【3638】行為障害と発達障害は関係があるのでしょうか  

Q: わたしは50代女性で、17歳(もうすぐ18歳)の娘がいます。
先生の御著書『虚言癖、嘘つきは病気か』や『統合失調症という事実』、過去のQ&Aのすべて、そして特に「行為障害」に関する過去ログを熟読させていただいた上で、質問させていただきます。

娘は、小学校5年のときに不登校がちになり、以来、中学一年の初学期にちょっと通っただけであとは完全不登校で、ほとんど登校しないままに中学を「卒業」しました。
彼女の異変に関しては、わたしが(娘が小学校低学年の頃に)離婚したことと関係があるのだろう、と反省しています。
ですが、実は娘には、変わった点は離婚以前からあり、幼稚園時代に「友達にかみついた」「コップで友達を殴ってけがをさせた」などの報告を園からたびたび受けていました。(こちらは、その都度相手の親に謝ったりなどしていました。)
暴力性は、離婚後には「家庭内暴力」というもっと明確な形で発現しました。具体的にはわたしに殴りかかったり、ものを投げつけたり、家の壁を破壊したり、刃物を振り回したりなどです。不登校と同じタイミングで始まりました。

その他、中学時に不登校で引きこもっている間、さらに恐ろしい事件(本人が特定されてしまうと困るのでここには書けません。すみません、)を起こし、警察沙汰になりました。スマホを持った女子が起こす最低最悪の事件、あまりに下品な内容で書くのもはばかられます、と言えば、なんとなく推察いただけると思います。
(その他わたしの財布からお金を盗む、などの盗癖もあり、虚言癖もありました。)

ここに至り、ある相談機関の方から「発達障害の疑い」を示唆されたので、初めて精神科マターだと気づき(それまでは単なる非行のようなものと捉えていました)、病院に連れて行って、WISC検査を受けさせました。結果、有意差ありとのことで「ADHDもあるが、よりアスペルガー寄りの発達障害」という診断を受けました。
また、一方で、この病院を紹介してくれた精神科クリニックの医師には「発達障害もたぶんあるだろう。ただ、一連の行動を説明するなら、行為障害という診断になる。」とも明言されました。

その後、通信制高校に入学させましたが、実質的にはあまり登校はしていません。
まもなく18歳になるので、「行為障害」から「反社会性人格障害」に昇格(?)すると今後どうなるのだろうか、と心配でたまりません。

今の娘は、警察沙汰になるような問題は起こしていませんが、ネット通販で着払いで(保護者が玄関先でお金を払わざるを得ない状況を作り)次々と物を買い続ける「買い物依存症」のような状態で、困っています。また、いわゆる「情緒不安定」というのでしょうか、公共の場で理由不明に突然泣き出すなど、ちょっと様子がおかしい時があります。
なにか「境界性人格障害」を思わせるような色彩も出てきているように思います。また、依然、嘘もつきます。いずれにせよ、人格障害予備軍なのでしょうが、ちょっとわからないのが、「発達障害と人格障害の違い」です。

「行為障害」は、あたかも出世魚のように、18歳には「反社会性人格障害」に「進化」する。つまり、最初から「人格障害」の要素があったのだけれど、ただ人格が完成していない小児対象だと「人格…」というタイトルをつけられないので、とりあえず「行為障害」というプラットフォームに分類された。そのようなことなのかと捉えています。
うちの娘の「行為障害」は、発達障害と関係があって、その他の「人格障害」も発達障害を基礎(?)として発現するものなのか?
それとも「発達障害」と「人格障害」の間にはなんの関係もなく、うちの娘はたまたま「発達障害で、かつ、プレ反社会性人格障害である行為障害を併発していただけ」なのでしょうか?

誰にも訊けず、林先生にお教えいただけたらと思いまして、投稿させていただきます。もしもお答えいただけましたら幸甚です。よろしくお願いいたします。

 

林: 現代精神医学の疾患概念を直撃する鋭い質問だと思います。いや、ご家族に当事者をお持ちになる質問者にとっては、大変深刻な問題であることは間違いありませんので、「鋭い質問」というような表現は気楽で不快なものと感じられたかもしれません。そうでしたら申し訳ありません。

この質問のテーマ、すなわち人格障害(現代の診断基準の公式の訳語はパーソナリティ障害ですが、今回の回答では 人格障害 という言葉に統一します)と発達障害の関係については、精神医学の論文、および、私の私見を含め、複雑で長い話になりますが、できるだけ簡潔にお答えしたいと思います。

「行為障害」は、あたかも出世魚のように、18歳には「反社会性人格障害」に「進化」する。つまり、最初から「人格障害」の要素があったのだけれど、ただ人格が完成していない小児対象だと「人格…」というタイトルをつけられないので、とりあえず「行為障害」というプラットフォームに分類された。そのようなことなのかと捉えています。

その通りです。

うちの娘の「行為障害」は、発達障害と関係があって、その他の「人格障害」も発達障害を基礎(?)として発現するものなのか?

その通りです。
けれども、

それとも「発達障害」と「人格障害」の間にはなんの関係もなく、うちの娘はたまたま「発達障害で、かつ、プレ反社会性人格障害である行為障害を併発していただけ」なのでしょうか?

その可能性も残ります。

この病院を紹介してくれた精神科クリニックの医師には「発達障害もたぶんあるだろう。ただ、一連の行動を説明するなら、行為障害という診断になる。」とも明言されました。

非常に正確な説明だと思います。

以上が「できるだけ簡潔」な回答ですが、少々補足してみます。

「行為障害」は、あたかも出世魚のように、18歳には「反社会性人格障害」に「進化」する。つまり、最初から「人格障害」の要素があったのだけれど、ただ人格が完成していない小児対象だと「人格…」というタイトルをつけられないので、とりあえず「行為障害」というプラットフォームに分類された。そのようなことなのかと捉えています。

その通りです。
但し、現代の公式の診断基準であるDSMには、そこまでは明記されていません。DSMの記載だけからは、ほぼ同じ症状でも(より正確にいえば、かなり類似した症状で、根本は共通していると解釈しうる症状でも)18歳より前は行為障害、18歳以後は人格障害と診断する(実際は「ラベルをつける」と言ったほうが正しいでしょう)ということになります。
その背景には、
1.行為障害から人格障害になると証明されているわけではない
2. 行為障害から人格障害になる人もならない人もいる (これは当たり前なのですが。つまり、医学において「AからBになると証明されている」という時、それは統計的に証明されている and/or 医学生物学的にAからBになるメカニズムが証明されている ということであって、個々のケースについては、「AからBになる人もならない人もいる」というのが事実です。それでもここでいま殊更に「行為障害から人格障害になる人もならない人もいる」と言ったのは、3.の事情によります)
3. 行為障害も人格障害も、そう診断されることは本人な不利な扱いを受ける可能性が低くないので、診断基準は慎重な記載になっている
などの事情があります。

うちの娘の「行為障害」は、発達障害と関係があって、その他の「人格障害」も発達障害を基礎(?)として発現するものなのか?

その通りです。
発達障害と人格障害の関係については、一般論としては上記の通りですが、個々のケースを見れば、その二つは同一の障害で(少なくとも、原因となる脳内の基盤としては共通している)、「発達障害を基礎として発現した人格障害」という表現が適切な場合はしばしばあります。なお「発達障害を基礎として発現した人格障害」は、発達障害を起点として人格を見た場合の表現であって(【3638】の質問者の現代の立ち位置からすれば、発達障害を起点とするのは自然です)、一歩下がって全経過と全体像を見れば、「人格障害の前駆状態が、未成年の時期から認められていた」という表現になるでしょう。

けれども、上記1., 2. という事情がありますから、この【3638】については

それとも「発達障害」と「人格障害」の間にはなんの関係もなく、うちの娘はたまたま「発達障害で、かつ、プレ反社会性人格障害である行為障害を併発していただけ」なのでしょうか?

その可能性も残るということになります。
というより、厳密にはそれさえわからないというのが正確ということになります。つまり、
うちの娘の「行為障害」は、発達障害と関係があって、その他の「人格障害」も発達障害を基礎(?)として発現するものなのか?
なのか
うちの娘はたまたま「発達障害で、かつ、プレ反社会性人格障害である行為障害を併発していただけ」
なのかは、「わからない」が、正解ということになります。

けれども、それは統計的にはわからない、ないしは、現代の医学で「わかる」という基準に達するまでのデータがないため公式にはわからないが正解ということであって、この【3638】だけに限っていえば、メールに書かれたこれまでの経過から見て今後、人格障害が明らかになる可能性は高いと私は考えます。これは私の私見ということになります。
そこで、私であれ誰であれ、私見を廃して現代の診断基準に忠実に依拠する形で説明するとすれば、

この病院を紹介してくれた精神科クリニックの医師には「発達障害もたぶんあるだろう。ただ、一連の行動を説明するなら、行為障害という診断になる。」とも明言されました。

という説明が正しいということになるでしょう。その意味でこの医師の説明は非常に正確だと言えます。

(2018.3.5.)

05. 3月 2018 by Hayashi
カテゴリー: パーソナリティ障害, 精神科Q&A タグ: , , |