【3672】転換性障害の診断やいまの症状について
Q: 30代女性です。質問の注意事項を読み理解納得の上メールいたします。
20才くらいから精神科にかかっています。初めは抑うつ状態といわれました。頭痛と不眠がひどかったです。大学で地元を離れて発症しました。入学後、下宿で一人暮らしをしましたが、寮内や学校の学生に会うのがこわく、すぐに部屋に引きこもるようになりました。授業では、人前で話すことができずその機会があるのをおそれて出席しなくなりました。2ヶ月で地元に戻って療養しましたが、布団から起き上がれずひきこもって過ごす状態からよくならず、1年で退学しました。
その後、入院しなければならなくなり、転院しました。診断はされていませんが、摂食障害だったと思います。ほとんど食事を摂らず、食べてしまった後は10キロくらい歩くようにしていました。身長157センチで体重が36キロまで落ちました。その時もうつ状態と言われて入院しましたが、何度かの入院で転換性障害と診断が付きました。歩けず車椅子を使ったり、声が出ないことがありました。薬はたくさんのんでいたのでその時のものはあまりよくわかりません。パキシルやルボックス、デパケン、リスパダール、ジプレキサ、クエチアピンなどはのんでいたのを覚えています。不眠は今までよくなったことがないので、睡眠薬は欠かしたことはありません。
その後も転換性障害で10年くらい同じ病院に通院していましたが、遠くて通うのが大変だったのと、もう入院が必要になることはないと思いクリニックに変えました。転院前もたくさん薬が出ていました。デパケン、クエチアピン、エビリファイなどでした。しかし、のみ心地の悪さや何に効いているかわからないなどの理由から睡眠薬しかのんでいませんでした。それでも短時間の仕事はしていたし、一人暮らしもしていました。転院したクリニックでは大きく薬が変わりました。病名は気分変調症と転換性障害になりました。セルトラリンとセニランをのむようになり、初めセニランは頓服でした。セルトラリンは最大量まで増やす予定で、デパケン、クエチアピン、エビリファイは減らした後やめました。そしたら、途中から不眠と昼間の眠気がひどくなり、セルトラリンは50ミリ錠の1/4だけのんでブロチゾラムを夜にのみ始めました。セニランは5mgを朝昼夕になりました。
だんだん人に会うのがこわくなり、診察でも話ができなくなりました。パートで働いていましたが、家から出られなくなり休職になりました。その頃の状態ははあまりよく覚えていないのですが、訳の分からないままどんどん具合が悪くなっていく感じがしました。人だけではなく、周囲すべてがこわくなり、音に敏感になりました。一人で通院していて、あまり自分の状態も把握できていなかったので話もできないなか、薬はいろいろ試しました。セルトラリンをやめてリフレックスになりましたが、それからまもなく、飛び下りて死ぬんだと思いました。それをやめてからはサインバルタ、レクサプロ、と試しましたがリフレックスの時のことがこわく、少しの副作用でも感じるとのめなくなり、どちらも続きませんでした。不眠にはトラゾドン75mgがでて少し眠れるようになりました。その後、トリプタノールをためしのむことはできましたが、効果がなくトフラニール30mgに変わりました。また、トラゾドンはクエチアピン75mgに変更しました。その後もほとんど症状は変わらず、家から出られない、人に会えないで仕事は休み、クリニックにも行けなくなりました。久しぶりに行ったら、精神的な評価ができないので診察はむつかしい、入院も考えた方がよいと言われて病院に変わりました。その病院は若い女性の医師が担当でしたが、合わずに3回でやめました。その後4ヶ月ほど治療を中断しました。そこでの薬はロラゼパム0.5mg×2を朝昼夕、寝る前にブロチゾラムとロゼレムでした。
現在は紹介状なしでかかったクリニックに通っています。場面緘黙があり話すこと自体がむつかしいときがあるのでなかなか今の状態を伝えられず、何を伝えてよいかもわかりません。一度の診察にひとことくらい、伝えられることを筆談で伝えています。いまのくすりは朝エビリファイ液3ミリ、アルプラゾラム0.4ミリ、寝る前レクサプロ5ミリ、ロゼレム8ミリ、ルネスタ20ミリです。このくすりになって、聴覚や対人の過敏さがだいぶへりました。外から聞こえる音が全て同じ大きさに聞こえてうるさく必要なことが聞き取れなかったのが、すごく大きい音と苦手なサイレン、他人のくしゃみの音以外は聞き分けられるようになり、外出がむつかしかったのが、よる暗いときにでられるようになり、いまは夕方や明け方なら少し明るくても外出できます。夜の睡眠は2〜3時間です。
最近気になっているのは、ぼーっとして周囲が遠のいていく感覚になることと、その後に自分でも抵抗できない力で自分を乗っ取られる時があることです。とても幼い子どもになったように一人でおしゃべりしたり、いつもと違うぶっきら棒な言葉で暴言を吐いたり、とつぜん壁に頭を打ちつけたりします。後、ぬいぐるみをとても大切にしていて、ひとりひとりに名前をつけておともだちとして一緒に暮らしています。解離かなとも思いましたが、逆らえないだけでほとんど覚えているので違うと思います。このことはクリニックでは伝えていません。
今のクリニックの先生は初診では時間かけてよく話を聞いてくれました。よく覚えていないことを聞かれて考えこんでいると、大体こんな感じかなと聞いてくれました。一度、診察中に具合が悪くなり、立ち上がれずそのまま休んでも身体が震えて帰れそうにもなくなった時には、楽になる注射をして行かないかと言って注射をした後、また休んでようやく帰れるようになってことがありました。その後の診察では薬をのめているか、睡眠や食事、外出や日中の生活について簡単に聞かれる程度で終わっています。わたしが何かそれ以外のことを伝えると、そっかと言って、薬を2週間分だすからのんで、と5分くらいで切り上げられます。なので上に書いた気になっていることも伝えていいのか分かりません。
質問は
1.症状から考えられる診断は転換性障害に変わりないでしょうか。いまのクリニックでは診断は聞いていません。エビリファイが使われていて更に効果があるということから、統合失調症の可能性はないでしょうか?
2.精神科の診察ではなにをお話しすればよいですか。上に書いたような気になっていることも伝えるべきですか?
の二つです。ご回答いただけると幸いです。
林: この【3672】の病態は、解離と表現するのが最も適切でわかりやすいと思います。転換性障害ももちろん正しいのですが、全体像は解離で、解離の症状として精神症状と身体症状が現れているというのが最もすっきりした説明になります。(解離の症状としての身体症状が転換性障害です。解離性運動障害と呼んでも同じ意味です)
解離性障害、転換性障害という一見全く違う二つの診断名が出て来ると混乱されると思いますが、この混乱は現代の精神医学の診断基準の混乱した状況を反映しています。
そのことも含め、この【3672】のポイントについて説明します。
20才くらいから精神科にかかっています。初めは抑うつ状態といわれました。頭痛と不眠がひどかったです。大学で地元を離れて発症しました。入学後、下宿で一人暮らしをしましたが、寮内や学校の学生に会うのがこわく、すぐに部屋に引きこもるようになりました。授業では、人前で話すことができずその機会があるのをおそれて出席しなくなりました。2ヶ月で地元に戻って療養しましたが、布団から起き上がれずひきこもって過ごす状態からよくならず、1年で退学しました。
おそらくこの発症の前に何らかの大きな出来事があったか、または、このころまでの成長の過程に何らかの(もしかすると慢性的な)トラウマ的な出来事があったのだと思います。
その後、入院しなければならなくなり、転院しました。診断はされていませんが、摂食障害だったと思います。ほとんど食事を摂らず、食べてしまった後は10キロくらい歩くようにしていました。身長157センチで体重が36キロまで落ちました。その時もうつ状態と言われて入院しましたが、何度かの入院で転換性障害と診断が付きました。歩けず車椅子を使ったり、声が出ないことがありました。
症状の記述がもう少し詳しくほしいところですが、「歩けず車椅子を使ったり、声が出ないことがありました」は転換性障害すなわち解離性運動障害とみていいでしょう。どちらも心因による身体症状(運動障害)を指す診断名です。
だんだん人に会うのがこわくなり、診察でも話ができなくなりました。パートで働いていましたが、家から出られなくなり休職になりました。その頃の状態ははあまりよく覚えていないのですが、訳の分からないままどんどん具合が悪くなっていく感じがしました。人だけではなく、周囲すべてがこわくなり、音に敏感になりました。
この部分ももう少し具体的な情報がないと何とも言えませんが、全体の経過からみて、解離としての精神症状が増悪していた時期だったと思われます。
いまのくすりは朝エビリファイ液3ミリ、アルプラゾラム0.4ミリ、寝る前レクサプロ5ミリ、ロゼレム8ミリ、ルネスタ20ミリです。このくすりになって、聴覚や対人の過敏さがだいぶへりました。外から聞こえる音が全て同じ大きさに聞こえてうるさく必要なことが聞き取れなかったのが、すごく大きい音と苦手なサイレン、他人のくしゃみの音以外は聞き分けられるようになり、外出がむつかしかったのが、よる暗いときにでられるようになり、いまは夕方や明け方なら少し明るくても外出できます。
「外から聞こえる音が全て同じ大きさに聞こえてうるさく必要なことが聞き取れなかったのが、すごく大きい音と苦手なサイレン、他人のくしゃみの音以外は聞き分けられるようになり」はやや奇妙な症状ですが、解離として少なくとも矛盾はありません。
なお、この経過に薬がどの程度効果があったかは不詳です。薬が効いたとは言い切れず、自然経過だったかもしれません。もちろん逆に、薬の効果でないと言い切ることもできません。
最近気になっているのは、ぼーっとして周囲が遠のいていく感覚になることと、その後に自分でも抵抗できない力で自分を乗っ取られる時があることです。とても幼い子どもになったように一人でおしゃべりしたり、いつもと違うぶっきら棒な言葉で暴言を吐いたり、とつぜん壁に頭を打ちつけたりします。後、ぬいぐるみをとても大切にしていて、ひとりひとりに名前をつけておともだちとして一緒に暮らしています。解離かなとも思いましたが、逆らえないだけでほとんど覚えているので違うと思います。
解離であることはかなり確実です。
解離かなとも思いましたが、逆らえないだけでほとんど覚えているので違うと思います。
それは解離を否定する理由には全くなりません。(解離だからといって記憶をなくしているとは限りません)
このことはクリニックでは伝えていません。
重要な症状ですので、必ず伝えてください。
1.症状から考えられる診断は転換性障害に変わりないでしょうか。
この回答の冒頭に記した通り、解離と表現するのが最も適切でしょう。解離の症状として精神症状と身体症状が出ているというのが、この【3672】の全体像を表す最も適切な表現です。
現代の診断基準であるDSM-5では、転換性障害と解離性障害は形式上全く別項目になっていますが、それは表面的に現れた症状を重視するというDSM-5の基本方針によるもので、症状発生の原因に基づけば、転換性障害と解離性障害は同じ項目か、少なくとも近い項目として分類されるのが正当です。もう一つの診断基準であるICD-10には転換性障害という診断名はなく、解離性運動障害として、解離の中に分類されています。
いまのクリニックでは診断は聞いていません。エビリファイが使われていて更に効果があるということから、統合失調症の可能性はないでしょうか?
まずないと思います。
2.精神科の診察ではなにをお話しすればよいですか。上に書いたような気になっていることも伝えるべきですか?
必ず伝えてください。
この【3672】の症状改善のためには、薬物療法は補助的にすぎず、時間をかけた精神療法が必要です。適切な治療を受けるためにも、このメールの内容は必ず伝えてください。さらに言えば、このメールの記載だけではまだまだ不十分で、もっと詳しい症状や、そもそも症状が発生したころやその前の状態についての情報が必須といえるほど重要です。
(2018.5.5.)