【4668】双極性障害2型についての意見

Q: 26歳女性、総合職の会社員です。
私は双極性障害2型と診断されています。
1型と2型は違う病気なんじゃないかと思い、先生の意見を伺いたく質問させていただきました。

【経歴】
22歳で新卒で入った会社を2週間休職しました。その時は仕事のストレスからくるうつ病と診断されましたが、精神科の薬に良いイメージがなかったため、一度も服薬せずに終わりました。当時は自分が躁鬱だとは全く思っていませんでした。今となって思うのは、休職期間が短くて済んだのは休職中に過活動になって軽躁状態になっていたからのではないかと思います。

その後、ジェットコースターのような波を繰り返しながらも、また仕事の負荷が重くなり限界を迎え、25歳の頃に2度目の休職をしました。今度は4カ月でした。この時は職場環境が合わないからと考え、自分では適応障害を疑いました。精神科へ通院を開始し、抗うつ薬を処方されましたが飲みませんでした。どうも自分に合う診断名が見つからないと思いネットサーフィンしていると、双極性障害2型の存在を知り「まさしくこれだ」と思いました。主治医にその旨を伝えたところ、やはり2型の診断に変わりました。今度は気分安定薬と抗精神病薬が処方されましたが飲みませんでした。なぜ頑なに服薬拒するかというと、副作用の心配や減薬・断薬が大変という問題があるからです。

【双極2型の診断を批判する人々の主張について】
私は以下のように思います。

(1) 双極性障害2型はADHDのように作られた病気⇒症状の辛さが社会に認知されるのは良いことだが、病気じゃないのに病気になったとか一生服薬が必要だと思い込まされている問題はある。
(2) 診断基準が甘くなっているのは製薬会社が儲けたいから⇒これは本当だと思う。うつ病キャンペーンの次は双極2型キャンペーンを始めたのだと思う。
(3) 誤って抗うつ薬を服用していたために躁転して病気になっているだけ⇒私の事例のように一切服薬をしていないにも関わらず躁鬱的な症状が出ている人間がいる以上、上記の主張は必ずしも合っているとは言えない。

【精神科の問題点】
確かに統合失調症や躁が重く社会的信用を損なう双極性障害1型や昔で言う大うつ病などは精神病と認定されるべきものだと考えます。しかし、軽躁で辛うじて社会生活をおくれる2型にまで気分安定薬や抗精神病薬を投与するのは間違っていると思います。双極2型の患者が増加しているのは、製薬会社が薬を売るために仕組んだ「流行り病」のせいだと思わざるを得ません。

たとえ薬を飲んだ時に症状が緩和されても、その後の患者のQOLが健全に保障されるとは限りません。精神科医は製薬会社とグルだとは言いませんが、安易に「流行り病」に便乗したり、薬を処方する治療のガイドラインは見直されるべきです。

私は双極性障害2型はどちらかと言えば発達障害に近いものではないかと思います。病気というより体質なのだと思っています。症状が辛いからといって薬に逃げていても本人が病気になった根本原因を解決しなければ治りません。それに薬の副作用も合わさって、何に苦しんでいたのか余計にぐちゃぐちゃしてわからなくなります。

それなのに精神科のHPや精神科の専門書を見れば「一生服薬が必要」とか「服薬しなければ9割以上の人が再発する」とか怖い脅し文句ばかりです。そもそも発症する原因すら解明されていないのに、なぜ服薬が必須であることは確実に言えるのでしょうか。やはり医療もビジネスだからなのでしょうか。

先生は双極性障害2型についてどう思いますか。

 

林: 双極性障害2型について、またそれに関連して精神障害の診断全般について、質問者のご指摘には正しい内容がかなり含まれていると思います。他方で、過度な一般化が見受けられますので、全体としてはあまり正しくないと言わざるを得ません。

【双極2型の診断を批判する人々の主張について】
私は以下のように思います。

として(1)(2)(3)が列記されていますが、これは
A. (1)(2)という主張があるが、(3)が質問者の結論で、(1)(2)は必ずしも正しくない
というのが質問者の結論なのか、
それとも
B. (1)(2)は正しい
というのが質問者の結論なのかがはっきりしません。
私は以下のように思います。
というのはA、Bのどちらの意味でしょうか。
この【双極2型の診断を批判する人々の主張について】だけを読むとAが質問者の結論であると思われますが、メール全体からは質問者の意見の基調をなしているのは(1)(2)とみるほうが妥当のように思われます。
したがって、この【双極2型の診断を批判する人々の主張について】の項については論旨が曖昧ですので私はコメントできかねます。

【精神科の問題点】
については、この回答の冒頭に述べた通り、質問者のご指摘には正しい内容がかなり含まれていると思います。他方で、過度な一般化が見受けられますので、全体としてはあまり正しくないと言わざるを得ません。

確かに統合失調症や躁が重く社会的信用を損なう双極性障害1型や昔で言う大うつ病などは精神病と認定されるべきものだと考えます。しかし、軽躁で辛うじて社会生活をおくれる2型にまで気分安定薬や抗精神病薬を投与するのは間違っていると思います。

一律に投与するのは間違っています、それは当然です。
しかし、逆に一律に投与しないことを選択するのもまた間違っています。「一律に投与しない」のは精神疾患に対する認識の甘さに基づく考え方です。たとえば例として挙げておられる「軽躁で辛うじて社会生活をおくれる」状態であるとき、その状態が維持されるという保証はまったくなく、急激に悪化する可能性が現実のものとして否定できないからです。ここで、それなら悪化したときに薬を飲めばいいのではないかという考え方も発生し得ますが、そこは身体の病気の多くとは異なるところで、一回の悪化でその人の社会的信用性や地位のすべてを失うこともあり得ますし、悪化したときにはその悪化を認識できなくなっていることもあり得ますから、「悪化したときに薬を飲めばいい」という姿勢は精神疾患に対する考え方の甘さを反映しています。
また、「軽躁で辛うじて社会生活をおくれる」のであればそれでよいというのは質問者個人の考え方にすぎず、「辛うじて社会生活をおくれる」という状態が薬によって改善できるのなら薬を飲みたいという方はたくさんおられます。さらに言えば、ご本人が「軽躁」だと認識していても客観的には決して「軽」といえるレベルでないことは非常によくあることですし、「辛うじて社会生活をおくれる」についてもご本人がそう認識しているだけで客観的にはとても放置できるような状態でないこともしばしばあることです。

双極2型の患者が増加しているのは、製薬会社が薬を売るために仕組んだ「流行り病」のせいだと思わざるを得ません。

双極2型の患者が増加している」理由の一端として「製薬会社が薬を売るため」という面があるのは事実でも、理由のすべてをそれに帰することはできません。また、「製薬会社が薬を売るために仕組んだ」というご指摘は製薬会社に対する一方的な悪意を反映しているもので、薬によって人々の生活が改善するのであれば薬を広めようと考えることは、それが製薬会社であれ他のいかなる組織や人であれ、健全かつ望ましいことです。そしてそのような動機に基づいて「薬を広める」ことは、結果としては「薬を売る」ことになりますから、「薬を売る」ことを悪であると決めつけるのは全くの間違いです。
(ADHDの薬、それは治療か商売か  もご参照ください)

以上の通りで、質問者のご指摘には正しい面は確かにありますが、かなり一方的かつ過度の一般化が見受けられるもので、全体としては正しいとは言えません。

私は双極性障害2型はどちらかと言えば発達障害に近いものではないかと思います。病気というより体質なのだと思っています。

それは質問者個人の考え方にすぎません。「近い」「体質」は多義的ですので、その考え方が誤りとまでは言えませんが、正しいか誤りかの二つのうち一つを選ぶとすれば、誤りと言わざるを得ません。

症状が辛いからといって薬に逃げていても本人が病気になった根本原因を解決しなければ治りません。

それは表面的には実に正しい考え方のようですが、やはり精神疾患を甘くみている、あるいは一方的にしかみていない考え方です。「症状が辛いからといって薬に逃げていても」という表現は、本人の努力ではどうにもならず、薬によってはじめて救われている多くの人々を不当に貶めるものです。「病気になった根本原因を解決しなければ治りません」は抽象的な机上の考え方にすぎず、「根本原因を解決」したからといって病気が治るとは限りませんし、根本原因よりもむしろ症状そのものを治療のターゲットにするほうが適切な場合も多々あります。

それに薬の副作用も合わさって、何に苦しんでいたのか余計にぐちゃぐちゃしてわからなくなります。

薬にはメリットもデメリットもあります。質問者はデメリットのみを過度に強調しており、一方的な考え方であると言わざるを得ません。

それなのに精神科のHPや精神科の専門書を見れば「一生服薬が必要」とか「服薬しなければ9割以上の人が再発する」とか怖い脅し文句ばかりです。

病気によっては「一生服薬が必要」「服薬しなければ9割以上の人が再発する」ことが事実ですから、それらは「怖い脅し文句」ではありません。それらは事実の開示です。

そもそも発症する原因すら解明されていないのに、なぜ服薬が必須であることは確実に言えるのでしょうか。

「服薬しなければ9割以上の人が再発する」という事実があれば、服薬が必須であると言える十分な根拠になります。もし「発症する原因すら解明されていないのに服薬を必須とするのは不合理である」という意見をそのまま受け入れるのであれば、「発症する原因が解明されるまではいかなる治療も正当化できない」ということになります。それは病気で苦しんでいる多くの人々を無視する暴論です。

やはり医療もビジネスだからなのでしょうか。

医療に限らず、いかなるものでもサービスを維持するためにはビジネスの側面があります。これもまた物事の一面だけを強調する指摘であると言わざるを得ません。

先生は双極性障害2型についてどう思いますか。

質問者による過度の一般化の数々の背景には、ご自身の病気と服薬についての疑問があることは明白です。メールの冒頭の、

私は双極性障害2型と診断されています。
1型と2型は違う病気なんじゃないかと思い、先生の意見を伺いたく質問させていただきました。

という記述が、質問者の真意を端的に反映していると思います。
つまりこのメール全体に流れているのは、
「双極性障害1型は薬を飲む必要があるが、2型は飲む必要はない。自分は2型だから飲む必要はない」
という質問者の思いを正当化したいという気持ちだと思います。その気持ちが双極性障害、ひいては精神障害全体への過度の一般化に繋がっていることはほぼ確実と言えるでしょう。

双極性障害の1型と2型の区別は、その診断時点までで発生した症状に基づいて決まるものですから、両者が同じ病気か違う病気かは不明です。あえていえばケースバイケースということになりますが、26歳という質問者の年齢を考慮しますと、これまでの症状が2型であったからといって、今後1型の症状が現れる可能性が低いとは決して言えません。この【4668】は服薬のメリットとデメリットを考慮したとき、服薬することが推奨されるケースだと思います。それでも服薬はしないというのは、最終的にはご本人が決定することですが、ご自身が服薬したくないという思いの発展として、それを過度に一般化して、精神疾患(の一部)における服薬そのものを否定することは、精神疾患に苦しむ多くの人々、服薬によって救われている多くの人々、そして精神疾患に苦しむ人々を救うために薬の開発や販売を促進している多くの人々を一方的に非難し貶める姿勢にほかなりません。

(2023.5.5.)

05. 5月 2023 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 躁うつ病 タグ: |