【2902】友人の統合失調症が私に伝染ったのでしょうか

Q: 10代女性です。
私の友人は統合失調症なのですが、そのためこちらは彼女の被害妄想等で勘違いされないためにとても気を使うので、精神的に参ってしまいます。そのことがあって統合失調症が文字を見るのも嫌になるほど嫌いになってしまったのですが、私なりに統合失調症について調べたりもしました。

私は高校に入学した辺りから無意識の内に徐々に五月病のような無気力な状態になっていきました。その時は理由が分からなかったのですが、今思うと中学の時は担任がとても尊敬している先生だった故に見捨てられないため必死に勉強していました。
元々頭はそこまで良くないので疲れていたため中学卒業と同時に気力が切れたのだと思います。高校は東大現役合格も年に一人ほど出しているところで、一番大学受験に力をいれているコースに入ってしまったため自分の理想と現実との差が激しく、良い大学に入らなければゴミです。

高校生活二年目である今は成績はかろうじて一番下ではないもののそれに近く、夜は一時間程しか眠れないこともしばしばであり、頭が気持ち悪いまま登校します。そして学校ではほとんどの授業で寝てしまい、罪悪感がつきまといます。勉強をしないことや成績が悪いことへの罪悪感もあります。親や先生には勉強しろ、勉強しないと未来はないと言われ、また、家で寝てこいと叱られることもあります。勉強しないと未来はないことも、授業で寝るのなら行く意味が無いことも私が一番良く分かっています。そのことを伝えようとしてもどうしようもありません。私は勉強も趣味もやろうとしてもやり始めることだけにとても苦労してしまいます。授業だって寝たくて寝ているわけではありません。気付いたら寝ているのだし、授業に参加する疲労で寝てしまいます。

なぜ統合失調症が伝染ったのではないかと思った理由は、友達に相談するには少し重い内容なので私の今の状況をネットで調べてみたところ、統合失調症という言葉が出てきたからです。その状況というのは、私が誰かに殺されてしまうだろうと考えているからです。

なぜそう考えているのかというと、私は何も出来ない無価値な人間であり、他人からすると邪魔な存在だからです。テストの点数もとても悪いし成績も悪いので殺されて当然だと思います。親や先生の言葉一つ一つがとても気になるので、いつか殺されてしまうだろうと当然思います。たとえば今日の話だと、先生が、勉強をすれば痩せられると言ったのは、私が勉強をしていないから太っているということだと解釈しています。親や先生が私を無価値な存在だと遠回しに思っているのは当然です。

夜が眠れないのは頭の中がうるさくなるからなのですが、声が聞こえている訳ではありません。自分を責める言葉が脳の中でゆっくり絶え間なくグルグル回るのです。「ゴミだ…ゴミだ…ゴミだ…」だとか「意味がわかんねぇ意味がわかんねぇ意味がわかんねぇ」だとか「死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ」だとか、たくさんの種類があります。駄目だ駄目だ!と思い、別のことを考えようとするのですが、違う種類の責める言葉が出てきてなかなかおさまらず眠れないのです。眠るとき以外でも、自転車を漕いでいるときや歩いているときなんかにはよくなります。そしてボーッとしていて別の道を歩いているときがたまにあります。これは以前から少しありましたが、寝る前にはなかったです。(過去に、小学校では虐められて家に帰ると虐待されるという時期がありました。今ではどちらもありません。) これも統合失調症でしょうか?

上記の二つどちらも友達が統合失調症になってしまってからの話なので、彼女の統合失調症が伝染ってしまったのではないかと疑っております。ですが統合失調症は周りに迷惑をかけてしまうので、統合失調症ではないことを願っています。もし統合失調症ではないとすれば、私は健常者なのでしょうか、他の精神疾患なのでしょうか。

林: 統合失調症は伝染病ではありません。したがって、

彼女の統合失調症が伝染ってしまったのではないかと疑っております。

そんなことはあり得ません。

けれども、統合失調症は非常に多い病気であり、かつ、若い年齢で発症しやすい病気ですので、10代であるこの【2902】の質問者が統合失調症を発症する確率は低くありませんから、統合失調症かどうかは、友人の病気とは別に検討する必要があります。
このメールから読み取れる、統合失調症の可能性を示唆する点は、

私が誰かに殺されてしまうだろうと考えている

および

夜が眠れないのは頭の中がうるさくなるからなのですが、声が聞こえている訳ではありません。自分を責める言葉が脳の中でゆっくり絶え間なくグルグル回るのです。「ゴミだ…ゴミだ…ゴミだ…」だとか「意味がわかんねぇ意味がわかんねぇ意味がわかんねぇ」だとか「死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ」だとか、たくさんの種類があります。

この2点です。前者は妄想、後者は幻聴と解釈できますので、症状を単語としてまとめれば(つまり、「妄想」と「幻聴」としてまとめれば)、統合失調症の可能性ありということになります。

けれども、これだけではまだ「統合失調症の可能性あり」とまでは言えても、「統合失調症の可能性が高い」とはいえません。「妄想」と解釈できる症状、「幻聴」と解釈できる症状の、具体的な検討が必要です。(【2891】ネットで診断してみたところ、統合失調症かもしれない【2712】母と同級生に統合失調症だと言われました などで、「具体的な記載がないのでわからない」と私が冷たく答えているのは、質問メールには「思考の混乱」「常同的思考」「疎通性の障害」のような抽象的な単語としての記載しかなされていないためです。それに、症状を単語にした途端に、そこには判断が加えられていますから、たとえばメールにある「常同的思考」が精神医学的に本当に「常同的思考」かどうかは全くわかりません。したがって、回答は「わからない」のひとこと以外にないということになります)

そこで【2902】に記されている具体的な記載に目を向けますと、まず幻聴に関しては、「自分を責める言葉が脳の中でゆっくり絶え間なくグルグル回る」以下の具体的内容は、解離性障害に見られる幻聴の色彩が強いものです。(確定的なことは言えません。言えるのは「色彩が強い」までです)

妄想に関しては、この10代の質問者においては、了解できる範囲と言えないこともない性質のものです。(もっとも、「殺される」という確信の強さが問題です。一定以上に強ければ、統合失調症の妄想の可能性が高まります。けれどもこのメールの記載からは、そこまでの強さは読み取れません)

また、

過去に、小学校では虐められて家に帰ると虐待されるという時期がありました。今ではどちらもありません。 

これは解離性障害につながり得る過去の出来事といえます。

以上総合すると、この【2092】のケースは、統合失調症よりは解離性障害の可能性のほうが高いといえます。
いま 解離性障害 といったのは、病名をつけるとすれば解離性障害という意味です。解離自体は健常者にも見られる現象ですので、この【2902】に解離の症状が見られるからといって、解離性障害とまで診断できるかどうかはわかりません。

なお、

統合失調症は周りに迷惑をかけてしまう

それは質問者の認識の重大な誤りです。さらにいえば統合失調症に対する偏見です。「統合失調症は周りに迷惑をかけてしまうことがある」のは事実です。けれどもそれは他の病気でも同じです。「解離性障害は周りに迷惑をかけてしまうことがある」「パーソナリティ障害は周りに迷惑をかけてしまうことがある」「うつ病は周りに迷惑をかけてしまう」・・・これらはすべて事実です。「誰でも周りに迷惑をかけてしまうことがある」もまた事実です。統合失調症だけを特別視するのは重大な誤りです。

(2015.2.5.)

05. 2月 2015 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 解離性障害 タグ: |