【4767】被害妄想と強迫観念がある母について

Q: 被害妄想と強迫観念がある母について相談したくメール致しました。私は19歳の娘で、母は52歳です。母は父と離婚はしていませんが、4年前から別居しており、今も母と私の二人暮しです。

まず、強迫観念についてですが、これはかなり昔からで、被害妄想と違い母にも自覚があります。手を何度も洗うとか、車で人を轢いてしまったかもという加害恐怖もあります。これは関係ないかもしれませんが、電磁波を異様に怖がっています。そして、1番酷いのが、何十年の前のことを唐突に思い出し、不安がり始めるということです。「20年前に大掃除したときにマイクロプラスチックを吸い込んだかもしれない。肺がんになるかも」とか「中国に旅行に行った時に食べた料理のせいで寄生虫に感染してるかも」とか「人の血液を素手で触ったことがあるから、なにか感染症が移ったかも」などです。
血液検査や人間ドックの際に医者からは何も無いから大丈夫と言われたそうなのですが、これらのショックな出来事を唐突に思い出しては不安に駆られるようで「本当に大丈夫かな?」と私に何度も何度も聞いてきて、大丈夫という返答を要求してきます。

次に、被害妄想についてですが、約2年前、家の外に黒いゴミの塊が落ちていたのを母が見つけ、それが盗聴器だったのではないかと言い始めたことが始まりです。その少し前に私が難病を発症したため、過保護な母はかなりストレスを感じていたことが影響していたのかもしれませんが、こんな突拍子もないことを言ったのはこれが初めてでした。そのゴミを拾っている間、向かいの家に住むSさんがずっと母を見ていたと母は言っていて、娘の私が病気にかかったのを聞きつけて、噂を流そうとしているのではないかと心配していました。

数日後、母は警察に相談しましたが相手にされなかったそうです。それから「Sは夜中2時まで私たちの家を見張っている」「お風呂中に人気を感じた。きっとお風呂に入っている間に盗聴器を仕掛けているんだ」などと訴えるようになりました。それ以降、大切な話は筆談にしようと言われ、私が少しでも個人情報(例えば誕生日の日付もダメです)を声に出して言うと過剰に反応して怒るようになりました。

また、それから2ヶ月後には、職場の同僚Nさんから「娘さんあの難病なんですってね」と私の病名を言い当てられたそうです。これは対面で言われたそうなので、幻聴ではないと思います。ちょうどその数日前に母とドライブ中、私の病気について会話していたため、今度は「車内にも盗聴器が仕掛けられている」と言うようになりました。そのため、何度も車屋さんに行き、車を分解して調べて貰ったのですが、何も見つかりませんでした。そこで、母は数十万かけて車の中と家の周りに監視カメラを設置しました。他にも、合鍵を作られるかもと車の鍵穴を埋めてもらったり、ゴミを漁られるかもとゴミ回収の車が来るまで、出したゴミを見張っていたり、家にゴキブリを投げ込まれていると言って郵便受け(埋め込み式)をガムテープで塞いだりしました。その後何故か少し落ち着いた時期もあり、「盗聴器の電池はもう切れたと思う。きっと犯人は捕まえられないしもう諦めようかな」と言ったり、盗聴器の話題を話す頻度も少なくなりました。しかし、また時間が経つと、「家の中にいてもなんだか見られている気がする。盗聴器だけじゃなくて、盗撮器とGPSも仕掛けられている」と言って、家に取り付けた監視カメラを毎日確認するなど悪化していました。さらに、隣の家から盗聴器について話す声が聞こえたと言ったこともありました。確かに隣とは家の距離が近いので、話し声が聞こえる可能性はありますが、私は聞こえたことはありません。母の完全なる幻聴か、うっすら聞こえてきた話し声を自分の都合よく解釈しているのかは分かりません。

それらの意地悪をしているのは、前の家に住むSさん、同僚のNさん、前に住んでいた家(別居したので、今は父だけが住んでいます)の隣に住むYさんの3人だと母は言っていました。NさんとYさんは元々職場の同僚らしく、3人は仲良しでよくご飯に行っていて、その時にお母さんを虐める手立てを話し合っていると母は言っていましたが、どこまで本当かは私には分かりませんでした。

そんな中でも、母は仕事にも行っていましたし特にトラブルを起こすことも無く家事も完璧にこなしていました。

私は統合失調症か妄想性障害かなと思ったのですが、発症が遅すぎるとも思います。しかし、このまえ父に聞いたところ、結婚当初から「誰かに見られている」と言って全ての窓にブラインドを設置したり兆候はあったようです。父は精神科を薦めたこともあったそうですが、酷く怒ってきたため諦めたそうです。そういえば私も思い起こせば、幼稚園児の頃、「近所に住む若い女性が、私たち家族を破綻させようと父を誑かし家に誘っている」と母が言い始めたため、それを避けるためYさんの隣に引っ越し、また次はYさんから、「母は凄い男好きで不倫している」という噂を流され近所全員から無視されたとよく言っていました。そのせいでまた引っ越して別居が始まり、次はSさんから「引っ越して来たばかりのくせに大きい顔をしている」と悪口を言われていると言って、しまいには「SとNとYが共謀して盗聴器を仕掛けてくる」と言うようになったという流れになります。

これまでの意地悪された経験から、母は神経質な性格となり、今回の盗聴器などの被害妄想に発展したか、又は昔からずっと精神病でこれら全ては被害妄想か、のどちらかかと私は思っているのですが、林先生はどう思われますか?

しかし、8ヶ月ほど前に状況が良くなりました。恐らく、私が他県で就職したため、母も転職し他県で一緒に暮らし始めたことが理由です。すると、盗聴器の事などほとんど言わなくなり、現在は、私から見てもとても落ち着いております。ただし、地元に帰った時は、やっぱりSが見張ってくるとは言っていて、未だに盗聴器があったことは信じていますが……。また、新しい職場で少し厄介な人がいて、その人に悪口を言いふらされてるとは言っていますが、その人は周りからも厄介者扱いされてるようなので、母の被害妄想かは分かりません。

私が高校生の時、スクールカウンセラーの先生に相談したことがあったのですが、「現実に絶対ありえないような妄想では無いので、病的とは言えないから、病院に連れていくほどでもない。様子を見れば大丈夫」とアドバイスを頂きここまで2年間様子を見てきました。元々高校教師をされていた方で精神病にお詳しいのかは分からなかったので、本当に病院に行かなくていいのか少し不信感があって、私からも母を病院に何度か誘ってみたのですが、その度に「私のことをおかしいと思ってるのか」と怒鳴られ結局何も出来ませんでした。確かに、他県へ引っ越してからは落ち着いていますので、これからも様子を見ていけばいいでしょうか?

母がもし病気だとすれば、強迫性障害と統合失調症または妄想性障害でしょうか?
長文大変失礼致しました。

 

林: お母さまは病気です。「もし病気だとすれば」という仮定法で考える必要はないレベルです。間違いなく病気です。

私は統合失調症か妄想性障害かなと思ったのですが、

おそらくそうでしょう。

発症が遅すぎるとも思います。

統合失調症は典型的にはもっと若い時期に発症しますが、それは典型的にはそうだということにすぎず、中年以後に発症したとしても統合失調症を否定する根拠にはなりません。また、妄想性障害は中年以後に発症しても典型的でないともいえません。

このまえ父に聞いたところ、結婚当初から「誰かに見られている」と言って全ての窓にブラインドを設置したり兆候はあったようです。

そのころに発症したか、少なくとも前駆期ではあったといえるでしょう。

これまでの意地悪された経験から、母は神経質な性格となり、今回の盗聴器などの被害妄想に発展したか、又は昔からずっと精神病でこれら全ては被害妄想か、のどちらかかと私は思っているのですが

精神疾患の原因として、非常に多くの方は、まず心理的な原因を考えがちですが、明白な精神病症状(お母さまの症状は明白な精神病症状です)が心理的な原因で発生することは、ごく一過性のものを除けば、まずありません。したがって「これまでの意地悪された経験から、母は神経質な性格となり、今回の盗聴器などの被害妄想に発展した」とは考えにくく、「昔からずっと精神病でこれら全ては被害妄想」と考えるべきです。

私が高校生の時、スクールカウンセラーの先生に相談したことがあったのですが、「現実に絶対ありえないような妄想では無いので、病的とは言えないから、病院に連れていくほどでもない。様子を見れば大丈夫」とアドバイスを頂き

そのアドバイスは全くのでたらめです。妄想の中には「現実に絶対ありえないような妄想」もあれば、現実にも十分起こりうるものもあり、むしろ後者のほうが頻度としては高いです。「病院に連れていくほどでもない。様子を見れば大丈夫」は、とても専門家とは思えない無責任なアドバイスです。

他県へ引っ越してからは落ち着いていますので、これからも様子を見ていけばいいでしょうか?

これは非常に難しいところで、お母さまは間違いなく病気で、このまま自然に治ってしまうことはまず考えられません。しかし今の環境での生活を続ける限り、ひどく悪化まではしないことも期待できないこともありません。一方、これまでの経過からみて、お母さまを病院に連れて行くためには相当な困難があると予想され、また、仮に連れて行き受診させることができたとしても、今の状態は強制的に治療をするほどではないと医師に判断されると思われますので、せっかくの苦労が無駄になる可能性が高いです。そうなりますと、現実には、慎重に様子を見る以外にないと思います。しかし将来のどこかの時点でまず確実にまた悪化すると予想しておいたほうがいいでしょう。

(2024.1.5.)

05. 1月 2024 by Hayashi
カテゴリー: 妄想性障害, 強迫性障害, 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , , |