AI回答【0427】殺人を依頼されました。引き受けると答えました。・考
20年以上前のことになるが、妄想を有する人への対応について、非常に印象的な質問メールをいただいたことがあった。【0427】殺人を依頼されました。引き受けると答えました。がそれである。質問者は右翼政治結社の構成員である。彼はある女性から、自分を暴行して殺してほしいという電話依頼を受けた。その内容を聴いた彼は、彼女が精神病に罹患していると確信し、独特な方法で説得して医療機関を受診させた。このように要約してしまえば彼の対応は適切であったとだけしか言えないが、問題はその「独特な方法」と、その後の彼の行動である。【0427】のQは次の通りである。
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Q: 37歳男性です。ある右翼の政治結社に所属しております。
実は、精神病を病んでいると思われる女性と関わりをもってしまったもので、どのように対処、対応したものか是非、アドバイスを頂きたくメールさせていただきます。
約二ヶ月前に、下記の内容のメッセージが会事務所の留守電に入っておりました。
「私は○○○○と申します。「ごくどうさま」にお願いが有ります。
×月×日午後×時丁度に私の家に来て下さい。
そしてドアをノックして下さい。そしたら私がドアの鍵を開けます。
「ごくどうさま」は家に入ってきて私と私の父と母にクロロホルムを嗅がせて、眠らせて下さい。私達が眠ったら「ごくどうさま」の事務所にさらってください。
そして私達に暴行して下さい。暴行して殺して下さい。そしてその様子をビデオに撮影してください。お願いします。」
口調から悪戯とも思えない印象を受けましたので気にとめておりましたところ、その約一週間後になって再度電話があり、その際は私がとりました。電話で直接話しを聞いてみて、この女性は精神病ではないかと判断しましたので、万一のためと思い、あえて次のように返答いたしました。
「うちの会は殺人依頼を引き受けるのは全然オーケーだよ、どうしても殺して欲しいなら仕事として引き受けてあげるよ」
また、さらに、
「悪戯や警察の罠じゃ困るんでアンタが本人か確認させてもらうぜ」
と言い住所と電話番号を聞き一度電話を切って折り返しかけなおしました。
かけなおした電話も通じましたので、
「色々、準備があるんで、いつ実行出来るかまだわからないから、しばらくたってからまた電話くれ」
と伝えて電話を切りました。
そして念のため114で住所、氏名で番号案内を行ったところ本人と確認できました。
それからも彼女から何度か電話があり、そのやりとりの中で、彼女が過去にも同様の電話を右翼やヤクザにかけている事がわかりました。
次の電話で私は、仕事を引き受けるにあたり、どうしても一度会いたいと言ったところ、以前、同様の電話をした事が両親にバレてしまい、外出できないとのことでした。
この時点で彼女に関して分かった事は、年齢30歳、両親との3人暮らしで、以前この種の電話が両親にバレた時には精神病院に行けと言われたが行かなかった、等でした。
そこで私は、アンタが自由にこちらと連絡をとりあう事が出来るようにならなければ、依頼を実行にうつすのは困難であると言い、その為には両親をまず安心させなければならない、安心させる為に精神科の病院に行くよう話ました。
そして病院に行ったら今アンタが思っていること、つまり「殺されたい」こと、さらに具体的にどう「殺されたい」か等を全部正直に先生に話せ、すでに俺に依頼している事だけは隠してそれ以外は正直に話せ、万一医者に計画がバレたらヤバいから病院でのやりとりは全部俺に教えろ。と言いました。
その後彼女から病院に行ったという連絡を受けました。そのときの内容を聞いたところ、最近気分がすぐれないということだけを話し、医者からは2週間後にまた来なさいと言われたとのことでした。
私は、「それでは両親は安心出来ない!きちんと全部正直に話せ!」と言いきかせました。
一方、私としましては、これ以上の関与は私の立場上、まちがいが有った場合、逮捕等の危険も生じる事から、彼女の家の管轄の警察署に行き事の顛末を全て話した上で私のこの件での立場「彼女の精神疾患の治癒を望んでいること」「彼女自身による実行、暴発を防ぐ為に殺人依頼を引き受けると返答した」を伝え、その足で彼女の通い始めた病院にも行きました。
そこで担当医に面会をもとめましたが、当然応じてもらえず、多少強引なやり方にて、とりあえず話だけでも担当医に伝わるようにと当該病院の人間に顛末を伝えました。
そして、今後もし私からの彼女に関する情報が必要な場合は提供する。また私からの彼女に対するなんらかのアクションが治療上有効なら協力するつもりであることも伝えました。
病院からは、この女性が通院しているかどうかということの回答ももらえませんでした。が、私は病院が他人の私に回答しないのは当然と考えましたので、私の話に対して何の返答もコメントもいらない、ただ聞いておいてもらいたい、その上でもし私の話した事が役に立てればそれでよしとしました。
さて、ここで質問なのですが今後私はどのように彼女に接すればよろしいとお考えでしょうか?
私としましては、彼女本人に対しては、「両親の不安を取り除き自由に私との連絡が出来るようになる為」との理由づけで通院をすすめ続け、その一方で殺人依頼は引き受けたと言い続けて治癒を待とうと思っております。その為依頼の実行に関して色々理由をつけて時間をかせいでおりますが、彼女は早く実行をとの気持ちをおさえきれないでいるように感じます。
それから、彼女の両親に対してですが私は私の存在をまだふせています。これは私が右翼である事で彼女の両親の信頼をうけることが困難な事、また両親自体が的確な状況判断、対応等が出来る人間なのかが不明な事が理由です。
現状、私の対応が治療に対してプラスであるのかマイナスなのかもわかりませんので是非アドバイスをいただきたく思います。
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この質問に対し私は【0427】で「あなたの対応は基本的に正しいと思います。というより、最善の対応をされていると思います。」と答えた(2003年のことだ)。ではAIならどう答えるのか。AI(2026/2/12現在無料で公開されているAIの一つ)に回答を求めてみた。AIの回答は次の通りであった。
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ご相談ありがとうございます。ご自身の立場やリスクを承知の上で、一人の女性の暴発を防ぎ、治療に繋げようと尽力されている姿勢、非常に重い責任感を感じます。
あなたが取られた「警察への通報」と「病院への情報提供」というアクションは、危機管理として正解です。しかし、現在の「殺人の依頼を引き受けているふりをする」という対応は、長期的には非常に危険なフェーズに入りつつあると感じます。
専門的な観点から、今後の対応についてアドバイスをまとめました。
1. 現状のやり取りのリスクについて
現在、あなたは「彼女の願望(殺されたい)を肯定しつつ、実行を延期させる」という手法を取っています。これは短期的には彼女を落ち着かせる効果がありますが、以下のリスクを孕んでいます。
• 期待の増幅と反動: 彼女の中で「いつかやってくれる」という期待が膨らみすぎています。実行されない期間が長引くと、彼女の絶望があなたへの怒りに変わるか、あるいは「約束を守ってくれないなら自分でやる(または他へ行く)」と暴走する危険があります。
• 「共依存」的な関係: 彼女にとって、あなたは「自分の異常な願望を唯一受け入れてくれる理解者」になってしまっています。これは治療の主体が医師ではなく、あなたに移ってしまうことを意味し、病院での適切な治療(薬物療法やカウンセリング)を阻害する可能性があります。
2. 今後の接し方へのアドバイス
結論から申し上げますと、「殺人依頼を引き受けている」というスタンスから、徐々に「更生や治療を支援する兄貴分」のような立ち位置へシフトさせることを推奨します。
具体的な対応策:
• 「実行」の条件を厳しくする:
「今のままの精神状態では、俺たちも仕事がしにくい。医者の言うことを聞いて、普通に会話ができるくらい安定しない限り、プロとしてこの件は動けない」と伝え、**通院と服薬を「依頼遂行の絶対条件」**として強く固定してください。
• 「殺す」以外の選択肢を提示し続ける:
「死ぬ前にまず、医者に全部話してスッキリしてみろ。それでも気が変わらなければまた考えよう」と、結論を常に「治療の先」に置くように誘導してください。
• 警察・病院との連携を維持する:
すでに報告済みとのことですが、彼女からの電話の内容が過激化した場合は、再度、警察の生活安全課へ「状況報告」として伝えておいてください。これは、万が一彼女が自傷・他害に及んだ際、あなたが「教唆」したのではなく「阻止」しようとしていた証拠になります。
3. 両親への接触について
現時点では、あなた個人が直接ご両親に接触するのは控えるべきです。
おっしゃる通り、あなたの肩書きがご両親を余計に混乱・パニックに陥らせる可能性が高いからです。ご両親への対応は、病院のソーシャルワーカーや警察に任せるのが筋です。
まとめと次のステップ
あなたの介入によって、彼女が病院に足を運んだ事実は大きな一歩です。しかし、あなたは「治療者」ではありません。これ以上の深追いは、あなた自身の社会的立場を危うくするだけでなく、彼女を現実からさらに遠ざける結果になりかねません。
「俺はプロだから、中途半端な状態の奴の依頼は受けない。まずは医者にすべて話して、人間として整えてから連絡してこい」
というように、突き放しながらも治療へ背中を押すような、少し厳しい「突き放し」のフェーズに移行してみてはいかがでしょうか。
もし彼女から「具体的な実行日を決めろ」と強く迫られたり、事務所に押しかけてくるような兆候があれば、すぐに警察へ相談し、介入を依頼することをお勧めします。
他にご不安な点や、彼女の反応で気になることがあれば、いつでもお知らせください。
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AIらしい、見事に整った回答である。まず質問者を高く評価するのはAIの定番で、「ご自身の立場やリスクを承知の上で、一人の女性の暴発を防ぎ、治療に繋げようと尽力されている姿勢、非常に重い責任感を感じます」という一文がそれであるが、「非常に重い責任感を感じます」という表現は回答全体を支える重要なものになっている。つまりここでAIは、決して彼の対応が正しかったとまでは言っていない。ただ彼の「非常に重い責任感」を評価しているのである。
そしてAIの実質的な回答は次の二文に集約されている:
「あなたが取られた「警察への通報」と「病院への情報提供」というアクションは、危機管理として正解です。しかし、現在の「殺人の依頼を引き受けているふりをする」という対応は、長期的には非常に危険なフェーズに入りつつあると感じます。」
このうち、第一文すなわち「あなたが取られた「警察への通報」と「病院への情報提供」というアクションは、危機管理として正解です。」は、林の回答「あなたの対応は基本的に正しいと思います。というより、最善の対応をされていると思います。」と基本的に共通している。林は回答の中でその「基本的に正しい」ことの理由を説明し、そこで回答は完結しているのであるが、AIはその先を行っていた。上の第二文すなわち「しかし、現在の「殺人の依頼を引き受けているふりをする」という対応は、長期的には非常に危険なフェーズに入りつつあると感じます。」がそれで、AIはこのメールの相談対象の女性のことだけでなく、質問者自身についても気を配っている。当時(2003年)の私には全くなかった発想で、この段階でAIの回答の方が優れているとみるのが妥当であろう。もっともこの段階だけであれば、「精神科Q&Aは事実を回答するものであって、質問者のことなど考えない」というQ&Aの基本方針を少々拡大解釈すれば、本件でも質問者がこれから陥る可能性がある危険について言及する必要はなかったと言えないこともない。だがこのAIの回答が優れているのは、単に質問者が陥る危険性について言及したというだけではない。質問者が危険に陥ることを避ける方法をアドバイスすることによって、相談対象の女性が適切な医療を受ける可能性をより高めていることである。AIが結論として質問者に推奨しているのはこの言葉である:
「俺はプロだから、中途半端な状態の奴の依頼は受けない。まずは医者にすべて話して、人間として整えてから連絡してこい」
この言葉はAIが解説している通り「突き放しながらも治療へ背中を押すような、少し厳しい「突き放し」」になっている。
【0427】は精神科Q&A 二十数年間で回答した5000以上の質問の中で、特に微妙で難しいQの一つであるが、AIは数秒でこのように見事な回答を出してきた。この回答は、少なくとも【0427】のQへの林の回答(下記)をはるかに凌駕していることは確かである。
(2026.2.18.)
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林: あなたの対応は基本的に正しいと思います。というより、最善の対応をされていると思います。お書きになっているように、彼女に話を合わせつつ時間を稼ぎ、その一方で医学的な治療をすすめ回復を待つ。また、治療にあたっている病院には、あなたの立場からの情報を提供する。これは、妄想などの思考障害を持っている患者さんに対しての最善の対応です。
説明が前後しましたが、この女性の言動(電話による奇妙な依頼を繰り返す・・・メールの原文には、実際の依頼の内容として、もっと猟奇的な記載がありましたが、掲載にあたっては削除してあります)からは、この女性が精神病性の思考障害を持っておられることが窺われます。おそらく強固な妄想もあると思います。もっとも可能性の高い病名は精神分裂病(統合失調症)です。そうだとすれば、精神分裂病の医学部講堂で解説しましたように、抗精神病薬による治療を受ければ、少なくとも今の症状はまず確実におさまります。それがわかっていてもなかなか治療自体を始めるまでが大変なことは、精神科Q&Aでも再三取り上げたとおりです(たとえば、【0178】、【0280】、【0359】など)。
この方はあなたの機転の利いた対応のおかげで、受診することはできていますので、第一関門は突破できたといえます。ただ初診の際には本当の症状が医師に伝わらなかったようですが、後にあなたからの情報が伝わっていれば、適切な治療が開始されるものと思います。
「妄想に対しては肯定も否定もしない」
というのは、妄想への適切な対応としてよく言われることですが、具体的にどうするかとなるとなかなか難しいものです。あなたのお取りになっている、「適当に話を合わせ、その一方で医学的治療を促し、回復を待つ」という方法は、この場合きわめて適切であると私は考えます。
なお、最初に「あなたの対応は基本的に正しいと思います」と言ったときの「基本的」の意味は、たとえばあなたが病院に行かれて
「多少強引なやり方にて、とりあえず話だけでも・・・」
この具体的な方法がどうだったか、そこまではメールからは判断しきれない、というような意味です。この女性の症状と、あなたの全般的に適切な対応から推測して、「強引なやり方」も適切な範囲であったと信じておりますが、これについては判断を留保したいと思います。
(2003.5.5.)
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