【2759】別の病院でADHDプラスPTSDと診断されました(【2716】のその後)
Q: 【2716】人の顔が覚えられない…他困っていることが沢山ありますの36歳女性です。質問メールを出してから【2716】掲載までの間に事態が好転しましたので、お知らせいたします。
知人の進めで「自助会」なるものを知り、メンタル系自助会に参加しました
(実はこのサイトや林先生の事もそこで聞きました)。当時の主治医(前回メールでの『主治医』)からは「カウンセリングや集団ミーティングのようなことは向かない(余計悪くなる可能性がある)」とも言われていましたが、自助会への参加で様々な情報が得られ、また同じような悩みを持つ方との交流で気持ちが楽になりました。
『困っている事』『フラッシュバックしてくる過去』をまとめた文章持参で、自助会参加の方から教えてもらった病院に母と一緒に行きました(文章は以前の大学病院にも持参・提出した物と同内容)。
受付で渡された『アンケート形式の書類』を記入したものを、大学病院の『検査結果付きの紹介状』と共に提出(持参文章は見ながら問診、後に提出する事に)。
持参文章をもとに話し始め、1時間強の問診の後、医師(現在の主治医)から「まだ1時間ほどしか(話を)伺っていませんので今後も聞かねばなりません。が、今までのお話から、おそらくADHDだと思います。」と言われ、ストラテラを処方されました。(一部症状には効きましたが、デメリットの方が多かったので、現在は別の薬を服用中、今後私に合う薬をいくつか試しながら探してゆくとの事)。
また「お話を聞く限りではお父様にもその傾向が※1」とも言われ、初めて親にも発達障害の傾向がある可能性にも言及されました(その後こちらから、父だけでなく母にも傾向があるのではないか※2、と伝えました)。文章を医師に提出し、初診は終了。
※1…目前で話していても自分の事だと気づかない、冬帽子を夏でもかぶるなど不適切な服装、勝手に家族の物を捨てて罪悪感も感じない、家の中を『モデルルームのような塵1つ落ちておらず物のない空間』にしておきたいなどおよそ現実的でない目標を家族にも強いる、勤めていた頃は帰るとすぐ飲酒、毎日缶チューハイ3~4本は空にしていた…他。8年前脳梗塞で倒れ、現在『高次脳機能障害』と右半身不随、身体障害者3級認定。
※2…私より方向音痴(分かっていないのに先頭に立って歩いて行く)、私より物を失くす、人の話に割り込み、待てない(全く関係ない話題で周囲が「?」となることも)、行列・渋滞が苦手で回避するか、文句を言い続ける、いくつもの家事に同時に手を付けやりかけになっている(本人がそのままどこかへ行ってしまっている事も)、忘れ物も私以上に多い…他
数回の再診(問診)を受け、『広汎性発達障害の特性も多く見られる。しかし検査結果はADHD的なので医学的診断はADHD。相貌失認も含め発達障害)と、PTSD…それも事故等一度のショックなどによる通常のPTSDではなく、辛い経験がいくつも重なった事によるPTSD』と診断されました。(前回割愛しましたが、中学3年間に渡る男子からのいじめ、パワハラと過労、職場でのいじめによるパニック発作(めまい・悪寒・発汗・一時的な記憶の欠落)等々…辛い経験が多々あります)。
また「PTSDのせいでADHDの特性に悪影響を与え、より強く出てしまっていると思います。逆に本来持っているADHDのためにPTSDの原因となりうる経験を沢山積み重ねてしまった部分もあるのでは」とも言われました。
障害者手帳申請の書類も作成して貰え、地元役所で申請予定です。また、サポートステーションで診断が下りた旨を話した所、障害者職業センターを紹介され、近々訪所予定です。
ようやく診断が下りホッとした反面、以前の病院に比べ、あまりにもあっさり診断されたので、逆に拍子ぬけというか、少々驚いてもいました。しかし林先生のほかのQ&Aの回答や
『発達障害をこうした心理検査の結果だけで診断することは出来ないのは常識に属する事項ですし、「顔が覚えられない」という明らかな症状があるケースの問診で、このメールに書かれているような内容を聴き出せなかったとすれば(または、聴き出したのにもかかわらず、相貌失認と気づけなかったとすれば)、それは問診をしたとは言えません。』
との回答に、現在の主治医の診断をさらに後押しされたようで、改めて納得、安心できました。(見当違いな解釈をしていたら済みません。言語能力はそこそこ高く、また推論はある程度出来ますが、時に本来の意味以上に取っている(ズレている)場合があります。)
林先生の回答に
『お母様が
「酷いいじめを受けたせいで人の顔をちゃんと見れないからだ」と散々言われていました。
とおっしゃったのは荒唐無稽な説明ですが、専門家でない以上仕方ないとしても』
とありましたが、実は母自身が高校生の頃、人の目が恐くて人通りの多い道を歩けず、遠回りをして家に帰る、クラスメイトの前で朗読が出来ないなど『社会不安障害』では?と思うような経験をしていたために私もそうなのでは?と思っての発言だったと、今では分かっています。
しかし
『今の主治医の先生の「顔が分からないのは、何故だかよく分からない」と言われ、その他の困っている事についても「性質の問題だから診断できない」と言われという説明は、精神医学の専門家としては浅薄と言わざるを得ません。』
には、やはりそうだったのか、と思いました。
以前の主治医には相貌失認の事を『困っている事』の一番最初に、前回質問メールより更に詳しい実例付きで話していました(「多分、相貌失認ではないかと思う」とも。特に大学病院初診~数回目までは母にも付き添って貰い、確実に医師に伝えていました)。
また、前回は割愛していましたが、大学病院に通院中、一度別のクリニックにセカンドオピニオンにも行きました(1時間ほどの問診)。しかしそこでもやはり「発達障害らしさは感じられない」「今は生活習慣を整える位しかない」と言われていました。自己判断ですが、そのクリニックでもやはりPTSDのみ、もしくは軽度の鬱と診断されて、発達障害や相貌失認は見落とされていたのではないか?と思います。
まだまだ発達性相貌失認(先天性相貌失認)は認知度が低く、また先生の回答にもあるように精神科医の分野とは本来違うかもしれません。
しかし、某ハリウッド俳優の告白以降、同じような悩みを抱えた患者さんが精神科、メンタルクリニックを訪れる機会も増えているのでは、と思います。
その際、以前の私のような対応をされ、困惑する患者さんが1人でも少なくなるといいと考えて、再度メールいたしました。
今後は現在の主治医の下での治療や投薬、カウンセリング、発達障害に見識ある方のアドバイスや書籍から学び、また周囲に理解して貰うための説明や話し合い、サポートを活用しての就職活動、自助会への参加等…まだまだ家族と些細な事でモメたり、すれ違いも多く、時にパニックを起こしたりもしており、またこれからは忙しくもなりそうですが、少しずつでも前に進もう思います。
長文にも関わらず丁寧なご回答、本当にありがとうございました。
林: 経過のご報告をありがとうございました。
すでに適切な治療を開始しておられるご様子ですので、これからは主治医の先生の方針に従って治療を続けていかれるのが言うまでもなく最善です。
したがって私からこれ以上何か言うのは適切でないと思われますが、事実についていくつかコメントいたします。【2759】の質問者ご自身は、これらは雑音として聞き流してください。
「まだ1時間ほどしか(話を)伺っていませんので今後も聞かねばなりません。が、今までのお話から、おそらくADHDだと思います。」と言われ、ストラテラを処方されました。
私ならここでストラテラの処方はしません。いかなる薬の処方もしません。この【2759】の病態に対し、初診の時点で薬物療法を開始するのは不適切と考えるからです。経過によってはどこかの時点で薬を出すことも考慮しますが、初診の時点で出すのは過剰診療だと思います。その理由は、発達障害(ADHDも含まれます)では、どこまでを病気とみなすかについては困難かつ微妙な問題があり(サイコバブル社会 をご参照ください)、薬物治療開始については慎重なうえにも慎重を要するからです。現代の日本では、ストラテラは法的にも非常に処方しやすい位置づけになっており、もちろんこのケースの初診で処方することは医学的にも法的にも正しい診療ということになりますが、私としては疑問です。
『広汎性発達障害の特性も多く見られる。しかし検査結果はADHD的なので医学的診断はADHD。相貌失認も含め発達障害)と、PTSD…それも事故等一度のショックなどによる通常のPTSDではなく、辛い経験がいくつも重なった事によるPTSD』と診断されました。
【2716】の回答にも記したとおり、このケースは広汎性発達障害です(プラス、相貌失認)。ADHDと広汎性発達障害は、重なる部分も大きく、ある一つのケースをADHDと診断するか広汎性発達障害と診断するかは、その時点での診断基準の考え方、さらには保険診療や障害認定の規定にもよります。したがって、この【2759】のケース、広汎性発達障害という診断とADHDという診断に実質上の違いはありません。
但し、PTSDという診断は誤りです。
事故等一度のショックなどによる通常のPTSDではなく、辛い経験がいくつも重なった事によるPTSD
という説明を受けられたようですが、そのようなものはPTSDとは呼びません。 【1909】幼児期のトラウマとパニック障害は関係ありますかで述べた複雑性PTSDは、これに近い概念ですが、現代の精神医学において正式に認められている概念ではありません。
しかしこれは「正式には認められていない」ということにすぎないので(「すぎない」といっても、トラウマに関する訴訟においては重要になります。PTSDはもともと訴訟から生まれた概念ですので、訴訟との関連は重要です)、治療においてはPTSDと同等の扱いをすることは正当といえるでしょう。
以上は【2759】の質問者にとっては雑音です。
このような雑音には耳を傾けず、
少しずつでも前に進もう思います。
是非そのようになさってください。
(2014.8.5.)