【4475】会社の部下が隣人住民からの騒音被害により眠れないと訴えている

Q: 私は30代の会社員です。
何人かの部下の指導を任されている立場なのですが、うち一人が一年ほど前から「アパートの隣人から騒音による嫌がらせを受けている」との旨の報告を受けています。

ただ、部下はこの一年で二度ほど違うアパートへ引越しているのですが、その二度とも「隣人からの騒音による嫌がらせ」が原因です。
部下の言では、下記のような嫌がらせを受けていると訴えていました。
(同一人物の仕業ではなく、それぞれ別の人物による同様の攻撃と捉えているようです)

1. 部下が何かしらの生活音を立てると、それに合わせてドンと騒音を立てる
2. 就寝時にときおり大きな音を立てる
3. 電波攻撃を受けている(手足が痺れるような感覚があるそうです)

うち3番は最近は言わなくなったのですが、
1番と2番は引越しをしたらしばらくは嫌がらせが落ち着いて、何ヶ月かするとまた嫌がらせを受けるとの事でした。
これらの嫌がらせにより不眠に悩まされているようで、仕事も休みがちになっています。

私自身、部下の部屋にお邪魔して確認させて頂いたことがありますが、部下が訴えているような騒音(および電波)は全く感じる事ができませんでした。
古めのアパートだったので床や天井が軋むような音は確認しましたが、どうやら部下はそれも隣人による嫌がらせと捉えている様子です。

正直なところ、これは統合失調症による被害妄想や幻聴の類ではないのかと考えています。
しかし一度会社の産業医に診て頂いたところ、「就業には問題なし」と特に病名を告げられてはいないようです。

産業医に一度診て頂いてはいるものの、精神科にて専門家による診療を勧めるべきでしょうか。

また、親族でも友人でもないただの上司が精神科の受診を勧め、実際に受診まで持っていくのは中々ハードルが高いように思うのですが、
どのように本人にアプローチするのかアドバイスを頂けると幸いです。

 

林: 質問者のご指摘の通り、この社員の方は統合失調症だと思います。したがって精神科での治療が必要です。一方で、これも質問者のご指摘の通り、

親族でも友人でもないただの上司が精神科の受診を勧め、実際に受診まで持っていくのは中々ハードルが高い

というのもまた事実です。
しかし、統合失調症である以上は、精神科で治療を受ける以外に方法はない という、最も基本的な事実を認識することがまず重要です。つまり、ハードルが高いからといって何もしなければ悪化するばかりだということです。悪化してどうしようもなくなるまで待つという方針を取るのでない限りは、いま行動を起こす必要があります。

その方の現在の病状にもよりますが、現在もメールに書かれているのとほぼ同じ病状であると仮定いたしますと、第一に勧められるのは、産業医からこの方に、精神科受診を促していただくことです。
そのためにはまず「就業には問題なし」と判断した根拠を産業医に確認することが必要です。
おそらくこの産業医は内科医であると思われますが(少なくとも精神科医ではないのでしょう)、その産業医は、
A. 「統合失調症でない(あるいは、統合失調症であるかどうかはともかく、精神科的な疾患はない)」と判断しているのか、それとも
B. 「統合失調症だが就業には問題ない」と判断しているのか。

A.であれば、このメールに書かれているような精神症状を見落としている可能性がありますので(「見落としている」という言い方は失礼で、本人が産業医には騒音の悩みを伝えていないのかもしれません。そうであれば統合失調症と診断することは困難です)、質問者から、このメール内容を産業医に報告してください。
B.であれば、表面的には就業に問題はなくても、このままでは早晩問題が発生することは明白ですから、現時点で問題がたとえなくても、精神科受診が望ましいことは明白ですから、産業医から精神科受診を勧めていただくようにする。

以上、いずれも産業医から精神科受診を促すという形ですが、何らかの理由で産業医がそれを拒否した場合(拒否するのは産業医としての責務の放棄に近いので許されないと思われますが、それはともかくとして現実に拒否した場合)には、第二の手段は、上司である質問者から精神科受診を促すということになるでしょう。その方法は、現時点でのこの方の病状、質問者とこの方の関係(上司と部下という形式的な関係のことではなく、親密度など)、この方のご家族状況(この方とご家族の関係は良好か否か。ご家族は地理的に近隣にいらっしゃるのか否か)によって微妙に変わり、その微妙さによって受診実現の成功率は時に大きく変わりますので、一般論として回答することは困難です。
それでもあえて回答するとすれば、この方は少なくとも困っている・眠れなくなっている・仕事を休みがちになっている という事実があるわけですから、そうしたことの改善のヒントをもらうためというような形で精神科受診を勧めるというのが、成功率の高い方法であると言えます。つまり、統合失調症であるとか被害妄想であるなどの直接的な理由を示すのではなく、間接的な理由を示して受診を勧めるということです。統合失調症は一般には病識がないなどと言われていますが、実際には病識の程度は様々で、この【4475】のケースのように、困っていることを上司などに打ち明けているような場合には、口では騒音は絶対にあると言っていても、内面では精神の変調を自覚していることはしばしばありますので、間接的なアプローチによって受診を実現させられることは十分に期待できます。

(2022.3.5.)

その後の経過 (2022.4.5.)

05. 3月 2022 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , |