【4656】10 年以上断続的に続く抑うつ状態について
Q: 32歳の女性です。
中学生の頃から続く自分の断続的な抑うつ状態について、治療でよくなるものかをうかがいたくご連絡しました。
以下、時系列で記載します。
【中学生時】
1年生の頃から難関高校の合格を目指し、勉強漬けの日々で大変なストレスでした。
また1年生の頃に部活でいじめに遭い、これも大変なストレスでした。
このときに「相手が自分を傷つけようとしても、自分が傷つかなければ良いのだから心のシャッターを閉じればいいんだ」と気づき、嫌がらせされてもそれを感じないようシャットアウトしてました。
2年生ごろから原因不明の腸の不調が始まり慢性化しました。
頻繁におならをしたくなる、腹痛を伴う下痢が増える、などです。
3年生になり受験勉強が本格化した頃、次第に激しい気分のアップダウンが出てきたり、自宅マンションの窓から地面を見下ろして「死にたい」と感じることもありました。
突然激しい怒りを感じることも多く、モノに当たったりしていました。
一方で、クラスには友達も多くいて学校生活は楽しく過ごしていました。
最終的に高校受験では、首都圏で女子が入れる学校ではトップクラスの国立大付属に合格しました。
中学を卒業するころには、クラスの友達と楽しく過ごせることも無くなるのかと思い、寂しい気持ちでした。
高校への希望感はなく、不安だけがありました。
【高校時】
入学した日から、地味な自分には相応しくない学校(華やかな女子高生が多くギャルもいる)に来てしまったと思いました。
友達を作らなければと無理して話しかけたりして、相手の反応に「今嫌そうな顔してたな、嫌われた」 などと感じて自分はこの学校に馴染めないと思いました。
一週間後、不登校になりました。
学校も怖いし、学校へ行くまでの駅までの道のりや電車での通学も憂鬱でした。
それから昼夜逆転になり、夕方に起きて朝方に眠る生活になりました。
その頃は不登校になった自分の人生はもう終わりだと絶望し、毎日泣きながら寝ていました。
自分は今、何らかの精神疾患かもしれないと感じていました。
その後少しメンタルが落ち着いた頃、アルバイトと高卒認定試験の勉強を始めました。
高卒認定に合格したので、高校は退学しました。
この頃はネット掲示板に入り浸ってメル友を何人も作ってやり取りをしていましたが、死にたいと思うことは以前より減っていたと思います。
ただ、樹海の首吊り自殺遺体の写真(モザイク入り)を掲載しているウェブサイトや、自殺者の遺書を
掲載しているサイトを繰り返し見ていた時期もありました。
【大学時】
大学では華やかな人たちが怖くて近寄れなかったものの、落ち着いた何人かと友達になり大学生活を過ごせました。
ただ華やかな大学生と自分を比較して、自分は負け組で魅力がない人間だと落ち込み、死にたい気持ちになることは多々ありました。
【就職後 23歳以後】
事務職に就きましたが、入社半年後ごろに会社へ行きたくないという気持ちが強まり何日か欠勤しました。
その数日前に上司から叱責されたのが原因かもしれません。
そのときは歩いている道の木を見て、そこで首を吊っている自分の姿を無意識にイメージしていました。
また、異性からモテず恋愛できないのが辛く感じて死にたいと思うこともあり、カウンセリングに通っていました。
その後初めて彼氏ができ、死にたいと感じることが格段に減りカウンセリングは一度辞めましたが、自分はアダルトチルドレンではないかと思い、別のところでカウンセリングを再開しました。
そのカウンセリングも半年ほどで気持ちが落ち着き通わなくなりました。
28歳のとき転職しました。今もその会社に在籍しています。
転職して一年半がすぎ、コロナ禍が始まる年の3月に、自分の根本的問題(アダルトチルドレンだと思っていました)を解決したいと思い、3箇所目となる別のカウンセリングに通い始めました。
カウンセリングに通い始めると、自分はアダルトチルドレンには該当しないと思い始めましたが、不安感や対人恐怖(視線や男性の咳払い)が出てきたため月に一回通い続けています。
通い始めて3年経ちますが、やはり断続的に気分の落ち込み、死にたい気持ちが出てきます。
生理周期とは連動していないようです。
また偶然かもしれませんが、3月は毎年抑うつ的になります。
ここまで長文で書いてしまいましたが、現在の症状としては
・気分の落ち込み、死にたい気持ちによりたまに会社を欠勤してしまう
・対人恐怖(外を歩いている時の人の視線、男性の咳払いなど)
・たまに入眠困難、早朝覚醒
です。
食欲減退はなく、また休日は家にいることが多いですが外食などを楽しむこともできます。
死にたい気持ちの時は、「何もかも最低最悪、死にたい、他人を殺したい、自分は死んだほうがいい」という言葉が繰り返し頭に浮かびます。
一、二週間ほど続いたあと自然に無くなったりします。
また、死にたい気持ちの前には、同僚や知り合いが何かで成功を収めたり賞賛されたり、逆に自分が低価を受けたりしていることがあり、「自分は何もできない無能な人間だ」という気持ちから死にたくなることもあります。
そのような時は、強い衝動が出てきて、その場で行動に移したくなります(そのとき歩道橋を歩いていれば、そこから飛び降りたい衝動にかられるなど)
今のこの断続的な不調は、中学生の時からずっと続いている一連の症状のような気がするのです。
日常生活には大きな支障は無いのですが、死にたい気持ちになっている時は本当に辛いです。
最終的にうかがいたいのは、
(1) 自分の長年続く断続的な不調は心因性のものか、内因性の可能性があるのか
(2) 精神科的な治療によって改善するか、もしくは精神的な幼さによるものだからカウンセリングで人間的成長を目指すべきか
です。
どうぞよろしくお願いいたします。
林: 件名のように「10 年以上断続的に続く抑うつ状態」という場合、それは性格的なものか、それとも病気によるものかは難しい問題です。典型的なケースでは心因性か内因性かは明確に分けられるのが常ですが、そう単純にはいかないケースが相当数存在するものも事実で、この【4656】はその一例ということになると思います。
(1)自分の長年続く断続的な不調は心因性のものか、内因性の可能性があるのか
したがいましてこのご質問への回答は容易ではありませんが、【4656】にはいくつか内因性を思わせる要素があると言えます。たとえば次のような点です。
死にたい気持ちの時は、「何もかも最低最悪、死にたい、他人を殺したい、自分は死んだほうがいい」という言葉が繰り返し頭に浮かびます。
一、 二週間ほど続いたあと自然に無くなったりします。
このように、極端にネガティブな感情が発生し、一定期間で自然に消滅するというのは、内因性の可能性を示唆する特徴です。
もっとも、そうした感情の前に、
また、死にたい気持ちの前には、同僚や知り合いが何かで成功を収めたり賞賛されたり、逆に自分が低価を受けたりしていることがあり、「自分は何もできない無能な人間だ」という気持ちから死にたくなることもあります。
このように原因と考えられる出来事が先行していることは、逆に心因性を示唆する特徴であるとも言えますが、
そのような時は、強い衝動が出てきて、その場で行動に移したくなります(そのとき歩道橋を歩いていれば、そこから飛び降りたい衝動にかられるなど)
ここまで極端な反応になり、しかも前述のように自然に消滅することからは、原因となる出来事があったからといって内因性を否定することはできません。
3月は毎年抑うつ的になります。
このように季節性があることは、内因性を示唆する特徴であると言えます。
ただし、日本では3月というのは年度変わりの時期で、生活環境などが変化する時期ですので、その変化に対応した気持ちの変化であるという可能性も否定できません。これまで、3月の抑うつが、そのたびに生活環境などの変化があったのか、それとも特にそういうことはないのに抑うつ的になっていたのかを振り返ってみてください。もし後者であれば、内因性の可能性はかなり高いと言えます。
いずれにせよ、この【4656】のようなケースでは、それが心因性すなわち性格的なものか、それとも内因性すなわち病気によるものかは難しい問題です。これは、そもそも心因性と内因性に分けるという精神医学の伝統的な考え方が正しいかというより根本的な問題にもかかわってきます。心因性と内因性を分けることの意義は、ひとつには、治療の基本的な方法が異なるからです。つまり内因性であれば薬による治療が優勢になり、心因性であれば精神療法が優勢になるということです。しかし内因性でも心因性でも、ある一定時期における症状がもし同一であれば、そのときの脳内の状態も共通しているはずですから、治療法がそれぞれ別と考える必要は必ずしもないということになります。この【4656】のケースでは、悪化したときの抑うつの症状は内因性のそれに一致していますので、心因性か内因性かということにこだわることなく、薬によって症状を軽減させることを考えていいと思います。
(2)精神科的な治療によって改善するか、もしくは精神的な幼さによるものだからカウンセリングで人間的成長を目指すべきか
この「精神科的な治療」という言葉で質問者が何を指しているかが不明ですが(カウンセリングも精神科的な治療のひとつですから、「精神科的な治療」と「カウンセリング」を対置させることはできません)、上の通り、薬物療法を考えていいレベルの症状だと思います。
(2023.4.5.)