【3746】仕事前に嘔吐を繰り返していた過去について

Q: 林先生はじめまして。質問される方へ、の2ページ、しっかり拝見いたしました。
過ぎたことをお聞きするのは、現在悩まれている方に申し訳ないとも思ったのですが、自分の過去と向き合うため、質問させていただこうと思った所存です。
私は30代前半の女性です。
20代後半の頃、精神科に通っていた経験があります。病名について主治医にお聞きした際、はぐらかされるばかりでちゃんと仰ってくれなくて、今になって、何だったんだろうと気になっております。

私は当時、夜勤のある病院で看護師をしていました。就労して5~6年目程度だったと記憶しています。そこの職場は、3件目の職場でした(一つ目、二つ目の職場の辞めた理由は、経済的なことであったり、立地的なことであったりしたため、年数の割に職場を転々とはしていましたが、特別な何かがあったわけではありません)。

教育体制として新卒でない既卒のスタッフに対しても、一応ペアの先輩が(勿論付きっきりではありませんが)つく、というものがありました。
その先輩(Aさん)のことが本当に苦手でした。

例えばカンファレンス等、人前で質問され、Aさんが望んでいる答えが出ないと、ため息をつかれたり馬鹿にした態度をとられました。
(そのカンファレンスは、患者各々の観察事項等の確認の時間であり、患者の病態に応じた項目を挙げていたのにも関わらず散々バカにするようにため息をつかれた挙げ句、答えを求めると「個室料の承諾がとれているか! わからないの?!」等、ずれた返答をされる)
また、朝、スタッフ皆でしなければならない仕事の時間に急ぎではない仕事を「今これやって」と指示をされ、他のスタッフと不和を生むようなことを言われました。
(実際、他のスタッフに「何で今それしてるん?」と聞かれ、「Aさんに言われたんです」と言うと、周りもAさんが私にきつく当たっていることをわかっているので「そう…なら仕方ないね」という反応でした)
月日が経って、正直具体的なことは、もう他にあまり思い出せませんが、Aさんに会うことが本当に日々辛かったことだけははっきりと覚えています。

はじめは、目がとても見づらくなり、ナースコールの文字が見えてはいるのに文字として認識できづらくなりました(これに関しては、視能訓練士の友人から、ストレスによる調節障害ではないか、と言われました)。

徐々に、朝、起きて準備は出来るのに、さて家を出ようとすると身体が動かなくなったり、動けても嘔吐が止まらず、家を出られなくなるようになりました。
毎日ではなかったのですが、どうしてもだめでした。
Aさんを意識しすぎているからだと自分でも思い、Aさんの勤務を見ないようにし、いつ顔を合わせるのかわからない状況にしても、やはり変わりませんでした。
また、出勤できても、Aさんと挨拶程度ではない会話をすると、そのあと嘔吐してしまうという感じでした。
だいたい、遅刻しても11:00頃には、とりあえず動ける程度には回復するので、そこから出勤したりもしましたが、徐々に、周りのスタッフからの風当たりもきつくなりました。

朝の身体の動かなさや嘔吐が始まった頃から、精神科に通うようになりました。
ジプレキサを処方されてドロドロに眠気が出て飲めなかったり、紆余曲折を経て、ドグマチール、レクサプロ、リーマス、頓用でセルシン が最終的な処方内容でした(用量がわからずすみません)。

そんな中でも夜勤をしていたのですが、ある日、電子カルテのログイン番号がどうしても思い出せなくなりました。
今まではログイン画面になれば反射のように入力できていたものが、どうしても思い出せないのです。ショックでした。
日勤前の上記症状も一向に治まらず、職場側から(看護師のトップと威圧的な面談を数回受けました)も、半ば「進退を決めなさい」に近い感じで、主治医からの勧めもあり、3カ月休職することになりました。

それと前後して、友人から、「落ち込むタイミングが生理の周期に近いんじゃない?」との指摘を受け、主治医にも相談の結果、婦人科で月経前症候群かもしれないと言って(実際にはホルモン値は問題有りませんでしたが)ピルの内服が開始になりました。
婦人科の先生は、あまり、精神的な病には詳しくなさそうな感じで、実際、「僕はあまりよくわからないけれど…」と言いながら処方してくださいました。

3カ月の休職期間は、ほぼそんな症状も出ず、穏やかでした。
主治医に「気分転換に南の島でも行っておいで」と言われ、真に受け、沖縄に1人で行ったりもしました。治るために精一杯でしたが、断片的にしかその旅行の記憶がありません。たしか楽しかったはずなのですが。

そして、復職しました。前と病棟が変わりAさんとも会わずに済みました。しかし、2日目、看護師のトップと顔を合わせた途端、嘔吐感が戻り、結局4日行ったところで、5日目、朝から動けなくなり、職を辞しました。
結局自分はだめだ、と、頑張りきれなかったことに、とても落ち込みました。

3カ月半程無職の期間があり、現在の職場に転職しました。
転職してからも少しの期間は薬もお守り代わりに服用していましたが、全く症状もでず、主治医と相談をして内服は終わり、治療終了になりました。
現在、その仕事を続けていますが、充実感や仕事内容による疲労感はあるものの、以前のような精神的な辛さや、身体的な症状に悩まされることはなくなりました。

上記はすべてで一年半ほどの出来事でした。
一体当時の私には何が起きていたのでしょうか。推測される病名を教えてください。過去を振り返ることで未来に生かしたいので、教えていただけると幸いです。

 

林: 当時のあなたの症状をひとことで表すとすれば、 身体化 と呼ぶのが最も適切でしょう。身体化とは、精神的なストレスが身体症状として現れた、という意味です。古典的にはヒステリーと呼ばれていた症状です。また、診断基準に厳密に適合するかどうかは別として、現代の診断体系では変換症(これはDSM-5に収載されている診断名です。DSM-Ⅳの日本語版では転換性障害という診断名でした)にほぼ合致します。
古典的な病名でいうところのヒステリーとは、現代の日常用語としてのヒステリーとは意味が異なり、自分が避けたいと思っていることを避けるという目的にかなった身体症状(あるいは精神症状)が現れることをいいます。それが意識的になされれば詐病・仮病ですが、無意識的になされたとき(つまり自分ではそんな症状を演じようという気はさらさらない)、ヒステリーという病名がついた(つまり古典的にはヒステリーという病名がついた)ということです。

はじめは、目がとても見づらくなり、ナースコールの文字が見えてはいるのに文字として認識できづらくなりました

朝、起きて準備は出来るのに、さて家を出ようとすると身体が動かなくなったり、動けても嘔吐が止まらず、家を出られなくなるようになりました。

Aさんと挨拶程度ではない会話をすると、そのあと嘔吐してしまう

ある日、電子カルテのログイン番号がどうしても思い出せなくなりました

これらはいずれもAさんとの仕事を避けるという目的にかなったもので、しかし意識的にしているわけではありませんので、古典的なヒステリーという病名に合致します。その意味でこの【3746】の症状は非常に典型的なものです。このような症状を目的反応と呼ぶこともあります。

(2018.11.5.)

05. 11月 2018 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A