【4935】精神科において自分の生育歴を正直に打ち明けるべきか
Q: 39歳男性です。
20代なかばに被害妄想、幻聴・幻視・希死念慮があらわれ退職。その後年単位で引きこもり20代後半の頃に統合失調症の診断を受け以降薬物治療(インヴェガ9mg/Day)を受けておりました。幸い30代半ばの頃にある程度社会生活を送れる程度には回復しストレス状態によっては被害妄想が多少でるものの、現在障害者雇用と障害年金でなんとか生活しております。(服薬はインヴェガ3mg/Day)
私は、生まれ育ちが少々特殊で父があるプライム上場企業の社長です。幼少時に両親が離婚したため直接的なつながりはほぼありませんが金銭的な援助は受けてきました。(引きこもっている間滞りなく生活できたのもそのためです)
また、いじめによる引きこもりで約9年間児童養護施設に預けられ親元から離れて暮らし、その間、かなり凄惨な施設内虐待(施設職員から金属バッドで殴られる等)も経験しております。
発症後の初診時に家族歴・生育歴・現在の生活状況(金銭面含む)などを尋ねられた際に、これらのことを正直に話したところで「よくある妄想乃至虚言癖」として扱われるような気がして、かなりぼかして(というよりもほぼ伝えてないというレベルで)しまいました。現在でも妄想扱いされることが怖くて話しておりません。(医師自体は信頼の置ける方ですし前述した情報が診断に必要であることも存じてはおります。)
果たして今からでも正直に上記情報を伝えたほうが良いのか、それとも現在は小康状態まで持っていけたのだから今後も伝える必要はないのか知りたいと考えメールいたしました。ご教示いただけますと幸いです。
林: それはあなた自身が医療に求めるものや、医療に対する期待度、信頼度によります。
生育歴は精神症状の評価や治療計画を立てるうえで非常に重要な情報ですから、精神科の医療者の側からすれば必須の情報です。しかしながら、生育歴を十分に考慮したうえでの評価が正確にできるとは限りませんし、生育歴を十分に考慮したうえでの治療計画が、それを考慮しない治療計画より優れたものになるとも限りません。むしろ表面的な評価や治療のほうが現実的には適切な場合もあります。表面的とはたとえば、今ある症状だけに着目して薬を出すというような治療です。そのような治療は精神医学的には邪道とも言えますが、下手に深く考えて治療するよりもむしろ効果という点では適切な場合があるのも事実です。逆に、生育歴まで遡った治療は裏目に出る、つまり少なくとも一時的には症状を悪化させる場合も多々ありますし、誤った評価や治療につながるおそれもあります(質問者の「これらのことを正直に話したところで「よくある妄想乃至虚言癖」として扱われる」という危惧が実現した場合はそれにあたると言えるでしょう)。
そういたしますと、
現在は小康状態まで持っていけたのだから今後も伝える必要はないのか
その考え方も十分に妥当とみる余地があります。
(2025.3.5.)