【2998】私の症状は強迫観念とは違う気がしてなりません (【2960】のその後)

Q: 【2960】最悪のイメージが浮かぶと、それが本当に起きてしまう気がする で回答頂いた20代男性です。
前回は回答のほど、ありがとうございました。本当に悩んでいたので、林先生の意見を拝見できて、心から感謝しています。

強迫性障害という病名を聞いて、あれから自分なりに色々と調べたり、精神科にも一度受診をしました。
でも、どうしても疑問に思っていることがあるので、再度質問させて頂きます。

強迫性障害について、ネットや書籍、youtubeなどの動画サイトで色々調べていたのですが、自分の観念とは、どうも当てはまらない気がしてなりません。

「頭の中に、生理的に受けつけない人の顔や、過去に嫌いだった人の顔が浮かんできたら、自分の顔がその人の顔に変化してしまう」といった観念や、「自分の好きな性癖や好きな部分に対して、真逆の嫌いなものや気持ち悪いイメージが浮かぶと、好きだったことが嫌いに脳が変化してしまう」といった観念に似たものは、強迫性障害関連のどこを探しても書いてありません。
確かに、「財布、携帯など大事なものを落とした、忘れた」という観念は強迫の確認行為にすごく似ていると思いましたが、自分の場合、何かもっと妄想的な、現実的にはありえない「分身」「残骸」までを残してしまったと思ってしまいます。
あと、「縁起恐怖」という種類の強迫観念に似ているとは思いましたが、縁起恐怖に出てくる、神や道徳心についての恐怖はほとんどなく、むしろこんな辛い運命になんで自分がと、神や仏を恨んだ時期もありました。
でも、上記の観念を取り消す、なかったことにする反復的な儀式行為はあり、「強迫観念」「強迫行為」という面では確かに当てはまります。
そして、このような観念が脳裏に浮かんだ時、何か頭がこわばるような力むような、脳がフリーズするような症状に襲われます。

林先生は、前回の回答でかなり典型的な強迫症状とおっしゃっていましたが、書籍などには「強迫観念の多くは、普通の人でも多く感じられる」と書いてあり、いわゆる手洗い、確認とは違う、上記のような傍から見るとかなり奇異な考えも強迫観念に当てはまるのでしょうか。

ちなみに、精神科では上記の症状を伝えたところ、「今の段階では病名はつけられない」と言われ、レレメロン、セロクエル、セレナールという薬を処方され、次回の診察の予約はしましたが、薬は怖くて処方されたまま一錠も飲めずにいます。
やはり、薬は処方されたとおりちゃんと飲んだほうが楽になりますか。

今回も長々と質問してしまい申し訳ありませんが、回答のほど出来ればお願い致します。

林:

強迫性障害について、ネットや書籍、youtubeなどの動画サイトで色々調べていたのですが、自分の観念とは、どうも当てはまらない気がしてなりません。

いいえ、あなたの観念は強迫性障害によるものとして、典型的な部類に属するものです。

「頭の中に、生理的に受けつけない人の顔や、過去に嫌いだった人の顔が浮かんできたら、自分の顔がその人の顔に変化してしまう」といった観念や、「自分の好きな性癖や好きな部分に対して、真逆の嫌いなものや気持ち悪いイメージが浮かぶと、好きだったことが嫌いに脳が変化してしまう」といった観念に似たものは、強迫性障害関連のどこを探しても書いてありません。

全く同じものはなくても、似たものはあります。たまたま見つけられなかったか、見つかっても似ていると感じられなかったのでしょう。多くの人々は(強迫性障害に限らず)、自分の症状や体験は自分だけに特徴的なものであると感じやすいものです。他の人の症状や体験とのわずかな違いに着目して、自分は特別だと思いがちなのです。(もちろんその逆の場合もあります)

確かに、「財布、携帯など大事なものを落とした、忘れた」という観念は強迫の確認行為にすごく似ていると思いましたが、自分の場合、何かもっと妄想的な、現実的にはありえない「分身」「残骸」までを残してしまったと思ってしまいます。

それは強迫性障害で比較的よくある感覚です。

あと、「縁起恐怖」という種類の強迫観念に似ているとは思いましたが、縁起恐怖に出てくる、神や道徳心についての恐怖はほとんどなく、むしろこんな辛い運命になんで自分がと、神や仏を恨んだ時期もありました。

強迫性障害にみられる、縁起かつぎに似た症状は(それを質問者は「縁起恐怖」と呼んでいるのだと思います)、神や道徳心についての恐怖を伴うとは限りません。

でも、上記の観念を取り消す、なかったことにする反復的な儀式行為はあり、「強迫観念」「強迫行為」という面では確かに当てはまります。

それは強迫性障害に典型的なものです。

そして、このような観念が脳裏に浮かんだ時、何か頭がこわばるような力むような、脳がフリーズするような症状に襲われます。

強迫性障害ではそのような感覚を訴える場合も少なくありません。(「頭がこわばるような力むような」とか「脳がフリーズするような」に限りません。何らかの身体感覚的な訴えです)

林先生は、前回の回答でかなり典型的な強迫症状とおっしゃっていましたが、書籍などには「強迫観念の多くは、普通の人でも多く感じられる」と書いてあり、いわゆる手洗い、確認とは違う、上記のような傍から見るとかなり奇異な考えも強迫観念に当てはまるのでしょうか。

精神疾患についての多くの書籍等は、事実をぼかして書いてあるものです。そのぼかし方は、重い症状や奇異な症状を隠蔽する形を取ることが大部分です。その理由は、一つは本人を安心させるためです。もう一つは、本人以外の人が、精神疾患とは不気味なものだという感想を持たないようにするためです。この二つの理由で事実をぼかすことは、それなりに理解できることではありますが、精神疾患についての実態を隠蔽していることは否定できず、結果として精神疾患についての誤った知識が蔓延するという事態になっています。精神科Q&Aは、本人等のために事実を隠蔽することはせず、いかなることでも事実を回答するという方針を取っています。
前置きが長くなりましたが、上記、

上記のような傍から見るとかなり奇異な考えも強迫観念に当てはまるのでしょうか

に対する答はイエスです。但し、あまりに奇異な場合は、統合失調症の可能性を考える必要が出て来ます。【2960】最悪のイメージが浮かぶと、それが本当に起きてしまう気がする の強迫の内容は、そこまで奇異ではなく、強迫性障害に典型的に見られる症状の範囲内だということです。

ちなみに、精神科では上記の症状を伝えたところ、「今の段階では病名はつけられない」と言われ、

あるいはその先生は、強迫性障害とも統合失調症とも考えられると判断されたのかもしれません。ここまでの回答の通り、私なら【2960】は強迫性障害であると考えますが、メールの記載からの判断と実際に診察しての判断は異なりますので、どちらの考え方が正しいかはわかりません。(診察では、メールに書かれているより格段に豊富な情報が得られますので、一般的には診察のほうが正しいと考えるべきです。本人は重要と考えていない、したがってメールには書かれていない、一見すると些細で軽いと思われる症状が、診断上は決め手に近いものになることもあります)

レメロン、セロクエル、セレナールという薬を処方され、

この処方には私は納得できません。抗うつ薬のレメロン(強迫性障害という診断を示唆)と抗精神病薬のセロクエル(統合失調症という診断を示唆)を初診から同時に処方するのは、混乱した処方であると言わざるを得ません。(しかし、「強迫性障害でも統合失調症でもどちらだとしても効くように」という目的の処方かもしれません。そのような処方方針は、通常は不適切とされるものですが、もしかするとこの【2960】の実際の症状は、メールから読み取れるよりもはるかに重く、診断をつけるより何より、早急に症状を改善する必要があると医師は判断したのかもしれません)

次回の診察の予約はしましたが、薬は怖くて処方されたまま一錠も飲めずにいます。
やはり、薬は処方されたとおりちゃんと飲んだほうが楽になりますか。

上記のとおり、私はこの処方には賛同できません。しかし診察を受けて薬を出された以上、処方されたとおりに服用すべきでしょう。そうしないと医師が次の治療方針を立てにくく、結果としては治療が難航することになるでしょう。

(2015.7.5.)

05. 7月 2015 by Hayashi
カテゴリー: 強迫性障害, 精神科Q&A