【4899】嫌がらせが原因で会社を転々としているという新入社員は統合失調症でしょうか
Q: 私は30代女性です。
最近、私の勤め先に転職してきたAさん(女性・40代)について質問させていただきます。
Aさんはハキハキとしていて清潔感がある方で、仕事も素早く正確にこなし、即戦力になっていただけそうな方です。
しかし、入社して数日後、一緒にランチに出かけた際、Aさんからこれまでの経歴について驚くような話を聞きました。
Aさんは10社以上転々としてきており、毎回陰湿な嫌がらせで退職に追い込まれたというのです。
すれ違いざまに無能、使えないなどの悪口を言われたり、背後から一挙手一投足を観察され、ペン立てを倒したなどの些細なことでも噂され、その後何日間もこそこそと笑われたりしたそうです。同じビルに入っている違う会社の人からもエレベーターで陰口を言われたとかとか、人事や上層部も総出で嫌がらせをしてきた会社もあると言っていました。
被害について語るAさんの口調は熱っぽく、目を限界まで見開いていて、どこか異様な恐ろしさを感じました。1社1社どんな嫌がらせがあったかはっきり覚えているようで、早口で一言も噛まずに熱弁した後、「まぁ、○○業界は陰湿な人が多いですからね、やだやだ、怖い怖い」とニコニコしていました。
行く先々で陰口を言われると聞いて私は真っ先に統合失調症が思い浮かびましたが、Aさんと1ヶ月以上働いてこれと後述の2点以外に違和感を感じたことはありません。
その2つの違和感とは、①潔癖すぎる②自己開示をしすぎる です。
①は、1日に5回はデスクの上のものを全てどかせた上で除菌シートで拭いていたり、昼休憩の終わりに毎日10分近く手を洗い続けていたりしています。手は乾燥して皮膚が裂け、痛々しくて直視できないほどです。
②嫌がらせ被害の話もそうですが、ほぼ初対面の間柄だった頃から非常にプライベートな話題ばかりです。家庭の事情や過去の恋愛、身内や自分の病気まで、無防備すぎるほど全てを話します。しかし、幻や統合失調症の話題は出ておらず、精神科には一度もかかったことがないそうです。自分であれば言いづらいと感じることでもAさんは包み隠さず話すので、精神科云々についても嘘をついているとは思えません。
嫌がらせが事実ではない場合、10年以上前から幻聴や被害妄想が続いていたことになりますが、無治療であればもっと悪化しているものではないのでしょうか。
単に思い込みが激しい性格ということなのでしょうか。
お考えを伺えますと幸いです。
林: Aさんは統合失調症圏内の精神障害です。「統合失調症圏内の精神障害」とはすなわち、統合失調症の脳内に発生している変調と、化学的に同じ種類の変調が、脳内に発生しているということです。但しその「変調」は、統合失調症と全く同じではなく、「統合失調症の脳内に発生している変調の一部と同じ」というのが正しい表現ということになるでしょう。精神科を受診する方の中にはこういう方がかなりいらっしゃいます。一方、精神科を受診しない方の中にもこういう方が相当数いらっしゃると推定できます。Aさんもその一人ということになるでしょう。このような方の厳密な診断名が何であれ、このような症状に対しては、抗精神病薬が有効なことが非常に多いですから、Aさんも精神科を受診して治療を受ければ、つらい日々からかなり解放されると思います。
(2024.12.5.)