【4401】幼少の頃から度々不思議な感覚に襲われる。それが最近悪化している

Q: 20代女です。「精神科Q&Aに質問される方へ」その1・その2につきまして、拝読済です。急を要する要件ではない為お返事が遅くても構いませんが、もしよろしければ林先生のご意見を頂戴したく存じます。

幼少期(正確には覚えていませんが、小学4年生の頃には既に症状があった事をはっきり記憶しています)から、一定の状況下に立たされた時に不思議な感覚に襲われます。そしてそれが最近少しずつではありますが徐々に「これ以上進むと取り返しのつかないところへ行きついてしまう」と本能で理解できる域に進み始めているような気がしてそこそこに不安です。

具体的な事例は以下の通りです。

【症状が起こる状況】
・片手間に、心に余裕を持って鏡に映る自分を見ている時(化粧の最中等、余裕なく鏡を見ている時は起こりません。歯磨きをしている時、ぼーっと自分の顔を見つめる時などは間違いなく起こります)
・周囲に誰も人がいない時(最近は低確率です。学生時代は下校中一人になった時が一番酷かったです)
・深い考え事から覚めてふっと現実に戻った時
◎職場のオフィス内、公共の場等では起こった事がありません。自宅、自室、人のいない建物の廊下・道、職場のトイレ等では起こった経験があります。なお、頻度については周期などはなく、上記の状況を徹底的に避け続ければ恐らく襲われないとは思います(現実的には避け続けるのは不可能だと思いますが)。

【症状内容】
・「さっきまで何処にいたのか分からない」という感覚。ただし、現実的に何処にいるのかは理解している為、記憶が混濁する・迷子になるという事はありません。症状に襲われながら着替える・歩く・文章を書く等の行為は可能でした。会話はかなり辛く、ややしどろもどろになりました(ですが全くできないわけではなさそうでした。かなりしんどかったのでもう二度としたくありません)。
・今自分がここにいる事に対する猛烈な疑問。「何でこんなよく分からない物(手足が不自然な物体に見えます)を動かしてこんなところにいるの?何でこんな景色を見ているの?私さっきまで何処かいるべき場所にいたのに何でこんなところにいるの?」という不安感。
・現在に対する強い違和感。それによるふらつき・眩暈。その場から動けなくなる事も1~2回ありました。
・例えるなら、「間違えて違う星に来てしまった異星人」のような感覚。帰りたいという帰郷欲。
・これだけ不安感や混乱に襲われながらも、思考はクリアで記憶の混濁も(主観の判断にはなりますが)ない為、日常生活をなぞるだけなら表面上支障ありません。ただただとてつもない不安が差し迫ってきているだけで、冷静に考え事をする事もできます。
◎症状に襲われる直前に「あー来るな。今か…参ったな…」という理屈のない前兆が起こります。

【症状からの回復方法】
・とにかく人のいる場所へ行く、または知り合いに電話を掛けて声を聞く(実際に母親に慌てて電話を掛けた経験が2~3回あります)。
・目を瞑ってその場に座り、何も考えないようにして症状が去っていくのを待つ。目を瞑るのが大切です。(こうして書き出してみると、視覚による影響が大きいのかもしれません)

インターネットで色々調べましたが、鏡が怖いというわけでも、自分の見た目にコンプレックスがあるわけでもありません。心当たりのあるエピソードもありません。
精神系の病気を持った親族や家族がいるわけでもなく、精神病の前歴もありません(精神科の病院に行った事がないし、行こうと思った事もありません)。労働環境や友人関係等にも差し当たり不満はなく、趣味を楽しむだけの心理的余裕もあります(絵が苦手なので小説しか読めませんが、読書が趣味です)。

ただ、昔よりも明らかに症状の重さ・長さが悪化している気がします。冒頭でも申し上げましたが、「これ以上進むと取り返しのつかないところへ行きついてしまう」と本能的に怯える段階に足を踏み込み始めてしまった気がします。また、半年くらい前のある日には家族のいるリビングに行ったにも関わらず症状が全く治まらず、「あー、これから一生こんな外れ物みたいな気分で生きていく事になるのかな…」と諦めながら自室に戻りました(しばらく目を瞑ってじっとしていたら治りました。時間は測る余裕がありませんでした)。
弱音を正直に吐くならば、次にこの症状に襲われた時は果たして平生に帰って来られるのか、という不安がない事もありません。

「この症状が当てはまる病気・或いは研究論文等の有無・詳細」、ひいては「精神科などに通院すべきか」等のアドバイスを頂戴できれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

 

林: これはてんかん発作の可能性が高いです。病院を受診し診断を受けてください。脳波検査は必須です。CTまたはMRI検査も受けたほうがいいでしょう。

症状の描写そのものからは離人とも言えるものです。もしシンプルに症状だけが書かれていたら、「その症状は離人に一致しているとまでしか言えません」という回答になるところですが、症状の描写と経過がかなり具体的に書かれていることから、てんかん発作の可能性がかなり高いという結論が得られます。脳内の辺縁系と呼ばれる部分にてんかん発作の焦点があると予想できます。
全体を通して、てんかん発作に一致した描写ですが、特に離人よりもてんかん発作らしい点はこれです。

◎症状に襲われる直前に「あー来るな。今か…参ったな…」という理屈のない前兆が起こります。

これはてんかん発作の前兆 Aura であるとみることができます。(ここでいう「前兆」とは、一般用語としての前兆ではなく、てんかん発作についての前兆という医学用語があり、それにあたります)

また、

昔よりも明らかに症状の重さ・長さが悪化している気がします。

という点も、てんかんが悪化しつつあることを示唆するものです。

必ず病院を受診し診断を受けてください。脳波検査は必須です。
てんかんを専門とする科は病院によって異なります。精神科か神経内科か脳外科ですが、受診前に病院に問い合わせて、その病院では何科がてんかんの診療をしているか確認することが勧められます。

(2021.10.5.)

05. 10月 2021 by Hayashi
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