【3962】甲状腺疾患と統合失調症様症状について
Q: 40代女性です。 いつも拝読しております。
甲状腺疾患と、統合失調症様症状、さらに婦人系疾患について教えてください。
私は橋本病を患っている40代ですが、20代の頃、非定型精神病として閉鎖病棟に入院したことがあります。以来、オランザピンを服用しています。
最近、新しい甲状腺専門医の方に診てもらったのですが、オランザピンを処方してもらっていると伝えたところ、橋本病などの甲状腺疾患でも、統合失調症様症状が出ることがあるし、実際その方も精神病棟のある病院に勤務していたそうで、両者は相関があるとおっしゃいます。
そこで、チラーヂンを増量してもらいました。以来、精神的に均衡もとれているような感覚です。
とはいえ、昨年子宮を全摘し、生理前によく精神が荒れていたのがなくなったせいで精神が安定しているのかもしれません。
甲状腺専門医の方は、もうオランザピンをやめてもらったらどうかと言うのですが、精神科医の方は、そんなこと言うなら増量するぞと言います。
このような、分野横断的な悩みはどうお医者にかかれば適切に診断してくれるのでしょうか。
私は精神疾患の再燃が怖いので、その再燃の可能性が下がったのか知りたいです。神のみぞ知る、でしょうか。
林:
橋本病などの甲状腺疾患でも、統合失調症様症状が出ることがある
それはその通り正しいです。但し、「統合失調症様症状」と「統合失調症」は似て非なるものです。
そこで、チラーヂンを増量してもらいました。以来、精神的に均衡もとれているような感覚です。
これだけを読むと、チラージンが精神症状に効いたように見えますが、そもそもチラーヂンを増量する前の精神症状がどのような内容でどの程度であったかが不明です。
20代の頃、非定型精神病として閉鎖病棟に入院したことがあります。以来、オランザピンを服用しています。
この記載からはむしろ、精神症状は安定していたように見えますが、そうではなかったのでしょうか。
仮に「ある程度は安定していたが、チラージンを増量してからさらに安定した」ということだとしても、それはオランザピンが不要だったとか、診断が統合失調症でなかったと考える根拠にはなりません。精神症状のうちの、橋本病による部分が良くなったとみることも十分に可能ですし、
昨年子宮を全摘し、生理前によく精神が荒れていたのがなくなったせいで精神が安定しているのかもしれません。
そのようにみることも可能です。
甲状腺専門医の方は、もうオランザピンをやめてもらったらどうかと言うのですが、
それは危険な提案です。この甲状腺専門医は、「(1)甲状腺疾患でも統合失調症様症状が出ることがある。(2)非定型精神病(などの精神病性障害)の症状は統合失調症様である。(3)【3962】の質問者は甲状腺疾患である。(4)よって、【3962】の質問者の統合失調様症状は甲状腺甲状腺疾患によるものである」と推論しているようですが、この推論は論理だけの観点からみても間違っています。たとえば、「(1)風邪でも熱が出ることがある。(2)マラリアの症状は熱である。(3)患者Aは風邪である。(4)よって患者Aの熱は風邪によるものである」という推論と、この甲状腺専門医の推論は、論理的に全く同値です。この甲状腺専門医の推論が間違っていることは明白だということは容易に理解できると思います。
このような、分野横断的な悩みはどうお医者にかかれば適切に診断してくれるのでしょうか。
この程度では「分野横断的」とは言えません。甲状腺疾患で精神症状が出るのは決して珍しいことではありませんから、甲状腺専門医でも、精神科医でも、正しく診断治療できることが当然に求められます。
私は精神疾患の再燃が怖いので、その再燃の可能性が下がったのか知りたいです。
質問者は、A. 精神病性障害と橋本病の両方に罹患している。 B. 橋本病のみに罹患していて、精神病症状は橋本病による。 のどちらかであると考えられます。どちらであるにしても、橋本病を適切に治療することで、再燃の可能性は下がります。但し、それは抗精神病薬(このケースではオランザピン)を中止してよいという判断には直結しません。慎重に減薬するという方策なら考えてもいいと思います。
(2020.1.5.)