【4550】2つに分かれた自分同士の闘争を止めたいです (【3411】、【4376】のその後)
Q. 【3411】いじめが事実か妄想か分からず、実は統合失調症だったのではないか(2017.05.05) と【4376】自分の頭の中に知らない人がいる原因が知りたいです(2021.09.05)で質問させていただいた20代女性です。
あのときは林先生がご回答くださり、大変助かりました。
お忙しいとは思いますが、また質問させていただきたいことが増えましたので、ご一読願えればと思います。
ここで簡単に質問内容をまとめさせていただくと、私は20年間以上生きてきたほとんどの時間を「自己否定」に費やしていたのに、急にそれが最近「他否定」に変わり、またしばらくすると「自己否定」に戻ったりと、「自己否定」と「他者否定」の間で心が激しく揺れ動いており、それを自分で制御できないことに困っているという問題があります。
そして、今は「自己否定」がベースにありつつも、「他者否定」をするときの激しさや苛烈さが自分自身に向けられている状態で、どうすればいいのか分からないのです。
また、その「自己否定」をする際に、自分が「強い自分」と「弱い自分」の2つにかなり完全に分裂していて、ずっと「強い自分」が「弱い自分」を殺そうとしていることが気になっています。
ここから上記の内容をもっと詳細に説明させていただきます。
これは前回の質問でも書きましたが、私は小学生の頃にいじめられ、そこから不登校を繰り返し、親にずっとそんな弱い自分を否定されながらここまで育ちました。
だから、この20年間余り、私の頭の中を占めていたのはほぼ全てが「自己否定」でした。
自分が弱いからいじめられた、自分が弱いから不登校になった、自分が弱いから親に言い返せなかった、自分が弱いから「精神障害」になった・・・・・・・。
私がもっと強かったらいじめっ子に反論できたかもしれないし、不登校にならずにすんだかもしれない。
そうしたら、私の人生はこんな不幸なものにはならなかったかもしれない。
そんな「自己否定」をずっと繰り返して、私は自分を責め続けました。
私は生まれてくるべきではなかった、私のせいで家族は不幸になった等と自分の存在もずっと否定していました。
しかし、4ヶ月前頃にそんな私の「自己否定」はなぜか急に「他者否定」に変わったのです。
私をいじめて不登校にさせた奴らが悪い、私のことを理解せずずっと私の存在を否定してきた家族が悪い。
そんな奴らは殺してやる、私の人生を不幸にしたり邪魔する人間は殺してやる・・・・・・。
なぜ急に「自己否定」が「他者否定」に変わったのかは分かりませんでした。
しかし、ずっと「自己否定」ばかりしていた私にとって「他者否定」をすることはとても気持ちがよく、自分の意見を堂々と言えたような自由さを感じました。
同居している母親には何度も不登校時代に私の辛さを理解してくれなかったことについて、激しく責めました。
その私の責め方が激しすぎて、母は一時期ノイローゼのようになり、私の主治医との家族面談で「娘が私(母)を責める言動が激しすぎるので、やめて欲しい。耐えられない」と言う程でした。
でも、私の気持ちとしては、この20年間以上ずっと私は他者に自分を責められても反論せずにご丁寧に「自己否定」だけしてきたのに、なんでたかだか数カ月「他者否定」をしただけでそんなに怒られなければいけないのだ、と逆に怒りました。
そんな風に今度は「他者否定」を先月頃までずっとしていた私でしたが、今月に入りまた私は「自己否定」に戻ってきました。
今回、質問させていただきたいのはこの今月からの「自己否定」についてです。
今月の「自己否定」では、責めるのは私の中の「強い自分」で、責められているのは「弱い自分」です。
「強い自分」と「弱い自分」はかなり人格が分裂気味です。
「強い自分」は思考するときの一人称が「俺」です。きっと「俺」という一人称のどこかに「強さ」を見出したのでしょう。
一方、「弱い自分」は思考するときに「私」と言います。
「強い自分」は自分が本当に思っている意思や考え、やりたいことをそのまま遂行することを正義と考えています。そして、「強い自分」にとっては自分のやりたいことをすることが一番大事で、それを成すときに「自分の命」が犠牲になっても構わないと考えています。
私は高校3年生の春、河合模試の偏差値が70程度あり、第一志望校は最難関私大でした。
しかし、高3の夏に「境界性パーソナリティ障害」で体調を崩して、不登校になってしまい、もちろんその半年間勉強も全くできず、結果最難関私大には受かりませんでした。
「強い自分」はこの出来事を「弱い(障害で体調を崩した)自分」のせいだと思っており、「弱い自分」が邪魔させしなければ希望の大学に行けたと思っています。
そのために自分が高校生のときに無理をして、希望の大学に受かってから体調を崩しもし「自殺」したとしても、「強い自分」は今の私の人生よりそちらの方が好ましいと思っているそうです。
だから、「強い自分」にとっては自分のやりたいことや自分の希望を邪魔してくる「弱い自分」が憎悪の対象であり、とにかく殺したいみたいです。
その憎悪はとても強く、「弱い自分」を消すために「強い自分」が一緒に死ななければいけないのならば死んでも構わないとまで思っています。
「弱い自分」は「強い自分」がやりたいことをよく邪魔します。
もちろん邪魔するときは「弱い自分」なりの理由があります。
例えば、「強い自分」が早寝早起きをしたくて早く寝ようとしているときに、「弱い自分」は「明日が来てほしくない」という理由でよく睡眠を妨げます。
それでもう何度も「強い自分」が深夜に「弱い自分」を罵ったり、脳内で殺したりしていました。
この他にも「強い自分」がやりたいことが「弱い自分」にとっては辛く、苦しいことが多いためか、しばしば「弱い自分」がやりたくないと言って邪魔をします。
そして、また「強い自分」が怒って・・・・・・、の繰り返しです。
一応「強い自分」も「弱い自分」も同じ人格であるということはそれぞれ分かっています。
解離性同一性障害のように人格がはっきりと分かれたりはしていません。
そのせいかもしれませんが、「強い自分」が体と脳を支配しているときに「眠いのに寝ない」とか「体が疲れて倒れそうになるまで外を歩く」等の方法で「弱い自分」に対して罰を与えているときもあります。
ただ、今月に入ってから「強い自分」と「弱い自分」はずっとこの調子なので、さすがに疲れてきました。
そんな風に「自分が疲れている」ということに対してさえ、自分に激しい憎悪を向けている「強い自分」にとっては好ましいことらしいのです。
そして、今この文章を書いている「私」は「強い自分」なのか「弱い自分」なのかよく分かりません。
もしかしたら別の私なのかもしれません。
このことはもちろん精神科病院に伝えており、精神科病院のカウンセラーさんは「弱い自分」と手を取り合いたいと言っていました。
なぜかというと、「強い自分」は自分や周りの人に好意を向けられているときもあるが、「弱い自分」は自分自身にも周りの人にも誰からも好意を向けられていないように見えるからだそうです。
もちろんこのカウンセラーさんの話は「弱い自分」も聞いていましたが、「弱い自分」は人間不信に陥っており、まだカウンセラーさんを信用できないため、表に現れてくることはありませんでした。
このまま「弱い自分」を守っていくような治療方針でいいのでしょうか?まだこの話は先週に精神科病院の先生に話したばかりで、とても不安です。
どうすれば「強い自分」と「弱い自分」との闘争を止められるのでしょうか。
また、この質問内容とは別個で林先生にお伝えしたいことがあります。
【4376】で質問させていただいた際に、林先生からは
・現在、最も可能性の高い診断名は解離性障害。
・しかし統合失調症の可能性も否定できない。
・境界性パーソナリティ障害かどうかについては、情報不足でわからない。
とご回答いただきましたが、ずっと通院を続けている精神科病院の主治医から2ヶ月前頃に、私は「境界性パーソナリティ障害」が一番近い病名だとはっきりと言われました。
そのときは主治医に分厚い辞書のような本(DSM-5の診断基準が詳細に書かれているものだと思います)を見せられ、主治医に「境界性パーソナリティ障害」の診断基準を1つずつ解説されました。
それによると、私は
・自らに害を及ぼしうる2領域以上での衝動性
・反復的な自殺行動、もしくは自殺の脅しや自傷行為
以外の「境界性パーソナリティ障害」の診断基準には全て当てはまっている
とのことでした。
主治医からこの説明を受けたとき、私の方から、私は「解離性障害」の可能性はないでしょうか、と主治医に聞きました。
すると主治医は「あなたは解離性障害ではないと思う」と言われました。
その理由としては、「解離性障害」ならば記憶がなくなったりするから、というものでした。
確かに私は自分の中に知らない人たちがいることや、「強い自分」と「弱い自分」等、自分の中に色々な人たちがいることを知っていますが、記憶がなくなったことはほぼありません。
離人感(自分が自分でないような感じ、自分が現実世界にいないような感じ、自分を第三者目線で遠くから見つめているような感じ)はよくあります。
このことを主治医に話すと、主治医は「境界性パーソナリティ障害」の患者強いストレスを感じると「一過性の妄想や解離性障害を伴うことがある」ため、それのせいだろうと言いました。
また、林先生がおっしゃっている「統合失調症」については、ずっと私が様々な精神科病院を転々としてきたときや現在継続して通っている精神科病院で指摘されたことが一度もありません。
私を診てきた精神科の先生たちが何を基準に判断しているのかは私には分かりませんが、私が「統合失調症」である可能性について言及してきた精神科医はいませんでした。
「統合失調症」に関しては、特に知識のない素人の私だけがずっと「実は自分は統合失調症なのではないか?」と考えていたみたいです。
ちなみに、現在も通っている精神科病院では「ロールシャッハテスト」や「IQを測るテスト」等を過去に受けています。
どうもこのときに私が受けた「ロールシャッハテスト」の結果から、私が「パーソナリティ障害」の可能性が高いと判断されたらしいです。
細かい検査結果は教えてもらえませんでしたが、「ロールシャッハテスト」で異常が感じられたと主治医は言っていました。
そして、そのテストを受けてから数年後に「パーソナリティ障害」の中でもとりわけ私は「境界性パーソナリティ障害」の可能性が一番高いと主治医に言われました。
もう今の病院に通い始めてから6年程は経ちますが、その6年間に主治医が私をずっと診察してきて、その診察の内容からも私が「境界性パーソナリティ障害」だろうと主治医は考えたようです。
以上のことから、主治医は私に「境界性パーソナリティ障害」であると告げることになったみたいです。
正直なところ個人的には私は自分がかなり解離の症状が強い方だと思っているため、「解離性障害」ではないだろうと主治医に言われたときはあまり納得はできませんでした。
私は記憶がなくならない「解離性障害」もあると本やネット上で見たことがありますから。
ただ、私は素人なので精神疾患のプロである主治医の診断を受け入れようと思っています。
このことを書かせていただいたのは【4376】の質問で林先生が「現時点では解離性障害の可能性が高く、統合失調症の可能性も否定できず、境界性パーソナリティ障害かどうかは情報不足で分からない」とおっしゃっていたため、そのことについて具体的な補足情報を書いた方が良いだろうと考えたためです。
長文になってしまいましたが、ここまでご覧いただきありがとうございました。
ご回答いただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
林: その後の経過、そして追加情報についても、詳しくご報告いただきありがとうございました。
【3411】、【4376】そして今回の【4550】を総合すると、質問者について、次のように言えると思います。
(1)境界性パーソナリティ障害の特徴がある。
(2)解離の症状がある。
(3)過去にトラウマがある。
(4)トラウマが(1)(2)に関連していると推定できる。
(5) 但し(3)のトラウマの全貌は不詳。
(6) 過去の統合失調症類似の症状は曖昧。
(1)については、メールに記載されている主観的体験の内容、および、直接診察している主治医の診断とあわせ、境界性パーソナリティ障害の特徴があることは確実です。ただし「特徴がある」ことと「そう診断できる」ことは別で、メール記載の内容からは「そう診断できる」までは言えません。(厳密にはいかなる場合でもメール記載の内容から特定の診断を断定することは不可能ですが、そのような立場を取ると回答になりませんので、一定以上の蓋然性があると判断できれば、メール記載の内容に基づいて診断名を明示することを精神科Q&Aでは行っています。しかしこの質問者に関しては、診断を明示できるまでの蓋然性には至らないということです)
(2)解離の症状があることから、即、解離性障害であるとは言えません。解離の症状が、いわば主であることが必要です。他の診断名が主で、解離症状を伴うということは十分にありえます。そして、境界性パーソナリティ障害は、特に解離症状を伴うことが多いです。したがって質問者に境界性パーソナリティ障害の診断がつくのであれば、解離はそれに伴う症状とみるのが普通です。
(3)過去のトラウマ、特にいじめを受けたという類のトラウマの有無については、本人からの報告だけでは本来は判断できません。本人の体験は被害妄想であって、いじめは事実ではなかった可能性が否定できないからです。この質問者に関しては、【3411】の内容は、事実と被害妄想が混合していると私は判断しました。それが【3411】の「統合失調症の可能性が高い」という判断に繋がったのですが、【3411】、【4376】そして今回の【4550】を総合すると、【3411】の内容のうち、事実の比率が、【3411】の回答時よりも高いという推定に傾き、かつ、【3411】で私が被害妄想と判断した部分には、現実のトラウマに起因する心理的な反応である部分がかなりあるという推定に傾いています。もっとも、いずれも推定にすぎず、上記の通り、トラウマの有無については、本人の報告だけから判断できる範囲はかなり限られていますので、これ以上のことは言えませんが、トラウマがあったこと自体は確実とみていいでしょう。
(4) 境界性パーソナリティ障害あるいはそれに類似の症状は、幼少時や若年時の慢性的なトラウマと関連して現れることがあります。これを複雑性PTSDと呼ぶこともあります。境界性パーソナリティ障害とされてきたものはすべて複雑性PTSDであるとか、その要素があるという考え方もあります。(私はこの考え方には賛同しませんが)
したがって、質問者に【3411】のようなトラウマがあったとすれば、現在の境界性パーソナリティ障害の特徴や解離は、それと関連していると推定することができます。
(5)は(3)に述べた通りです。
(6)も(3)に述べた通りで、統合失調症の可能性は、【3411】の回答時に比べると低いといえます。
今回【4550】のご質問、
どうすれば「強い自分」と「弱い自分」との闘争を止められるのでしょうか。
に関しては、上の(1)から(6)についてどう判断するかということにも関係し、その判断はメールからはかなりの限界がありますので、主治医のご方針に従うのが最善だと思います。
(2022.9.5.)