【4407】統合失調症で長期入院となっている方は誤診されているということでしょうか

Q: 今春大学を卒業し、保健所配属となりました20代女性事務員です。
文系学部を卒業したのみで、専門的な資格はございません。
書籍やインターネット、特に林先生のQ&A等を参考にし、日々勉強しております。
この度精神保健分野に初めて携わりまして1年弱、気になっている事があります。

業務上、2、30代等比較的若年時に診断されているのにも関わらず、現在精神科病院に継続して5年以上入院されている方を多々お見受けします。 特に統合失調症の患者さんです。
認知症も併合して施設入所の検討すら難しい事例も珍しくないように感じます。

例えば、医療保護入院から任意入院、退院と移行しても、その後怠薬、状態悪化、入院のように繰り返して、既に人格が荒廃してしまったと認識してよいでしょうか。
それとも、誤診ですか?

それぞれの事例に複雑な事情が絡んでいるであろうとは理解しています。
しかし、本人、ご家族、支援者の皆さんの心情を想像すると、心苦しく思います。
このような事態がなぜ発生してしまうのか、そして、どうすれば防げるのでしょうか。

稚拙な質問で恐縮ですが、業務にあたる姿勢の参考にしたく、ご質問いたします。

 

林: 保健所で精神障害者の方々にかかわる業務を日々行なっている方からご質問いただき光栄です。

業務上、2、30代等比較的若年時に診断されているのにも関わらず、現在精神科病院に継続して5年以上入院されている方を多々お見受けします。特に統合失調症の患者さんです。

それは質問者の経験した範囲にとどまらず、普遍的な事実です。ただしこの文章を一読した方は「統合失調症の多くは早期に診断されても5年以上精神科病院に入院する」という印象を持たれるかもしれませんが、それは誤解です。事実は「統合失調症の多くは早期に診断されれば良い経過をたどることが少なくない」であって、それでも「2、30代等比較的若年時に診断されているのにも関わらず、現在精神科病院に継続して5年以上入院されている方を多々お見受けします」もまた事実であるのは、統合失調症自体が非常に患者数が多い病気であることが理由です。統合失調症全体からみればそのようなケースは少数であっても、分母が大きい以上、絶対数は多くなるということです。

例えば、医療保護入院から任意入院、退院と移行しても、その後怠薬、状態悪化、入院のように繰り返して、既に人格が荒廃してしまったと認識してよいでしょうか。

おおむねその通りですが、「人格が荒廃してしまった」というレベルとは限りません。そこまで重症でなくても、社会生活が困難で長期入院にならざるを得ないケースが相当数存在します。また、怠薬による再発はおそらくその後の慢性化の原因であると考えられていますが、それ以外にも慢性化するケースが存在することもまた事実です。

しかし、本人、ご家族、支援者の皆さんの心情を想像すると、心苦しく思います。

その通りですが、それが事実です。

このような事態がなぜ発生してしまうのか、そして、どうすれば防げるのでしょうか。

一つの要因は質問者ご指摘のように、怠薬によって再発を繰り返すことです。
しかしそうでなくても統合失調症には慢性化するケースが一定数存在することは事実で、それは、統合失調症という病気にはまだまだ不明の点が多く、慢性化を防ぐ真に有効な手段がないためです。したがって、

どうすれば防げるのでしょうか。

残念ながら現時点では確実に防ぐ方法はありません。

(2021.11.5.)

05. 11月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症