【2804】私は怠けているだけなのでしょうか
Q: 20代男性です。私は大学院博士課程に通うものですが、私の状態について質問させていただきます。 私は昨年度まで高校の先生をしていましたが、研究を続けたいという気持ちをあきらめることができず、X年4月に再び大学院に入学しました。最初はやる気をもって取り組めていたのですが、6月ごろから勉強しても集中できなくなり、次第に本を読むことが困難になってきました。またそれと同時に、私は一人暮らしなのですが、だれか人がそばにいないと強い不安を感じるようになり、またちょっとしたことで吐き気をもよおすようになりました。このような状態になり、周囲の人からゆっくりやすむように言われたので、勉強せずに家でごろごろしていると、その罪悪感や、自分が何もしていないという自責感が強くなり、精神的に非常に不安定な状況になりました。またこのころは特に書類の提出や手続きなどがおっくうで、しばしば遅くなってしまっていました。このような症状が9月くらいまで続き、毎日なにもせずにぼけ〜と過ごしていました。そのころ来年からは高校で再び働こうと考え、そのための勉強をしましたが、それは問題なくすることができました。10月くらいに授業の発表の担当をしたのですが、その準備をしていると何度も吐き気がおそってきて、実際に3度ほどはいてしましました。また、授業にでると時として非常に気持ち悪くなり、全く集中することができません。それからは、突然強い不安に襲われることもありましたが、精神的には次第に安定してきました。しかし相変わらず、勉強に集中することはできません。最近はかつてのように精神的に不安なことはなくなってきましたが、何をするにもおっくう感がつきまとい、何もせずにごろごろすることが多くなってしまいました。
こんな自分ですが、私は自分がうつではないと思い、怠けているだけではないかと考えております。そして、休むのをやめてがんばったほうがいいのではないかと考えています。その理由は次の通りです。(1)7月から9月のころまで医者にかかっていましたが、そのとき、友人と食事に行くと精神的にとてもおちついたことを話すと、それならうつ病ではないと言われたこと。(2)自分の大学院での研究に関係することはできないが、高校の先生になるための勉強などは特に問題なくできること。(3)先日実家に帰ったとき、ずっとテレビゲームをしていましたが、非常に精神的に安定し、おもしろいと感じ集中してとりくめていたこと。(4)時々、とても気分のいい日があり、そのときは書類提出や手続き、調査など自分の研究には関係ない作業なら、きびきびと取り組めること。 自分の精神的な不安定さは大学院での研究に起因していることは間違いありません。私は修士のころから高校の先生をしているころまで、勉強をするのがつまらないと思ったことはほとんどなく、むしろ暇な時間のたいていは本を読んでいました。そのため、現在の自分の変化につよいショックを感じています。また、いままでの自分の生き方や価値観に強い疑問を抱くようになってしまいました。特に自分が今までとても楽しいと思っていた哲学や文学の本が、まったく関心がもてません。このような自分は単純に自分の勉強にあきただけなのでしょうか?精神的に安定し、すでにおっくうな気分くらいしかのこっていませんが、勉強がつまらなくても自分のやるべきことを気合いをいれてやるべきでしょうか? 私はうつ病ではないと思います。それなら怠け癖がついてなまけているだけなのでしょうか?がんばらないといけないと思っても、なかなかがんばれない自分がはがゆいのですが、もう一度病院に行き、薬などでむりやりがんばったほうがいいでしょうか?
林: あなたはうつ病だと思います。
私はうつ病ではないと思います。
いいえ、うつ病だと思います。
精神科で治療を受けてください。適切な治療を受ければ、うつ病は治ります。
ここまでの経過を振り返ってみましょう。
X年4月に再び大学院に入学しました。最初はやる気をもって取り組めていたのですが、6月ごろから勉強しても集中できなくなり、次第に本を読むことが困難になってきました。
意欲をもって進もうとしていたのに、このように、明白な理由なく漠然とした不調が出て来るのは、うつ病の発症として典型的なパターンの一つです。
またそれと同時に、私は一人暮らしなのですが、だれか人がそばにいないと強い不安を感じるようになり、またちょっとしたことで吐き気をもよおすようになりました。
不安。そして身体的な不調。これも、うつ病の発症時によく見られる症状に一致しています。
このような状態になり、周囲の人からゆっくりやすむように言われたので、勉強せずに家でごろごろしていると、その罪悪感や、自分が何もしていないという自責感が強くなり、精神的に非常に不安定な状況になりました。
自責感は、うつ病にかなり特異性の高い症状です。
擬態うつ病/新型うつ病の、うつ病の章、p.45に記した通り、逆に自責感がないと、たとえ憂鬱などの自覚があっても、うつ病の診断には大きな疑問符がつくことになります。
またこのころは特に書類の提出や手続きなどがおっくうで、しばしば遅くなってしまっていました。このような症状が9月くらいまで続き、毎日なにもせずにぼけ〜と過ごしていました。
元々は容易にできていたことがおっくうになる。さらには出来なくなる。うつ病らしい症状です。このあたりで、うつ病の診断はかなり確実になるといえます。
そのころ来年からは高校で再び働こうと考え、そのための勉強をしましたが、それは問題なくすることができました。
このように、いったん自然に持ち直したかのように見えても、また次のように再燃する。うつ病の典型的な経過の一つです。
10月くらいに授業の発表の担当をしたのですが、その準備をしていると何度も吐き気がおそってきて、実際に3度ほどはいてしましました。また、授業にでると時として非常に気持ち悪くなり、全く集中することができません。それからは、突然強い不安に襲われることもありましたが、精神的には次第に安定してきました。しかし相変わらず、勉強に集中することはできません。
最近はかつてのように精神的に不安なことはなくなってきましたが、何をするにもおっくう感がつきまとい、何もせずにごろごろすることが多くなってしまいました。
「不安」は比較的軽快しやすい症状ですが、おっくう感は回復しにくいことはよくあります。
こんな自分ですが、私は自分がうつではないと思い、怠けているだけではないかと考えております。
うつ病の人はそのように考えがちです。
逆に、診断を受けたわけでないのに自分はうつ病であると確信したり、医師からうつ病でないと言われると憤慨し、うつ病と診断してくれる医師を探し、そのような医師に出遭うとようやく良い医師に診断されたと喜ぶのが、うつ病でない人の典型的なパターンの一つです。これを擬態うつ病と呼ぶことも出来ますし、うつ病のページに紹介した 「うつ」は病気か甘えか。でいえば、甘えということになるでしょう。
そして、休むのをやめてがんばったほうがいいのではないかと考えています。
いかにもうつ病らしい考え方です。
その理由は次の通りです。(1)7月から9月のころまで医者にかかっていましたが、そのとき、友人と食事に行くと精神的にとてもおちついたことを話すと、それならうつ病ではないと言われたこと。(2)自分の大学院での研究に関係することはできないが、高校の先生になるための勉強などは特に問題なくできること。(3)先日実家に帰ったとき、ずっとテレビゲームをしていましたが、非常に精神的に安定し、おもしろいと感じ集中してとりくめていたこと。(4)時々、とても気分のいい日があり、そのときは書類提出や手続き、調査など自分の研究には関係ない作業なら、きびきびと取り組めること。
どれも、あなたがうつ病でないという理由にはなりません。一つ一つを取り上げれば、うつ病らしくないといえないこともありませんが、診断とは全体像に基づいてするものであって、全体像を分解した個々の症状は、あくまで診断手順上の便宜的なものにすぎません。また、自分の中でうつ病らしくない点を取り上げて、自分はうつ病でないと主張するのは、うつ病の人の典型的なパターンです。
自分の精神的な不安定さは大学院での研究に起因していることは間違いありません。
いいえ、間違いでしょう。
私は修士のころから高校の先生をしているころまで、勉強をするのがつまらないと思ったことはほとんどなく、むしろ暇な時間のたいていは本を読んでいました。そのため、現在の自分の変化につよいショックを感じています。また、いままでの自分の生き方や価値観に強い疑問を抱くようになってしまいました。特に自分が今までとても楽しいと思っていた哲学や文学の本が、まったく関心がもてません。
いかにもうつ病らしい症状です。
このような自分は単純に自分の勉強にあきただけなのでしょうか?
いいえ、うつ病にかかっています。
精神的に安定し、すでにおっくうな気分くらいしかのこっていませんが、勉強がつまらなくても自分のやるべきことを気合いをいれてやるべきでしょうか?
いいえ、治療を受けるべきです。
私はうつ病ではないと思います。
いいえ、うつ病だと思います。
それなら怠け癖がついてなまけているだけなのでしょうか?
いいえ、怠けではありません。病気です。
がんばらないといけないと思っても、なかなかがんばれない自分がはがゆいのですが、もう一度病院に行き、薬などでむりやりがんばったほうがいいでしょうか?
うつ病で薬を飲むのは、無理矢理がんばるためではありません。うつ病という病気の治療のためです。
あなたはうつ病にほぼ間違いないと私は思います。うつ病は適切な治療を受ければ治ります。精神科で治療を受けてください。
(2014.10.5.)