【4932】イマジナリーフレンドが変わってしまった

Q: 23歳女性です。
中学生のころに過呼吸を起こしてから、精神的に脆弱で、大学一年生のころから精神科に通院しています。気分変調症(大学時代)→適応障害(就職後)→ 抑うつ状態(現在)と診断名が変わっています。先生も何回か変わっています。
去年の春から社会人として働き始めたのですが、体調が悪化して三か月で休職してしまいました。(それまではトラゾドン25㎎×2、ロラゼパム0.5㎎×2で割と安定していました)その時の症状は

・胃痛、昼食を吐く、頻繁にえづく
・強い希死念慮
・よくわからないが涙が出る
・中途覚醒
・電車で立っていられない
・頻繁に叫ぶ

などです。その後、休職して今は、トラゾドン25㎎×3、ロラゼパム0.5㎎×2、エバミール1.0㎎、トリンテリックス10㎎を飲んでいます。
年末あたりから、そろそろなにかしたほうがいいかと勉強を始めたら、なんだか悪化してしまいました。
先日強い希死念慮に耐えられなくて、友人に相談しました。

私「すごく死にたいの」
友人「なんで?」
私「死ななきゃいけないから」
友人「そうなの?」
私「だって死ねって言われるから」
友人「誰に?」

そこで私は気づきました。誰も私に死ねなんて言っていないということに。
むしろ家族や友人などは、私に生きていてほしそうです。そこで、「彼」の存在を思い出しました。

私には小学生のころ、イマジナリーフレンドがいました。彼は「黒ウサギ」といって(名付けたのは私ですが)、むすっとした顔をしてました。彼はひねくれていて、皮肉屋で露悪的で、ズバズバとものを言います。でもそれは、私が失敗したり怒られたりしないために、アドバイスをくれているからなのでした。(もっとも、私が怒られたり失敗したりしないようにするために生み出したのが「彼」なので、当然のことではあるのですが……)彼のいうことはいつも正しいのです。
中学生以降、あまり姿を見なくなりましたが、「私といつのまにか同化しちゃったのかな」と考えていました。イマジナリーフレンドは成長とともに消失するものだというのをどこかで見たので。

私に「死んだほうがいい」と言っていたのはまさしく彼でした。でも、気づいたとき、彼はもう「黒ウサギ」と呼べるものではなくなっていました。
黒くてべちゃべちゃの物体で細い体をまゆのように包んで、私の中にべっったりと張り付いて巣くっています。
彼は「働かざる者食うべからず」「社会のお荷物なのだから、お前には生きる価値がない」「ろくに働けないのに、これから先に明るい未来が待っていると思うか? 苦しむくらいなら今すぐ死んでおいたほうがいい」「みんなお前に死んでほしいと思っている」 などと言ってきます。そして私は彼を直感的に正しいと信じているので、「うんうんそうだ、死のう」と思うのですが、やっぱり死ぬのが怖くて、苦しくて泣いてしまいます。

ただ、彼は私のために、善意のアドバイスとして言ってくれているのだと思います、たぶん。 というのも、私が「自分には価値がない‥」などというと、ほとんどの人や文章が「そんなことはないよ」と言ってくれます。これはこれでありがたいのですが、元黒ウサギの彼は「そうだ、お前には価値がない」と言ってくれます。
そうすると、自分の考えを肯定してもらえて、安心するのです。

でも、これでは私が死にたいから彼が「死になよ」と言ってくれているのか、彼が「死ね」というから私が死にたいのか、もうわかりません。というか彼って私(の一部)ですよね? 私が彼で、彼が私で、もう何が何だか、どれが私の「真の」考えなのかわかりません。苦しいのも死にたいのも本当は全部妄想で嘘なんでしょうか。

主治医に(このメールほど詳細ではありませんが)頭の中にもう一人いるんだと伝えると、レキサルティが追加で処方されました。これを飲むと、彼は消えてしまうのでしょうか? 彼はもともといいやつだったし、私の都合で消されてしまうのはなんだかかわいそうです。どうして変わってしまったんでしょうか。
私は一体、今どういう状態なんでしょうか。

 

林: イマジナリーフレンドは、本人の主観的体験としては、本人とは別の存在ですが、実際は本人以外の何者でもありません。今回ご質問されている疑問内容については、質問者ご自身が、このことを十分に意識してお考えになる必要があると思います。つまりイマジナリーフレンドの言葉や態度は、すべて質問者ご自身の言葉や態度であるということです。

彼って私(の一部)ですよね?

とお書きになっているように、「イマジナリーフレンドの言葉や態度は、すべて質問者ご自身の言葉や態度であるということ」は質問者も理解されていると思います。それでも自分とは別の存在であると感じられるのがイマジナリーフレンドの特徴ですが、主観的にどう感じられるにせよ、本人以外の何者でもありません

(イマジナリーフレンドは)  どうして変わってしまったんでしょうか。

それは質問者ご自身の変化を反映しています。

彼のいうことはいつも正しいのです。

彼のいうことは質問者ご自身のお考えですから、その意味ではいつも正しいといえます。「いつも正しいと感じられる」と表現したほうが正確でしょう。但し人は正しくないことを考えることがあるわけですから、客観的にみたときにはいつも正しいとまでは言えません。

私が彼で、彼が私で、もう何が何だか、どれが私の「真の」考えなのかわかりません。

人間の 真の考え とは何を指すかによって答えは違ってきます。
質問文に「真の」とカギ括弧をつけておられることから、質問者も、「真の」という言葉の深い意味、ないしは曖昧さを十分に意識しておられるのだと思います。

苦しいのも死にたいのも本当は全部妄想で嘘なんでしょうか。

妄想でも嘘でもありません。但しそれが質問者のすべてでもありません。質問者の中の一部に「苦しい、死にたい」という気持ちがあるということです。

主治医に(このメールほど詳細ではありませんが)頭の中にもう一人いるんだと伝えると、レキサルティが追加で処方されました。

質問者が主治医にどこまで具体的にお伝えになったのか、また主治医がレキサルティを追加で処方したといっても、ただ処方しただけではなく質問者への何らかの言葉があったと思われますから、レキサルティ処方という医療行為の適切・不適切の判断はできませんが、この処方によってイマジナリーフレンドが消えることはないでしょう。

私は一体、今どういう状態なんでしょうか。

イマジナリーフレンドは質問者の内面の自覚の一つの形式にすぎません。そのような形式で表れているということももちろん重要ではありますが、イマジナリーフレンドの言葉や態度(や、この【4932】では外見)を生み出している質問者自身の内面を冷静に見つめることが必要だと思います。

(2025.3.5.)

05. 3月 2025 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 解離性障害