【4397】レイプされたのにトラウマになっていません
Q: 20代女性です。私は十代の頃から数年間精神科に通院していました。解離症状があり精神分析?を受けてましたが、そのころの記憶は曖昧です。何が原因で通院を始めたのかも覚えておらず、申し訳ありません。ODを繰り返してしまうので薬を飲まなければいいと自己判断で通院を止めて、二~三年程経過しています。
本題ですが、私はこれまでに二度レイプされています。一度目は二年前くらいに顔見知りからで、二度目はその翌月くらいに全く面識のない人からでした。記憶が曖昧なので時系列は定かではありませんが。私は二度もレイプされているのにトラウマというものがなく、現在も普通に男性と接する事が出来ます。同じようにレイプ被害に遭われた方の中にはトラウマやPTSDで悩んでいる方も多いようですし、私の知り合いも被害者でありトラウマに悩んでます。それなのに私には何もなくドラマやマンガでレイプシーンがあっても、たまに首の筋肉が硬直して動かせなくなるくらいで普通に観られます。むしろ、レイプシーンがある映画や本を自ら探して観てしまうところがあります。私をレイプした犯人に対しては、「刃物を向けられた時さっと奪って刺してやればよかったかな」くらいは思いますが、激しい憎悪があるわけでもありませんし、ニュースで婦女暴行事件が報道されれば「死刑にすればいいのに」と思うくらいです。(乱暴な表現すみません)レイプされた当時の二件ともに記憶が余りなく、刃物を突きつけられた事は覚えていても、犯人の顔や事に及んだ内容、被害に遭った後にどうやって帰宅したかなどは覚えていません。二度目の時は被害届を出したので連日警察に出向いたりしてましたが、私が警察の方に何と言って、警察の方に何と言われたか、捜査の経過なども思い出せません。 記憶が曖昧な故にトラウマや嫌悪がないのでしょうか?自分が他人と共感できない人間なのでは?自分の身に起きた事にも無頓着なら、人付き合いも上手くいかないのでは?と不安になります。ひいては、この先家庭を持ち子供を授かっても子供を大事にできないのではないか?と考え、恋愛しなくなりました。このまま自分自身に疑念を抱きながら誰の事も好きになれないのかと考えてしまいますし、自分の感情が分からなくて怖いです。トラウマがない事はおかしいですか?
林: あまりに強くて耐え難いストレスを受けたとき、人間は、その時の記憶を失うことがあります。それが解離性健忘の典型的なパターンです。
ただし解離性健忘には様々なバリエーションがあり、その場面の記憶があっても、その場面での自分の感情の記憶がないことがあります。
この【4397】の質問者の体験はそれに近いものであると言えます。耐え難いものを抑圧しているという精神分析用語による表現が、この場合は正鵠を射ていると言えます。
多くの解離性健忘のケースと同様、この【4397】の質問者も、記憶(及び、またはその時の感情)を抑圧することで、精神の安定を維持しているとみることができます。このような場合、その記憶や感情が蘇ったときに、精神が著しく不安定になることがよくあります。
私は十代の頃から数年間精神科に通院していました。解離症状があり精神分析?を受けてましたが、そのころの記憶は曖昧です。何が原因で通院を始めたのかも覚えておらず、申し訳ありません。
解離症状 の具体的な記述がないので、どのようなことがあったのか不明ですが、全体の文脈からみて、レイプに関する記憶や感情の消失とは別の解離症状があったと推定できます。さらに深く推定を重ねるとすれば、精神分析的治療の経過中、レイプに関する抑圧された記憶や感情が蘇る予感があり(ただしそれが自覚されたとは限りません)、蘇ることを回避するために通院を自ら中断されたという可能性もありそうです(それもまた自覚されていたとは限りません。自覚としてはお書きになっているように、ODをしないためには薬を飲まなければいいと考えたというものかもしれませんが、真実は違ったというのがこの推定です)。
トラウマがない事はおかしいですか?
トラウマがない のではなく、正確には、トラウマとなっておかしくない体験がトラウマとして自己認識されていない ということになるでしょう。そのメカニズムはここまで述べてきた通り、一種の解離によるものです。ですから おかしい という表現にはあたりません。
(2021.10.5.)