【4745】大麻精神病について

Q: 私は40代、女性です。海外に住むようになって20年近く経ちます。大麻精神病について教えていただきたくメールを差し上げることにしました。

ヨーロッパなどではここ数年大麻を合法として解禁する国が増え始めました。合法と言っても、個人使用は違法でないものの免許なしの販売は違法、またはある程度の量以上を保持していると販売目的とみなされ罰則がある、などの条件付きが多いようです。私自身は大麻の経験もなく、また興味もないので各国の条件についてあまり詳しくないことを申し上げておきたいと思います。

私の周りのごく近しい人たちの中にも、大麻を使用している人たち、常用しており依存していると思われる人たちがいます。本人たちは一様に、大麻はアルコールやタバコに比べて依存性は低く、またヘロインなどのハードドラッグに比べて危険が少ない(依存のため攻撃的にならない、身体依存が低いため健康に害が出にくい、大麻を使用しながらも通常の社会生活は送れる、など)と述べており、大麻による食欲増進や緊張した精神をほぐすリラックス効果などの健康効果や利点を上げる傾向にあります。

確かに、大麻常用者はアルコール依存症などと比べて、大人しく暴力的ではないように見受けられます。しかし私個人の感想としては、穏やかでいい人だが行動が遅い人、忘れっぽい人、お金にだらしない人などが多いように思います。本人が「それは性格だ」といってしまえば、大麻使用前の本人を知らない以上否定材料はありません。しかし独特の顔つきをしており見ただけで薬物をやっているのが分かる人も多く、やはり無視できない影響が出ているのではないかと思う場合がほとんどです。

林先生のQ&Aでも時折大麻について触れられているものがありますが、アルコール依存や覚醒剤などの具体例はあるものの、大麻については見つかりませんでした。
そのため、林先生に大麻と大麻精神病について、症状やどのように発症するのか、また現在の精神医学ではどのような扱いなのか教えていただければと思いメールを差し上げることにしました。

お忙しい中恐縮ですが、ご回答いただけますと幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。

 

林: まず大前提として、もちろん大麻は有害です。大麻精神病の重症例として最近の有名なものは、2016年の相模原障害者施設殺傷事件(やまゆり園事件)です。あの事件は大麻精神病の症状としての妄想に基づいて行われたもので、短時間のうちに19人の方が殺害されています。あの事件を見れば大麻がいかに恐ろしい薬物であるかが明白ですが、裁判では、犯行動機は障害者差別という偏った思想によるものであるということのみが強調され、大麻精神病の影響は無視されたため、大麻精神病の実態が社会から隠蔽されることになりました。裁判所が真実を解明して発表していれば、大麻の危険性を人々が強く認識し、大麻濫用の件数はかなり減っていたことでしょう。

大麻に限らず、薬物濫用者・薬物依存者は、その薬物には危険性は少ないと主張し、メリットの方が大きいと主張し、使用を正当化するのが常です。

私の周りのごく近しい人たちの中にも、大麻を使用している人たち、常用しており依存していると思われる人たちがいます。本人たちは一様に、大麻はアルコールやタバコに比べて依存性は低く、またヘロインなどのハードドラッグに比べて危険が少ない(依存のため攻撃的にならない、身体依存が低いため健康に害が出にくい、大麻を使用しながらも通常の社会生活は送れる、など)と述べており、大麻による食欲増進や緊張した精神をほぐすリラックス効果などの健康効果や利点を上げる傾向にあります。

それは薬物濫用者・薬物依存者に典型的な主張です。どの薬物にもある程度のメリットはありますから、危険性が周知されなければメリットの方が強調されるのは理解できることです。そしてそれによって依存が進み、その一部は精神病状態になり、さらにその一部は犯罪を犯すことになります。【4422】覚せい剤は1回でやめられる? 大麻は依存性が少ない? もご参照ください。

しかしここで重要かつ複雑な点は、「依存が進」むのは薬物使用者の一部であり、「精神病状態にな」るのはさらにその一部であり、「犯罪を犯すことにな」るのはさらにその一部であるということです。ここで「一部」がどの程度(何パーセント)であるかは、正確にはわかりません。

但しだからといって逆に安全とは言えないのは当然で、危険性の方を無視して使用し続ければ、依存が進み、精神病状態になり、犯罪を犯す率は高まります。

独特の顔つきをしており見ただけで薬物をやっているのが分かる人も多く、やはり無視できない影響が出ているのではないかと思う場合がほとんどです。

質問者のその印象は正しいと思います。質問者が在住しておられる国での大麻についての法規制の詳細は不明ですが、日本においては大麻は違法薬物ですから、それを知っていながら害は少ないという勝手な解釈により使用し続けるということは、法を遵守する意思があまりないと推定されますし、依存が進んでいる可能性が高く、精神病状態に陥る可能性も高いと言えるでしょう。繰り返しますがその末路が相模原障害者施設殺傷事件です。

質問者が在住されている国では大麻は合法であると推察されますが、そうであれば法による抑制がかからないことになりますので尚更、本人に大麻についての危険性の認識がなければ、大麻によって心身が蝕まれる可能性は高いということになります。

(2023.11.5.)

05. 11月 2023 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A タグ: , |