【3741】失踪を繰り返すルームメイト
Q: 私が知り得る限りで、このQ&Aに必要と思われる情報、また同じような経験をされる方もいるかもしれないと思い、他の読者の方と共有したい内容を書きます。
長くなりますが、読んでいただければありがたいです。
私は現在海外に住んでいる30代女性です。同居している外国人ルームメイトA(女性・50歳・飲酒・喫煙・違法薬物使用歴ともになし)に統合失調症の疑いがあります。
私はAと同居して2年になります。Aは部屋の掃除や臭い、テレビの音などに対するこだわりがあるようで、他の入居者と時折トラブルを起こす事から、「ちょっとめんどくさい人」との認識でやり過ごしていました。たまに夜中に歌を大声で歌いだしたり、1日中ひたすら洗濯を繰り 返す、かと思えば部屋から何日も出てこず、本人が飼っている犬の世話を数日全くしないなど、不可解な行動も見られていたのですが、Aの家族や本人からAが幼年期~十代の頃まで母親から虐待を受けており、そのことが原因で「双極性障害だ」と聞いた事があり、躁またはうつ状態なのかな、と思っていました。
1)
昨年、Aが突然失踪するという出来事が起きました。
夜遅くに軽装で外出したという他のルームメイトの目撃談を最後にAが車、携帯電話・ノートパソコンなど身の回りの物全て、ペット(犬)も自宅に残したまま音信不通で1週間帰宅しなかった為、家族に連絡の上、警察に捜索願を出しました。
警察では事件事故の他にも精神疾患の疑いありという事で病院の入院患者なども調べてもらったのですが、該当者はなく、Aの部屋からも精神疾患の薬や診察券などは発見されませんでした。その後の捜査で、Aは外国(本人が以前住んでいたことのある国・飛行機で10時間の距離)にいることが判明し、警察の捜査は本人の意思での失踪という形で打ち切りになりました。
Aの消息は家族が該当国に住む本人の友人に尋ねまわったものの、何の手がかりもなく生死不明でしたが、失踪から2か月近く経った頃に突然Aから連絡(A が友人宅を訪れ、既に事情を知っていた友人が家族に連絡するように促した)がありました。Aによると「パニック発作に襲われ ていた。連絡を取ろうにも何も持っていなかったので連絡できなかった」との事でした。ケガもなく無事だという事で、皆安心し、しばらく当国に滞在するという本人の意思を尊重して、様子を見ることになりました。
当時Aの家族からは本人の失踪前にAの知人が自殺した事、飼っている犬が高齢で長くない事を気にかけていたと聞いており、ペットの死から逃れるための行動だと思っていました。(ただし、失踪の前からAはペットに対してネグレクト気味でした。)ペットはAからの連絡の直前に老衰で亡くなりました。
その後1か月ほど経ってAが連絡もなく突然帰宅し、ルームメイト皆を驚かせました。「帰ろうと思って空港に行った」そうで、家族にも帰国の連絡はなかったようです。本人は自分の行動やペットに対しては何も触れず、上機嫌でお土産を配り、長期の旅行に出かけていた、という風でした。私たちが心配していた事、警察に連絡した事をAに話しても、どうして私たちが警察に連絡したのか理解ができないという事を言っていました。
この件以降、私も含めルームメイトたちはAとは何となく距離を置くようになっていたのですが、Aも居心地が悪いと感じていたのか、1週間ほど家を空けては戻る、という事を繰り返していました。
2)
このような短期の失踪めいたものは常態化していたので、皆Aの事を以前のように気にかけることが少なくなっていたのですが、今度はAが車で出掛けたまま、3週間戻らないという事が起きました。(前回の失踪・Aの帰国から約8か月経過。)
当初は以前と違い車で出かけていること、携帯電話やノートパソコンも持って行っていることから、様子を見ていたのですが、携帯電話に連絡しても繋がらず、皆が心配し始めたころに、ルームメイトの1人がAを発見しました。
自宅近くの路上でAに声をかけられ、一緒に帰ってきたとのことでした。Aの第一声は「ごめんなさい。あなたが怒っていることはわかっています。」だったそうで、意味の分からなかったルームメイトが理由を聞くと、「私が家を燃やしたから」と答えたそうです。
車で出て行ったはずのAが、なぜ手ぶらで歩いて帰ってきたのか、今までどうしていたのかと聞いたところ、「Aが話した内容」が以下です。 (順番はばらばらだったのですが、時系列に書き換えています。)
・自室が暑くて数日眠れず、ホテルに泊まろうと思いホテルに行った
・ホテルで以下の「声」が聞こえてきた。
・「自分が扇風機をつけたまま部屋を出たことが原因で発火し、家が燃えた」
・「そのことで大家・ルームメイトが怒っている。帰る場所はない」
・「ここ(ホテル)にいてはいけない、皆が殺しに来る」
・Aはホテルを出て近くの病院に行ったが、保険がない為診療拒否された。
(※精神科のある病院。本人は保険に加入しており、治療が受けられたはずなので、事実関係は不明ですが、客観的な事実として、Aの車はこの病院の駐車場に放置されていました。)
・車は駐車場の駐車カードをなくして出庫できなかったのでそのままにした。
・その後声が「ラスベガスに行け」というので、長距離バスに乗った。 しかし途中でラスベガスには行きたくないと思い直し、途中下車。
・途中下車した町(自宅から100kmほど離れた場所)で所持品(カバン・財布・携帯・ノートパソコン・車のカギなど)を全てゴミ箱と草むらに捨てた。
・この町でホームレスとして10日間食べ物を食べずに徘徊していた。自分はホームレスだと思っていた。食事をしなかった理由は「お金がなかったから」。
(※事実関係は不明ですが、この時期に関わったホームレスシェルターまたはボランティアの方が異変に気付き、病院へ連れて行ったのではと推測しています。)
・病院に2週間入院した。毎日点滴をうたれてアレルギーが出てかゆい。辛かった。低血圧なのに高血圧の薬も打たれた。病院にもホームレスだと答えた。
・病院にいる間に、自分には家があることを思い出した。家が燃えてしまった事で皆が怒っているので帰るのは怖いが、それでも謝らないといけないし、皆が無事かも気になって、帰る事にした。病院の人がネットで家族と自宅の固定電話の電話番号を調べてくれたが、応答がなかった。(※着信記録から事実と推測。)
・お金がなかったので病院でお金をもらい、バスに乗った。途中でお金が足りなくなったので、バス停にいた人にお金をもらって家まで帰ってきた。
という事でした。
期間はわかりませんが自宅から離れた都市で入院していた事は処方薬、入院患者の私物を入れるビニール袋を所持していた事から事実と考えられます。着ていた服を除いて、身の回りの物を全てどこかで無くしている事も事実です。車は前述のように、自宅近くの病院の駐車場に放置されていました。サンダルのまま徘徊を続けたことにより、足の裏の皮がめくれてボロボロでした。
ここで初めて私がAは統合失調症なのでは、と思い、医師は何と言っていたのかとAに尋ねると、「統合失調症と言われた。でも私は違う」との事でした。
また聞こえてきた声には逆らえなかったのかと聞いてみた所、「声が言うから逆らえない」と言っていました。入院後は声は聞こえていないようですが、皆Aを心配していると言うと、「声が聞こえるようになったら皆に知らせるから大丈夫」とも言っていました。
Aはもとより肥満体形ですが失踪前に比べてだいぶやせており、帰宅後数日は食事をとっていなかった反動なのか、「高血圧の薬を飲まされたせいで低血圧になってお腹がすく」「このご飯はまずいから皆が食べたがらないので食べてあげた」と言い、家にある食物を片っ端から食べていました。(ラーメン2杯、1リットルのアイスクリーム、ポテトチップス、ケーキを朝食として一度に食べてしまう。但し以前から時々過食行動があり、夜中に他のルームメイトのお菓子や食事を食べてしまう事がありました。)
また帰宅後1週間ほどAはテンションが高く、家の中を鼻歌を歌いながらスキップで移動していたり、夜に私の部屋に来ては「秘密の話」を話し続けていました。その内容は、Aの妄想と疑われるものでした。(昔に有名人に付きまとわれていた、自分のことをモデルに書かれた本も出版されている。子供の頃に男性女性の両方から性的虐待を受けており、詳しい記憶はないが、意識で感じるので事実、他のルームメイトが引っ越し当初から嫌がらせをしてくるが赦す、など。)
長い間自分の中に怒りを抱えていたが、自分がいかに自分の中にある怒りを解放できるようになったかを執筆したい。同じ悩みを持つ人を導きたい、という事も言っていました。
半年ほど前に初めて絵を描いたと言って絵も見せてくれたのですが、虹色の背景の上に大きな目が書いてあり、目玉が溶けていました。
あとAは自分自身の声量が実際より大きく感じているようで、時折「あっ、私は声が大きくて。気をつけて声を小さくするようにしてるのについ。ごめん」と繰り返していました。
酷い仕打ちを受けた証拠とAが持ち帰った処方薬を私に見せてくれたのですが、以下の名称でした。(私が名称をメモしていいかと聞いたところ、素直に承諾していました。)
・Haloperidol 10mg(退院後3日間用)5mg(その後の4日間用)
・Benztropine 2mg(頓服)・Amlodipine 5mg・Chilorthalidone 25mg
処方は、大学病院の精神科の医師によるものでした。
私が服薬を勧めても「薬を飲むなら死を選ぶ」、と言って拒否します。
退院後、一度も薬を飲んでいません。
処方薬と一緒に支援団体のカウンセリング予約メモもあり、退院時に何らかのカウンセリングを受けた模様ですが、次回の予約日(通常服用していれば処方薬を飲み終えたタイミング)には行っていません。自宅から遠いのもありますが。
現在は、Aは家族のもとに一時帰省しています。
Aは帰省前から暑くて眠れないと毎日訴え(夜の気温は20℃前後)、すべての自分の行動(昨年の失踪含む)が熱中症によるものだと信じており、帰省先からも電話で自宅が暑いかどうかを聞いてきます。
事前にAの家族にもAが統合失調症の疑いがあることは連絡したのですが、最初はAを病院に連れて行くと言っていたのに今はAの話を信じており、「Aは正常。失踪は熱中症のせい、今は回復しているので医師も薬も必要ない」と言っているばかりか、現在の住居の空調やルームメイトに問題があるとクレームをつけだす始末です。
Aも家族も、双極性障害である(あった)という事は認めていたので、統合失調症の可能性自体が受け入れられないのかもしれません。ただAが何らかのもどかしさや苦しさを感じていることは、本人の発言からもうかがえます。(今の人生は色々ありすぎる、この人生で輪廻転生を終わりにし、以降は生まれ変わりたくない、など。)
自宅に関しては、これまでの失踪時に家賃滞納を繰り返した事もあり、近く大家さんからAに退去勧告が出るそうです。家族・本人双方が治療拒否している現状、またAの行動により多くの人が何度もトラブルに巻き込まれていることも事実で、大家さんの措置は私を含め誰も異論はありません。
治療の事は本人に選択権があるのかもしれませんが、他人と全く関わらずには生活できない事を考えると、この先Aがどこに行ったとしても悲しい結末しか思い浮かびません。
私はAと暮らして2年ですが、Aが声が聞こえたと言い出したのは、今回が初めてです。
A自身はこの家に住んで3年だそうですが、他のルームメイトによると、最初の1年は失踪癖もなく、仕事もしていたとのことです。(現在は無職)
私はAの症状は気温が低くなれば解決するというものではないと考えています。
(経緯がわかりませんがおそらく)医師の診断ではAは統合失調症となっており、私も同感ですが、幻聴・妄想以外の行動(失踪・本人の異常な行動力・移動距離)が気になっています。
本人の話の内容から、失踪時の記憶がなくなっていたり、自分をホームレスと思いこんでいたりするのが、詳しくないですが以前テレビで見た「解離性遁走」という状態にも似ているような気もします。
今思えば昨年の海外への失踪時も本人が言わなかっただけで、最初の2か月は全くの音信不通だったし、ホームレスまではいかなくてもそれに近い形で徘徊していた可能性もあるな、と思っています。更に、A本人から以前に躁状態のエピソードとして聞いた話で、15~20年ほど前にあ る街に旅行に行った時に、眠れなくなり、夜通し歩き続けて気が付いたら20kmほど離れた所に来ており、そのまま数日ホームレスシェルターで過ごしたという話も今回の行動と類似しています。
統合失調症の症状として、Aのように失踪を繰り返すという事例はよくはあるのでしょうか? それとも他の疾患(または併発)の可能性が考えられますか?
もしかすると年齢的に更年期障害や認知症の可能性もあるのかなと思います。
先生のご意見をおうかがいできればと思います。
林: ご指摘の通り、Aさんは統合失調症に間違いないでしょう。
以前テレビで見た「解離性遁走」という状態にも似ているような気もします。
部分的には似ているところもなくはないですが、経過全体からみて、また、失踪時についての本人の語る体験からみて、解離ではなく、まず間違いなく統合失調症です。
ただし、以前の体験として語られている、
15~20年ほど前にあ る街に旅行に行った時に、眠れなくなり、夜通し歩き続けて気が付いたら20kmほど離れた所に来ており、そのまま数日ホームレスシェルターで過ごした
これについては、解離と考えることができます。けれどもこれは
今回の行動と類似しています。
とは言えません。表面的には類似していますが。
統合失調症の症状として、Aのように失踪を繰り返すという事例はよくはあるのでしょうか?
初発症状、あるいは、悪化時の症状として、失踪というのは少なからずあります。けれども多くはそれをきっかけに治療を受けることになりますので、失踪を「繰り返す」ケースはそう多くありません。
【0450】国内をさまよっている母と姉を助けたいは類似したケースと言えます。
【1136】失踪を繰り返す統合失調症の息子はただの駄目人間ではないでしょうかも統合失調症で失踪を繰り返していますが、【1136】は慢性化して人格水準が低下したことが失踪につながっていると思われますので、精神病症状の悪化による失踪である【3741】とは、「統合失調症で失踪を繰り返す」という表面的な事実は同じでも、背景はかなり異なります。
本人に病識がないのはそれがまさに病気の症状ですからやむを得ないとして、ご家族が統合失調症という病名を告げられているのにもかかわらずそれを認めないのは、(残念ながらよくあることですが)、本人から治療の機会を奪っている、または治療開始を遅らせている大きな要因で、悲惨な結末につながるおそれも強く危惧されます。
ご家族のこのような無理解の大きな原因の一つは、統合失調症という病気についての知識が一般にはあまりに乏しいことで、【3742】でご指摘されている通りです。この【3741】のようなケースが悲惨な結末に終わることを防ぐためには、統合失調症という非常に発生率の高い病気についての事実を、広く社会の人々に知っていただくことが必須であるとあらためて思います。
(2018.10.5.)