【4408】閉じこもっている統合失調症の弟はこのまま放置してよいのか

Q: 東京在住の50代会社員女性です。
地方の実家で母親と暮らす弟(四十代、独身)が自宅に鍵をかけ、母を締め出して閉じこもってしまいました。
どう対応するのが良いかお伺いしたく、メールを差し上げました。
弟の主治医先生は、弟が受診に見えたら、安否だけでも連絡するよう話してみますとおっしゃってましたが、このまま放置する形でいて問題はないのでしょうか。

弟は20歳前後で統合失調症を発症しました。
数カ月ずつ3~4回の入院治療を通じて自分の病気や体調の波との付き合い方を理解し、5年程度で陽性・陰性症状が穏やかになりました。
退院後は、最初に入院した病院の主治医先生が開業したクリニックを含め病院を3カ所変えながらも通い、8年ほど前からは5カ所目の病院に年2~3回通院してお薬をもらっています。

しかしながら、発症後の弟は人と会って話と疲労困憊するようになり、就労できず、障害者年金で細々と暮らしています。
通院し主治医先生と話すことも困難で、一度病院に行くと1週間は体調が戻らないと言っていました。
実家2階の自室に籠り、1階の母とは話をせず顔も合わせません。
普段はコンビニやスーパーでお弁当を買うなどして用を足しています。

それでも私が年に1~2回帰省した折には話をし、月に1度程度メールのやり取りもありました。眠れないなど体調が悪くなる兆候が出たら、主治医先生に睡眠導入剤を処方してもらって早く休むといった対応ができていました。

ところが、昨年末に母親が転倒して骨折し、隣町に住む姉が介護で実家に泊まるようになったら弟の状態が悪くなってしまいました。

弟は、姉が階下にいると眠れない、泊まるな、帰れと迫ったものの、姉は母のギプスが取れるまでは世話をする必要がある、と言い争い、その結果、姉と母親が一緒に外出した隙に弟は家の玄関や裏口、窓など全ての鍵をかけて閉じこもってしまいました。
その後は呼び掛けても電話しても対応せず閉じこもったままです。
私もメールしましたが反応がなく、電話は着信拒否です。

母は姉の住まいに同居して一応は落ち着きましたが、弟が一人でいることが心配です。
服薬を続けているのか、食事をとっているのか、寝たきりになっていないか。

私は数ヶ月前に緊急事態宣言が解除されたタイミングで一度実家を訪問したのですが、家は閉ざされたままで呼んでも電話しても弟は何の反応もなし。
メールへの返信もなし。
そこで、「心配なので警察に相談してきます」とメールして警察に出向き状況を説明したところ、警察官が弟に電話をかけてくれ、その結果、弟は無事であることが分かりました。
弟は、家族に会いたくない、私にはそのまま東京に帰るよう言ってくれと話したそうです。
取りあえず安否が確認できたので、私は自宅に戻りました。

翌週、弟の主治医先生と電話連絡がつき、どう対応すべきか相談しました。
先生は、次回弟が受診した時に私に安否だけでも連絡するよう伝えますよと言われました。

果たして、私はメールを送って良いのか、放置しておいた方が良いのか。メールを送り続けると弟が追い詰められると感じたりはしないか。何かにおびえて極端な行動や破壊的行動に移らないか。閉じこもりが常態化し、廃人になるまでなにもできないのか。

どのような対応が良いのか、類似した事例があれば、教えていただけませんでしょうか。
よろしくお願いいたします。

 

林:
昨年末に母親が転倒して骨折し、隣町に住む姉が介護で実家に泊まるようになったら弟の状態が悪くなってしまいました。

それは統合失調症が悪化するきっかけとしてはしばしばあることです。
悪化のパターンとしては、幻覚妄想の悪化による興奮などの異常行動もよく見られるものですが、

地方の実家で母親と暮らす弟(四十代、独身)が自宅に鍵をかけ、母を締め出して閉じこもってしまいました。

このようなパターンも一つの典型例です。(この閉じこもりの背景には幻覚妄想の悪化があることが多いです)

このまま放置する形でいて問題はないのでしょうか。

問題ないはずがありません。

果たして、私はメールを送って良いのか、放置しておいた方が良いのか。メールを送り続けると弟が追い詰められると感じたりはしないか。何かにおびえて極端な行動や破壊的行動に移らないか。閉じこもりが常態化し、廃人になるまでなにもできないのか。
どのような対応が良いのか、類似した事例があれば、教えていただけませんでしょうか。

類似した事例は膨大にあります。ご家族が取る方法は二つに一つです。一つは、放置することです。もう一つは、介入することです。介入には、質問者がなさっているようにメールを送り続けるなどのソフトなものから、鍵を破壊してでも入室し、強制的に入院させるというハードなものまでがあります。
放置した場合、将来のどこかの時点で、弟さんから自発的に治療などを求める可能性があることはあります。それを待つというのは最も当たり障りのない方法です。ただし「自発的に治療などを求める可能性がある」といっても、その可能性はごくごくわずかです。逆に「何かにおびえて極端な行動や破壊的行動」を取る可能性の方が高いです。「追い詰められると感じたり」して自殺という結果になる可能性もあります。何も起こらなくても「閉じこもりが常態化し、廃人になる」というべき状態になる可能性もあります。つまり放置するというのは、問題を先送りする姿勢にほかなりません。
他方、介入のうち、質問者がなさっているようにメールを送り続けるという方法は、忍耐強く続けることで成功する希望もあることはありますが(いわゆる「親身な働きかけが心を開かせた」という美談的事態の発生を指しています)、それは決して確率の高い希望とは言えません。かといって、強制入院というようなハードな介入はできれば避けたいと考えるのが自然です。
現実的には、ある期間はソフトな介入を続け(その期間は、たとえば3ヶ月というように、あらかじめ定めておくことが必要です。そうしないとどんどん問題を先送りすることになりかねません)、ある時点まで続けても動きがなければ、ハードな介入に踏み切るということだと思います。ハードな介入には相当なリスクがありますが、そのリスクを承知でそれでも実行するか、それとも放置あるいはソフトな介入を続けて奇跡的な(とは言わないまでも、例外的な)状態改善に期待するか、それはご家族の考え方次第です。

(2021.11.5.)

05. 11月 2021 by Hayashi
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