【4678】周囲が妄想を肯定すると精神疾患は悪化するのか

Q:  20代男性です。 いつも興味深く拝読しております。
今回は、「精神疾患の症状の妄想は、他者の肯定によって強化されるのか」
ということを先生に伺ってみたく、筆をとったしだいです。

自分は双極性障害の診断が降りて三年ほどになります。軽躁程度ですが、躁状態になると過活動とともに過剰な自尊心・自己顕示欲が強まります。その過程で、「自分は素晴らしい能力がある」「自分は多くの人に評価される余地がある」という考えに囚われることがあります。
それについては「病的だなぁ」という自認がある一方で、仕事や趣味で行っている活動でそれなりの評価を得ていることもあり、病的な思考と正常な思考の境目があいまいになることもあります。
例えば、「自分の活動は有名人から評価を得ているのでは?」という考えに固執することがあります(公言したりはせず、内心で思うだけです)。これだけ抜き出すと妄想のようなのですが、実際にある分野の有名な人からアクションを頂けたり、周囲から「○○さんはたぶん見てるよ」と言われたりするなど、幸運なことに「まるで妄想のような」状況が形成されてしまっています。
喜ばしいことではありますが、自分の病状を顧みるに、こういった賞賛や承認がトリガーとなって、「自分は選ばれた人間だ!」という偏った思考を強化させてしまったり、「あの人は自分を好きなはず」という妄想などになってしまわないかがとても不安です。
躁状態・鬱状態の際の自分の感情のコントロールがいかに難しいかを考えたり、当事者として交流した統合失調症の方の幻覚・幻聴・妄想などの諸症状の話を思い出したりして、「この先、己の双極性障害が極端に悪化したら、妄想を振りまく人間になってしまうのでは・・・」と危惧してしまいます。
現在は服薬でメンタル面は比較的安定していますが、身体症状もあり、いまだ寛解に向かうほどでもないので。

「正常な思考~認知の歪み~妄想の境界はどこ?」という問題は、このQ&Aを拝見していてもとても難しい問題だと思います。
ネットを見ていると、おそらく統合失調症と思われる言動をされている方を揶揄し、集団で自宅に押し寄せるなど、それこそ「まるで妄想のような」状況をわざと作って楽しんでいる人々もいたりします。悪質極まりないものですが、そういった問題を見るたび「周囲が妄想を肯定したり、それに近い状況が作られていると、精神疾患は悪化するのか?」というところがずっと気になっています。
もしもそうだとしたら、そういった悪質なケースは是正されるべきなのはもちろん、自分のような「幸運にも・・・」のタイプも、より安全な距離を持って他者と接することは心がけるべきなのでしょうか。
自分の思考の偏りを疑いながら生きることは、どんな人間でもある程度は必要なことだと思いますが、労力のかかることでもあると実感しています。

 

林:
今回は、「精神疾患の症状の妄想は、他者の肯定によって強化されるのか」
ということを先生に伺ってみたく、筆をとったしだいです。

強化されます。

ただし「強化」の意味はやや難しいところで、妄想の原因となっている病気がその本質において強化されるとまではおそらく言えないでしょう。ここでいう「本質」とは、脳内のメカニズムを指し、そのメカニズム自体は、薬物療法など、脳内の状態を変化させる介入なしでは改善も悪化もしないと考えられます。とは言え、周囲の接し方によって、症状自体は良くも悪くもなりますから、その意味では「精神疾患の症状の妄想は、他者の肯定によって強化されるのか」と言えます。
このとき逆に、「精神疾患の症状の妄想は、他者の否定によって弱まるのか」ということになると、「弱まらない」が答えになります。むしろ妄想を持つ当事者は頑なになり、「周囲は自分を全くわかってくれない」と思ったり、さらにはその否定した他者が妄想の中に組み込まれて、自分を迫害するメンバーの一人であると考えるに至ることも少なからずあります。

自分は双極性障害の診断が降りて三年ほどになります。軽躁程度ですが、躁状態になると過活動とともに過剰な自尊心・自己顕示欲が強まります。その過程で、「自分は素晴らしい能力がある」「自分は多くの人に評価される余地がある」という考えに囚われることがあります。
それについては「病的だなぁ」という自認がある一方で、仕事や趣味で行っている活動でそれなりの評価を得ていることもあり、病的な思考と正常な思考の境目があいまいになることもあります。

それは現実の状況に加えて、そのときの躁状態の程度にも大きく左右されていると思います。つまり、躁状態がある程度強ければ、「病的な思考と正常な思考の境目があいまい」になりやすいと言えます。

自分の病状を顧みるに、こういった賞賛や承認がトリガーとなって、「自分は選ばれた人間だ!」という偏った思考を強化させてしまったり、「あの人は自分を好きなはず」という妄想などになってしまわないかがとても不安です。

その不安を持ち続けることは、今後のご自身の病状の安定のために必要なことです。そして、「不安を持ち続け、自分の意志で注意する」だけでは抑制しきれない病勢というものがありうるという認識も必要です。つまり、そこは薬の力も借りないことにはどうしようもないという現実の認識です。

現在は服薬でメンタル面は比較的安定していますが、身体症状もあり、いまだ寛解に向かうほどでもないので。

ぜひ慎重に服薬を続けてください。

ネットを見ていると、おそらく統合失調症と思われる言動をされている方を揶揄し、集団で自宅に押し寄せるなど、それこそ「まるで妄想のような」状況をわざと作って楽しんでいる人々もいたりします。悪質極まりないものですが、

その通りで、そうした人々は、軽い気持ちで面白半分にやっているという認識であると思われますが、病気に苦しむ人の病気を故意に悪化させることをしているわけですから、人間としてきわめて残酷な行為をしていると言うべきでしょう。

自分のような「幸運にも・・・」のタイプも、より安全な距離を持って他者と接することは心がけるべきなのでしょうか。

その通りです。そして、そのときの病勢によって、他者の言動についてのご自身の受け取り方はかなり異なるという認識も重要です。

(2023.6.5.)

05. 6月 2023 by Hayashi
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