【4102】嫌がらせのように物音が聞こえるのは統合失調症の症状でしょうか
Q: 60歳代、男性です。
私は高校に入学した頃から対人恐怖症の症状が現れるようになりました。具体的には赤面することが恥ずかしい。自分の視線が人に不快感を与えているのではないかと気になる。人目を意識して歩き方が不自然になる、といったことです。これらの症状は1、2ヶ月で次第に収まり、生活に支障が出るようなことはありませんでした。
30歳頃、それまでは気にならなかった周囲の目が気になるようになりはじめました。自分の歩く姿が後ろの人にどう見えるか気になって歩き方にとらわれ、不自然な歩き方になったのです。そうすると、後ろを歩く人から咳払いされるようになりました。それとともに自分の視線や泣いたような表情が他者に不快感を与えるようで、すれ違いざまにも咳払いされるようになりました。出勤時は後ろを歩く人が咳払いし、仕事中は後ろの通路を通り過ぎる社員が咳払いします。咳払いする人は数十人に一人程度の頻度ですが、よく咳払いされるのでいじめをされているように感じました。
30歳代後半、歩き方へのとらわれはひょんなことから解消しました。会社ではいていた内履きが傷んできたのでべつの内履きに買い替えたのです。すると自然に歩けるようになりました。それまでヒールがやや高かったのですが、ヒールの低い内履きに替わったことがよかったようです。自然に歩けるようになったら、後ろから咳払いされることは激減しました。しかしゼロにはなりません。たまたま実際に喉の違和感で咳払いする人もいるからでしょう。ただ、すれ違いざまに咳払いされる頻度には変わりがありませんでした。
45歳頃、対人緊張の苦痛が耐えられなくなって初めて精神科を受診しました。抗不安薬を処方されたのですが、服用すると緊張感が全くなくなり、とても楽になりました。咳払いされることは相変わらずですが、されてもあまり気にならなくなりました。ですが、3年ほどすると耐性ができてしまい、服用してもまた緊張するようになってしまいました。
50歳頃に別のアパートに転居し、2階に住んだのですが、その部屋は私が風呂を使い終わると、浴槽の下からパン、パンという叩くような音がしてそれが10分ぐらい続く現象が起きるのです。1階の人が音を立てているように感じられました。なぜ音を立てるのか理由を考えましたが、キッチンを歩くとギシギシ音がするので、1階の人が不快に感じて叩くのかなと思いました。また度々夜になると1階からガラス戸をすごい勢いでガシャンと閉める音が聞こえるようになりました。1階に降りて行くといつも部屋の明かりがついていません。1階の人がわざと明かりを消しているのかなと思いましたが、そこまでするかなという思いもありました。
精神科で、まだ試したことのない抗精神病薬を服用してみたいと医師にお願いして処方してもらいました。ジプレキサ、リスパダール、ルーラン、インヴェガなどを順番に服用しましたが、効果はまったくありませんでした。咳払いはされますし、1階から叩く音も相変わらず聞こえてきます。
55歳頃、ベッドで寝ようとすると下からトン、トンと突き上げられるような微妙な振動が感じられるようになりました。30分ほど経つと止むので眠れるのですが、そのうち振動を感じる時間が長くなってきました。ある夜には一晩中振動が感じられ、朝方まで眠れなかったことがあります。振動の原因は、1階の住人が嫌がらせで下から2階の床を突き上げているのではないかと思いました。しかしその一方で、どうやったら1階から2階の床下を突き上げることができるのかを考えると、ありえないのではないかということも同時に考えました。このときも抗精神病薬を処方してもらいましたがまったく変化はありませんでした。
ある日、1階でリフォーム工事が行われていることがわかりました。1階の人が退去したことは明らかです。ですがそのときでも浴槽の下から叩くような音は相変わらず聞こえていました。このことから、叩くような音は使い終わったお湯が配管を通って一度膨張し、その後に冷えて縮小する過程で起きているのだろうと推測しました。
まもなく1階に誰かが入居した気配が感じられました。そのうち浴槽の下からの音が人為的に起きている感じや、ベッドを突き上げるような振動が再び起きるようになりました。
一度退去した人がまた入居したのかとも思いましたが、同時にさすがにそんなことまでする人はいないだろうとも思いました。しかし同じ現象が再び感じられるのでそうともいいきれません。
61歳で退職して別のアパートの1階に住んでいますが、入居した当初、しばしば2階の人が女性の声で外に向かって大声で何やら叫んでいました。精神的に不安定な人なのかなと思いました。1年ほど過ぎた頃から2階の床を思い切り踏みつけるドシンというもの凄く大きな音が1日に数回聞こえるようになりました。2階の人は階段を昇るときはトントンと音を立てるのでわかるのですが、降りるときはまったく音をたてずに降りるので、いつ外出したのかわかりません。ようやく2階の住人に大きな音を出すのは止めてくれと抗議することができました。その後1ヶ月ほどは静かだったのですが、そのうちにまた床を思い切り踏みつけるドシンという大きな音が聞こえるようになりました。なぜ2階の人が床を思い切り踏みつけて大きな音をたてるのか理由はわかりません。しいて挙げれば、私が引きこもりのような生活をしているためなのかもしれません。2階からの音の他に隣の1階との壁から、ベッドで寝ようとするとガタガタと物音がすることがしばしばあります。なにか嫌がらせをされているような感じです。
いろいろな抗精神病薬を服用しても変化がないので、私としてはこれらの音は実際に起きていると確信しています。聞こえるのは物音だけで人の声は聞こえません。それとも私は統合失調症で、これらの音が聞こえるのは統合失調症の症状なのでしょうか。
林: あなたは統合失調症で、あなたが嫌がらせと感じている音が聞こえるのは統合失調症の症状だと思います。「思います」というより、ほぼ間違いないでしょう。どれも統合失調症として典型的な症状だからです。
いろいろな抗精神病薬を服用しても変化がない
と質問者は認識しておられますが、メールには薬の名前の記載しかありませんので、この【4102】のケースの症状に抗精神病薬の効果が本当にないと言えるかは不明です。抗精神病薬は十分な量を十分な期間服用しなければ効果はないからです。一方、統合失調症の一部には、抗精神病薬の効果が十分に見られないものもありますので、仮にこのケースで抗精神病薬の効果がなかったとしても統合失調症の診断を否定する根拠にはなりません。
私は高校に入学した頃から対人恐怖症の症状が現れるようになりました。
これがこの【4102】のケースに最初にみられた統合失調症の兆候です。しかしその後、特に治療も受けることなく軽快し、10年以上が過ぎてから、
30歳頃、それまでは気にならなかった周囲の目が気になるようになりはじめました。
という形で症状が現れ、以後、症状は消長しつつ60歳代の現在まで続いています。
症状以外についてのこのケースの生活状態は不明ですが、61歳で退職し と書かれていることからは、就職されていたことは確かで、それが若い頃からの継続就労だとすれば(メールの書き振りからはどちらかというと継続就労していたと推定できると思います)、社会的に特に問題なく何十年も生活されていたことになりますので、現代の診断基準にあてはめれば、統合失調症とは診断できないことになります。
しかしこの【4102】のケースは、脳内には統合失調症の陽性症状を発生させるものと同じメカニズムの変調(おそらくはドーパミン系の変調。少なくとも変調の一部がドーパミン系にかかわることはまず確実)が存在していると思われます。このようなケースは実際にはかなり多く潜在していると私は推定しています。
(2020.8.5.)