【3138】正しい答えを幻聴が教えてくれることがある
Q: 20代男です。高校時代に、人間関係の悪化や些細な勘違いが発端で、統合失調症の症状が出たことがあります。
このサイトで他の人が相談しているような、悪口を言われているような気がするとか、自分だけが知らされていない皆知っている大きな秘密があるとか、学校そのものが宗教団体とつながりがあるとか、典型的な症状です。
精神科には一度もいきませんでしたが、状況に違和感を感じてからすぐに家族に相談し、家族のおかげで学内で問題を起こしたり休んだりすることもなく、今思い返すと客観的には表面上普通の高校生として生活を送ることができていました。(脳内では凄いことになっていましたが)
結果から言うと、高校卒業とともに妄想や統合失調症特有の勘違いはピタリと止まりました。
しかし、社会人になってからもストレスを感じたりすると本当に軽い幻聴症状だけはたまに出てきてしまうようです。
症状は「どこか遠くの方から、実際にそこにいるであろう具体的な人の声で自分のことを話している声が聴こえてくる」というようなものです。
症状とはもう高校時代からの付き合いなので、この程度であればビューティフル・マインドの主人公のごとく慣れたものとしてスルーできるのですが、たまに「僕自身が考えもつかないような言葉」が聴こえてくることがあり、驚きを隠せなかったので、思わず質問させていただきました。
具体的な出来事としては、僕が隣の人と、とあるゲームの話をしていて、製作者の名前について言及しました。
しかし、そのときに「そのゲームのディレクターって××じゃなくね?知ったかぶりしすぎだろ…」という声が職場の遥か遠くの席から聞こえてきたのです。
職場の状況を冷静に考えると、席の位置と声のボリュームからいってそんな事を僕にわざわざ聞こえる声で言ってくる人の存在はまずありえないので、幻聴なのはまず間違いないのです。
しかし、実際に声を頼りにネットを検索してみると、確かに僕が言った製作者の名前は間違っていて、幻聴が言う名前が正しかったのです。
こんなことがあるのでしょうか?
同様の出来事が何度も起きていて、僕の脳内には存在しない記憶や、知り得ない出来事などが声として聞こえてきて、「どういうことなんだろう?」と思って調べてみると声の通りだった…ということが良くあります。
何か新しい発見をした際に「それを誘導する声が聞こえていたんだという妄想」がある、とも考えましたが、それも考えにくいです。
何故なら、先ほどのゲームの製作者の例だと、声がなければまず製作者を改めて調べようとは思わなかったからです。
これが精神医学あるいは脳科学的に説明がつくのでしょうか?
これが知りたいです。
林: 「幻聴が正しい答えを教えてくれる」という自覚をされる統合失調症の方は時々いらっしゃいます。そのメカニズムとして最も可能性が高いのは、その幻聴の言う正しい答えとは、元々ご本人がすでに知識として持っていたことを一時的に忘れていて(つまり、記憶の中には存在するが、それを知識として取り出すことができなくなっていた)、単にそれを思い出したにすぎないというものです。
つまり、誰でも(統合失調症であっても、なくても)、一時的に何かを忘れていて、それを「あ、思い出した」という経験はあるものですが、この【3138】のような場合は、「あ、思い出した」のときに「声が聞こえた」と体験されたということです。
統合失調症の幻聴とは、その内容がいかなるものであっても、自分の脳から生まれたものであることは間違いありませんので、上記のようなことがあっても全く不思議はありません。
【3138】の質問者は、
僕の脳内には存在しない記憶や、知り得ない出来事などが声として聞こえてきて、
と言っておられますが、どちらも「脳内に存在した記憶(但し、忘れていた)」「知っていた出来事(但し、忘れていたか、知り得ないかのように思っていた)」というのが真実だということです。もちろん具体的な内容についての情報がなければ確定的なことは言えませんが、まず上記のメカニズムに間違いないと思います。
それから、【3138】の質問者の推定の
何か新しい発見をした際に「それを誘導する声が聞こえていたんだという妄想」がある、
も、あり得えます。「過去にこういうことがあった」と思い込むは、妄想追想(または追想妄想と呼ぶ場合もあります)という、そう珍しくない症状です。充分に考えられることです。
それはそうと、この【3138】は、やはり統合失調症だと思います。現在はとても軽度ですが、悪化する可能性は否定できません。文字通り完全に一過性に統合失調症の症状が出るというケースでは、通院の必要は必ずしもないと考えられますが、この【3138】のケースは今でも統合失調症の色彩のある幻聴がありますので、精神科に通院することをお勧めします。すぐに薬をのんだほうがいいかは別の話ですが、通院の必要はあると思います。
(2016.2.5.)