【4371】多重人格の友人との接し方
Q: 貴サイトをいつも大変興味深く拝見いたしております。お忙しいところ恐縮ですが、多重人格の友人との接し方について、ご相談申し上げたく存じます。
友人S子は30代半ばの女性です。S子は7~8年程前から習慣のようにリストカットを繰り返していました。それはS子に彼氏が出来てから2年ほど経過した頃です。 今から約10年前、S子の猛烈なアプローチの末、19歳年上でバツイチの彼との交際をスタートさせました。 ただ、彼にはS子と付き合う直前まで他に好きな女性がおりS子との交際は、その女性にふられたことへのあて付けでもありました。 S子としても、彼は他に好きな女性がいるのではないか、という思いはあったのですが、彼が自分との交際を選んだことで、その疑念は払拭されていたようです。 しかし、彼との間に子どもが出来た際、生みたいと希望するS子に対し、「父親として名前は書くから堕ろしてくれ」と、彼に頼まれ、S子は悲しい気持ちで中絶しました。 リストカットはこの時期からだったと記憶しています。 当初は、彼とケンカをしたときか、彼から酷い言葉で傷つけられたときに手首を切ることで気持ちを落ち着けていました。しかし、それが習慣になると、特に彼との関係が悪くないときでも、しばしば手首を切るようになりました。 そのうち、パニック障害の症状が出るようになりました。これが、6年程前です。パニック障害は、屋内外に限らず、人が大勢いる状況になると起きていました。また、不眠の症状もその時から始まりました。 そこでS子は、かかりつけの内科医にそのことを相談し、睡眠薬を処方して貰う様になりました。 ただ同時に、内科医から「精神科にかかったほうがいい」とアドバイスも受け、S子は近所の精神科に通うようになりました。しかし、なかなか相性が合わず、その後も何軒かの精神科を訪ねるものの、いずれも信頼し合える関係は築けなかったようです。ただ、少し妥協することで薬を処方して貰えると考え、最終的に一軒の精神科へ通院することを決めました。ただ心境の吐露は、かかりつけの内科医にしかできない、とこぼしてもいました。 あるとき、知人のお通夜の時に心臓の鼓動が激しくなり、私とS子の二人だけ、人のいないロビーに出たことがありました。この症状に対して、S子の彼はまったく理解を示さず、「頭がおかしいなら来るなよ」と、冷たく言い放つだけでした。 彼の無理解にS子は、自分の精神的な辛さを彼に言えなくなり、鬱のような症状が出たときも、パニック障害による発作の頻度が増してきたときも、決して彼に相談することなく、彼の前では何事もないフリをして我慢してきました。 その後、4年程前から、時折、記憶が無くなるという症状が出始めました。 ある日、内科医で診察の順番待ちをしていたとき、突然、パニック障害の発作が起き、そのまま化粧室でリストカットをしたことがありました。けれど、その記憶もポッカリと抜け落ち、なぜ手首が傷ついているのかも理解できない様子でした。 その他の記憶障害については、車を運転中に、突如、意識を失い、(実際には意識はあります。但し、S子自身の認識では意識を失った、と感じるのです)そこから帰宅するまでの記憶がまったくない、ということも頻繁に起こりました。 それが2年前ぐらい迄の出来事です。 その後、私の仕事が忙しくなり、相談に乗ったり、会って話したりといった、これまで出来ていたことがままならなくなりました。 しかし、S子の家族がS子の症状について理解していること、S子自身、病識があり、実際に精神科に受診していること、などを鑑みれば、あまり私が口を出すのもかえって混乱を招くだけとも思い、それを機に、あえてこちらからの連絡は控えていました。
それから1年ぐらい、S子からの連絡がなかったので、精神科での治療が効いてきたのだと勝手に解釈し、私も自分の仕事に没頭していました。 そして今日、S子から一年ぶりに電話があったのですが、その電話の主は「S子の体に住んでいるK美です」と名乗るのです。しかし、口調や声の出し方こそは違うものの、それは確かにS子でした。 K美と名乗るS子が私に電話をしてきた理由は、私がS子とS子の彼の共通の友人だからだ、と言うことです。 K美の説明によれば、現在、S子の体には、S子の他にK美とA子がいる、とのことです。K美は4歳で、A子はS子と同じ年。S子が精神的に弱っていると、凶暴性のあるA子が現れ、S子に辛い事や嫌な事があると、幼いK美が現れるそうです。 最近ではS子はまったくいない状態で、ずっとK美がS子の体にいる、とも言っていました。精神科には続けて通っているとのことで、すでにK美もA子も、精神科医と会って話をしたそうです。 また、1ヶ月程前に、S子はワインで薬を大量に飲んだ後リストカットをし、2日間入院をしたことも、K美から聞きました。その薬が何であるかまでは、K美にはわからないそうです。また、K美は、その入院生活の中で誕生したとのことです。 K美に、S子は彼とまだ付き合っているのかと問うと、初めは「たぶん付き合ってる」と言っていましたが、しかし、電話を切る頃には、「付き合っているのかわからない」に変わっていました。なぜわからないのかと問うと、S子がいないので、K美である自分が彼に電話をしたところ、イタズラ電話だと思われ、すぐに電話を切られたから、という答えが返ってきました。 だから私に電話をしたのだ、とも言いました。 その電話の中でK美は、「(精神科医が言っていた事として)自分は、S子がまだ楽しかった時代のS子自身なの」とも話していました。S子は5歳の時に、両親の離婚で母親と別居し、以来、母親と会うことなく今に至っています。K美の話から推察すれば、母親と離れる前のS子だ、と考えることができます。 これらの症状がなぜ現れたのか、私が考える事ではないと思っています。それよりも、「これからもK美として電話をしたい」と希望する彼女に、私はどう接したら良いのかわかりません。電話を受けて良いのか、4歳の少女に話すように接したら良いのか、S子として会話をしたほうが良いのか、会いに行ったほうが良いのか、それとも電話を受けてはいけないのか。 彼女が今まで服用してきた薬の名前さえもわからない為、ご判断が難しいかもしれませんが、私の知りうる限りの情報を記載致しました。 何卒、ご指導頂ければ幸いです。
林: 精神不安定な状態とストレスに引き続いての記憶障害(解離性健忘です)。そして自傷行為などのエピソードを経て、交代人格が出現する。これは解離性同一性障害(多重人格)が発症するひとつの典型的な経過です。
その電話の主は「S子の体に住んでいるK美です」と名乗るのです。
交代人格はこのように自分を説明することがよくあります。
K美の説明によれば、現在、S子の体には、S子の他にK美とA子がいる、とのことです。
このように交代人格は複数存在することはしばしばあり、むしろその方が多いと言えます。
それよりも、「これからもK美として電話をしたい」と希望する彼女に、私はどう接したら良いのかわかりません。電話を受けて良いのか、4歳の少女に話すように接したら良いのか、S子として会話をしたほうが良いのか、会いに行ったほうが良いのか、それとも電話を受けてはいけないのか。
あまり悩まずに、そのときそのときの人格に対して、ご自身が自然と思われる接し方をしてください。友人という立場ではそれが最善です。
(2021.9.5.)