【4714】過換気症候群の処方薬でせん妄を発症している祖母
Q: 私は介護職をしている30代男性です。五年程前からこのサイトを閲覧してきました。そのお陰で精神医学について知見を得ることができ、職務上大変役立っております。ありがとうございます。
さて相談なのですが、80代後半になる私の祖母についてです。祖母が認知症のようになっていると母から伝えられ、心配だったので帰省の折、祖母の家を訪問してみました。彼女の介護をしている同居人に話を聞いたところ、一年程前に過換気症候群の発作が出るようになったらしく、精神科を受診したそうです。発作に対する頓服薬としてデパス(成分量不明)を処方されるようになりましたが、発作の多さから一日三回服薬するようになり、現在では、それに加えて就寝前の薬としてレクサプロ(成分量不明)を処方されているとのことです。
デパスを服用してから二、三時間経った頃の祖母に面会した私が彼女から感じた症状は、
判断力、注意力の低下
思考がまとまらない
感情が安定しない
不安感、恐怖感
性格の変化(以前と比べてかなり内向的になった)
希死念慮
です。デパスの副作用によってせん妄を発症している、か、元々認知症の症状があってそれが強化された状態かな、と私は考えていましたが、同居人に聞いたところ、最初に受診した段階で脳の画像診断を済ませて認知症との診断はおりなかったとのことでした。認知症評価スケールを使った検査は受けていないそうです。
現在、精神科の主治医の方は一度に長期間分の薬を渡さず、三週間程の間隔で同居人に来院させて (祖母は外出を困難に感じているようです)祖母の様子をヒアリングしているそうです。また、主治医に対して同居人が、祖母の夜中の発作に対応するため現状の一日三回に加えて更に薬を増やして欲しいと訴えると、これ以上の増薬は駄目だと断られたそうです。
医師の方より適切な判断を私ができるということは殆ど有り得ないでしょうし、祖母の状態を一定期間直接に見ている訳でもないですから、横槍を入れることはしないつもりです。が、発作もやまずデパスの服用もやめられずに恐らく長期間不安感、恐怖感に苛まれている祖母を目の当たりにすると、なんとかならないものだろうかと思ってしまいます。
そこで質問です。
過換気症候群の発作を抑え、且つ、高齢者においてせん妄が起こりにくい薬というのは存在しないのでしょうか?
また、もう一つ気になるので質問なのですが、
祖母がこの状態のまま認知症になってしまっても薬の副作用によるせん妄と区別がつきにくいのでは、と思うのですが、この場合、認知症の検査を定期的に行なうことは一般的ではないのでしょうか?現在は同居人へのヒアリングだけで判断しているのだと思いますが、それで十分なのでしょうか?(例え、ヒアリングの中で日内変動や服薬後の激しい変化があるらしいことを確認できた時点で認知症ではない、と判断してしまえるものなのでしょうか?)
林:
デパスの副作用によってせん妄を発症している、か、元々認知症の症状があってそれが強化された状態かな、と私は考えていました
そのお考えは適切な推定だと思います。単純には、高齢者がデパスの服用後にせん妄になったという経過からは、デパスの副作用である可能性が最も高いと考えるのが医学的常識です。
但しこのケースでは、ご指摘の通り、「元々認知症の症状があってそれが強化された状態」である可能性も考える必要があります。
この点について、
最初に受診した段階で脳の画像診断を済ませて認知症との診断はおりなかったとのことでした。
とのことですが、(おそらく介護職に就いておられる質問者もわかっておられると思いますが)、脳の画像診断で認知症の診断を否定することはできませんから、これだけでは認知症であるともそうでないとも言えません。
認知症評価スケールを使った検査は受けていないそうです。
最低限でもその検査は必要ですが、認知症評価スケールはスクリーニング検査にすぎませんから、たとえその検査で認知症の得点にならなくても、認知症を否定することはできません。
そしてこのケースでは、デパス服用前の状態についての記載がありませんので、認知症の疑いがあると言えるかどうかは判断できません。
それでも一つ言えることは、80代になって過換気症候群を発症するというのは稀なことなので、その過換気症候群という診断が正しいかどうかも疑問です。これについても具体的な症状の記載がありませんので判断できません。
以上の通りですので、まずデパスの服用に至った理由である診断そのものから見直す必要があります。そして、80代の高齢者に対しては、一般論としてはデパスはせん妄を惹起しやすく、仮に処方するとしても慎重を要するものですから、過換気症候群と安易に診断してデパスが処方されたのであれば(「過換気症候群と安易に診断」したかどうかは不明ですのでこれは仮定にすぎません)、診療全体に疑問が投げかけられるところです。
したがって、ご質問の、
過換気症候群の発作を抑え、且つ、高齢者においてせん妄が起こりにくい薬というのは存在しないのでしょうか?
につきましては、そういう薬について考える前に、することはたくさんあるというのが答えになります。
もう一つのご質問の、
祖母がこの状態のまま認知症になってしまっても薬の副作用によるせん妄と区別がつきにくいのでは、と思うのですが、この場合、認知症の検査を定期的に行なうことは一般的ではないのでしょうか?現在は同居人へのヒアリングだけで判断しているのだと思いますが、それで十分なのでしょうか?(例え、ヒアリングの中で日内変動や服薬後の激しい変化があるらしいことを確認できた時点で認知症ではない、と判断してしまえるものなのでしょうか?)
この点につきましては、すでにお書きしましたとおり、認知症であるか否かはこれまでの検査だけでは全くわかりません。より精密な検査が必要です。
(2023.8.5.)