【4584】私は統合失調症だったのでしょうか。そして自然治癒したのでしょうか。

Q: 30歳女性です。毎月興味深く拝読しています。過去のQ&Aやコラムにも全て目を通しました。そしてふと、様々な症例を読んでいるうちに、もしや自分も過去に統合失調症だったのではないかと思い当たり、事実を知りたくメール致しました。(質問される方への注意書きは確認済です。)

①監視されている感覚
小6~中3くらいの期間だったと思います。
常に見られているという意識があったわけではなく、主に家のお風呂や脱衣所でした。お風呂に入っている間は窓の向こうに誰かがいるのではないかこちらを見ているのではないかという不安が常にあり、恐ろしく思っていました。しかし、終始本気でそう思っているわけでもなく、例えば脱衣所のこのタオルの向こうに監視カメラがあるかもしれない、怖いけど勇気を出してタオルをめくってみよう、と実際にめくってみる、しかしカメラ等あるわけないし、実際にカメラがない事を確認して、そりゃそうだよねあるわけないよね、と思い直す。しかしこれを脱衣所内の様々な箇所に対して何度かやってしまう、という事を一時期毎日していたのを思い出しました。

②幻聴
幻聴だった確信はありません。中1の頃の授業中に後ろの席の男子生徒2人から「かわいいじゃん」「いや嫌い。死ねよ」と聞こえた際に、絶対に自分の事を言っている!と感じた事がありました。なぜ自分に対しての言葉だと感じたのか全く説明が出来ないのに確実に自分に対しての言葉だったと思い込んでおり、それが聞こえたのは本当なのかそもそも最初から幻聴だったのかもよく分かりません。しかし20年近く経ってもあの当時確信を持っていた自分への違和感と、実際にハッキリと聞こえた感覚が変に残っています。

③思考伝播
これは数人の特定の人のみに対してだったように思います。特に自分があまり信用していない人に対して、思考が読まれている感覚がありました。例えばその人物と話している際、この人私の考えている事が読めるの?恐ろしいな、と思ったり、ある時会話中に私が不注意で口の中に入っていたフリスクを落としてしまった事がありそれを相手が避けた(今思うと全くの偶然ですが)ので、ああきっとこの人は私の行動を予測して避けたんだと思いこんだり、行き過ぎた被害妄想のようなものがありました。
これは②とも関連しますが、とにかく人と話すのが怖かった、特に同年代の人と話すときにとても緊張していたのを覚えています。それが変な被害妄想に繋がっていたように思います。

④まとまりのない会話
脈絡のない全く違った複数のテーマの会話を混ぜる等をたまにしていましたが、これは最初は無意識に出てしまい友達を混乱させ、しかし聞いている友達が面白がるのが楽しくて、それ以降はコントロール下で行っていた、と思います。意識していれば無意識に制御できなくなるという事はありませんでした。今思い返すと、普通は1つの脳の中に1つの話題しかないはずの所を、自分の中のたくさんの自分がいくつも話題をあげており、それらの複数の話題を自由に切ったり貼ったりしていたのだと思います。今やろうと思ってもうまく出来ません。

⑤脳内会議
④で出てきた「自分の中のたくさんの自分」とは、【4386】の方の質問を見て思い出しました。小学校高学年~中学生頃はよく親から「またボケっとしている」と怒られていました。しかし、頭の中でたくさんの自分が会議のようなものをしていてそのせいで自分の外の世界に対して注意散漫になっており、それがはたから見るとボケっとしていたのだと思います。むしろ四六時中その脳内会議をしているため脳が休まる時間がなく頭の中はいつも目まぐるしく、しかしそれが周りの人も普通だと思っていました。そしてそのせいで夜は全く寝付くことが出来ず朝起きる時間に影響しており、自分は夜型人間なのだろうと思っていました。
【4386】の方のように突然立ち止まったり涙が流れたりはありませんでしたが、周りの情報がシャットアウトされた状態では脳内会議がにぎやかに起こりやすく、トイレやお風呂や自分の部屋などで身体が停止したまま脳内だけがフル稼働していました。自分の中のたくさんの自分とは、それぞれが対立しあったり喧嘩しあったりすることはなくしかし議論が白熱して常に意見交換している、あるいは問題解決に向けて一斉に動き出すイメージです。当時は、意思決定までの意識が細分化されすぎているというか、それこそ自分が統合されていない感覚が色濃くありました。生活に悪影響を及ぼす程ではありませんでしたが、一つ質問をされると瞬時に答えが何パターンも自分の中で浮かび上がり、どの回答をすべきか脳内会議が行われている間に質問者から「聞いてる?」と催促されたりなどはありました。また、名前で呼びかけられても反応出来ない、脳内の声がせわしなく外からの声が情報として頭に入ってこないというのがよくありました。

①~⑤を思い出した事、更にそれらの時期がほとんど重なっていた事で自分が統合失調症だったのではないかという仮説が立ち、更に統合失調症について調べるうちに消耗期は過眠や無気力など社会的に見て怠け者のような状態に陥りやすいというのを知り、それも当てはまっていたため更にその仮説の有力性が増しました。

幼少期から夜すぐに寝付く事が出来ず、中学生頃からは主に脳内会議が激しかった為布団に入っても数時間寝付けないこともあったのですが、それも少し収まってきた高校2年~大学5年(4年制大学で単位が足りず留年しました)の頃は深夜までネットサーフィンや大学の課題をする影響もあり昼夜逆転してしまい、更に一度寝るとひどい時で20時間近く平気で眠り続けてしまう(覚醒せずトイレにも立たない)、などがありました。その為、5限目にも出席できない日も多くあり大学の単位を落としがちで、その当時はこんなにも夜眠れず一度寝ると全く起きれないのは睡眠障害なのではないかと色々自分なりに調べて、「睡眠相後後退症候群」ではないかと思い至り単位の為に診断書を書いてもらおうと精神科を受診したりもしました。その際は「睡眠相後後退症候群」と診断され、希望通り診断書を書いてもらいましたが、処方された睡眠薬(名前が思い出せません)を少しだけ試してみたものの、通院はせず終わりました。

社会人になり絶対に遅刻できない環境になってからは身体も矯正されてきたのか、年に数回の遅刻で済むようになりなんとか社会に適合できるようになりました。更に何故かすごく生きやすくなり、というのは変な被害妄想を持たずに人との付き合いもできるようになり、自分が紆余曲折経て統合された、確固たる私になってきた感覚が明確にあり、自己肯定感も意識できる程につきました。バラバラだった私が1つの私になり、もう自分の内側に意識を向ける必要がなくなって外の世界と私の境界がはっきりしてきた感覚です。

自分は実はADHDだから生きにくいのかと思っていた時期もありました。時間や納期を守れない/物事を計画して進められない、やり遂げられない/行動の優先順位が衝動的に入れ替わる、などがひどく、診断はされずともADHD気質ではあるだろうと思っていた為です。また、昔の自分の生きづらさは若さ故の不器用さのようなものであり、成長したから大人になったから生きやすくなったのだろうかとも分析していました。しかし、ここで統合失調症だったという説が軸となると「ADHD気質」「若かっただけ」よりもしっくりくるような気がするのです。

前置きが大変長くなり申し訳ありませんが、以上を踏まえてお聞きしたいのがこちらです。

・私は統合失調症だったのでしょうか(仮にそうであったとして、2つ目以降の質問が続きます)
・当時病識を持ち適切な治療をしていればより早い改善が見込まれる可能性があったのでしょうか
・症状が治まりつつあった時期の睡眠障害は消耗期特有のものなのでしょうか、そしてそれも治療をしていればもっと軽く済んだのでしょうか
・統合失調症とは、存在を知らない人も多くいると思いますが、私のように私生活に重大な支障をきたすほどではない軽さで、本人も周りも意識しないままに自然治癒していくケースもあるのでしょうか
・もうあの時の症状は出てこないであろう(完治した)と思っているのですが、再発の可能性はあるのでしょうか

質問は以上です。
こちらの質問文はそのまま掲載頂いて構いません。
何卒宜しくお願い致します。

 

林:
①~⑤を思い出した事、更にそれらの時期がほとんど重なっていた事で自分が統合失調症だったのではないかという仮説が立ち

その仮説が立つのはもっともで、統合失調症についての質問者の知識の正確さを反映しています。①~⑤は統合失調症の症状に一致しています。問題は、では統合失調症と診断できるかということになり、それは統合失調症という病気の本質にかかわる深い問題になります。

・私は統合失調症だったのでしょうか

上記の通り、「統合失調症の症状に一致している」とまでは言えます。さらに言えば、①~⑤の時期には、質問者の脳内の状態が、統合失調症の脳内の状態に一致していたと判断することができます。「統合失調症の脳内の状態」とは、神経伝達物質等の変調を指しています。

・当時病識を持ち適切な治療をしていればより早い改善が見込まれる可能性があったのでしょうか

ありました。

・症状が治まりつつあった時期の睡眠障害は消耗期特有のものなのでしょうか、そしてそれも治療をしていればもっと軽く済んだのでしょうか

治療をしていればもっと軽く済んだ可能性はあります。
(なお、質問者の「症状が治まりつつあった時期の睡眠障害」を統合失調症の「消耗期」と呼ぶことは通常はしません。ただしここでも、統合失調症の消耗期と同じあるいは類似の脳内の状態であった可能性はあると言えるでしょう)

・統合失調症とは、存在を知らない人も多くいると思いますが、私のように私生活に重大な支障をきたすほどではない軽さで、本人も周りも意識しないままに自然治癒していくケースもあるのでしょうか

「統合失調症の症状が一過性に発生し、治療を受けないままにその症状が消えていく」というケースはあります。それを「統合失調症」と呼ぶか(「統合失調症」と診断するか)どうかは別の話になります。

・もうあの時の症状は出てこないであろう(完治した)と思っているのですが、再発の可能性はあるのでしょうか

あります。

関連したこととして、【4231】統合失調症の不完全型のようなものはあるのでしょうか もご参照ください。

(2022.12.5.)

05. 12月 2022 by Hayashi
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