態といいます。反応性抑うつとか心因反応と呼ばれることもあります。軽ければ時間とともに治っていきますが、重い場合は精神科での治療が必要になります。

もともと性格的に暗い人が、些細なことで落ち込むのもよくあることです。これは神経症性抑うつといいます。やはり重い場合には精神科の治療を受けることになりますが、なかなか完治しにくいのも事実です。

反応性うつ状態や神経症性抑うつは、病気と呼べるかどうかむずかしいこともあります。これに対して、内因性うつ病は、元々うつ病になりやすい素因を持っている人がかかるもので、間違いなく病気といえます。実際、内因性うつ病の人には、別の講義で説明したように、脳内の変化が明らかになりつつあります。抗うつ薬が一番よく効くのはこの内因性うつ病です。

内因性うつ病には、うつだけを繰り返す単極性と、躁とうつを繰り返す双極性のふたつがあります。ふつうはうつ病と言えばこの単極性(単極性の内因性うつ病)のことです。うつ病の有名人で紹介したチャーチルやミケランジェロはこの病気です。双極性の方はふつうは躁うつ病と呼ばれています。

そのほかに、症候性うつ状態というのもあります。甲状腺の病気などによるホルモンの異常や、ステロイドやインターフェロンの副作用などによって起こるものです。いずれも身体の病気が脳に影響してうつ状態になります。

以上をまとめると、うつ状態の分類は下のようになります。

内因性うつ病 単極性 うつのみを示す
双極性 うつと躁を示す
反応性うつ状態 一定の体験(心因)による
神経症性抑うつ 性格と関連
症候性うつ状態 身体病による

この分類は論理的のようですが、実際には色々な問題点があります。たとえば、

どのうつ状態も反応性に見える。

実際の生活の中で、嫌な出来事が全然ない日というのはほとんどありません。ですから、うつ状態になった場合、ふりかえって考えると何かしら原因と思われる出来事に思い当たるものです。そうすると全部が「反応性うつ状態」ということになってしまいます。

また、性格という言葉もむずかしいため、

どのうつ状態も神経症性と解釈できる。

ということも言えます。「暗い性格」というのは誰が決めるのでしょうか。一見明るくふるまっている人が、心の中では自分は本当は暗いと考えていることはよくあることです。もちろんその逆もあります。ということはほとんどの人がある面は暗いとも言えます。うつ状態になってからその人の性格を考えると、何かしら暗い面が見つかるものです。そうすると全部が「神経症性抑うつ」ということになってしまいます。

こうしたことが何かの方法で解決できたとしても、まだまだ問題はあります。たとえば、

初診時には診断できない。

性格を一回の診察で見ぬくなどということはできるはずはありません。うつ状態の原因についても同じことです。人間の心はそんなに単純に判断できるものではないでしょう。何回も話をしてようやく少しずつわかってくるというのが現実です。ということは初診時には診断できないということになります。診断できなくて治療ができるでしょうか。治療と言えば、

治療が成功すれば、本当の診断はやはりわからない。

ということも言えます。内因性うつ病の定義は、単極性なら、「うつを繰り返す」、双極性なら「躁とうつを繰り返す」ということですが、治療がとてもうまくいって、一度も再発しなかった場合はどうやって診断するのでしょうか。論理的に不可能です。

以上のような問題のほかに、この分類だとそもそもどこからを病気としていいのかわかりません。反応性でも重いものは病気といっていいのでしょうか。内因性の非常に軽いものはそれでも病気とするべきなのでしょうか。

そこで最近では、ある程度重いうつ状態を大うつ病 (英語ではMajor Depression) と呼んでひとまとめにするのが主流になっています。この辺の事情については次の講義で。


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