【4385】人格が急変する妻について‏

Q: 今の妻(44歳)の状態を、どのように見れば良いのか、また治療が必要なのか、について、アドバイスを頂きたいと思い、メール致しました。 僕(46歳)は、8年ほど前に今の妻と知り合って、付き合っておりましたが、6年ほど前、前妻のメールから、妻とトラブルになり、1年半ほど、顔を合わせたら喧嘩をするという状態でした。喧嘩といっても、妻が僕に文句を言い続け、僕がそれに言い訳をしたり、妻を説得したりというものでした。
その間、妻は、自殺願望があったようですが、妹のために死ねないと、思いとどまっていたようです。かといって、僕と別れるのは嫌で、前妻から引き離すことを考えていたようです。 その後、4年前から一緒に暮らし始めましたが、暮らしはじめた頃、前妻の名前を見ただけで、僕のことを罵るという状態でした。それは1年くらいで消え、2年ほど仲良く暮らしていましたが、当初から、妻は僕が前妻に会うのを禁止していました。しかし、妻には内緒で、前妻に1ヶ月に一度ほど会っていた(ただ、会って話したり、彼女の犬の散歩をしていただけで、それは妻も知っています)のが、1年前に発覚し、その時に、1ヶ月ほど、妻がひどい状態に陥りました。とにかく喚き散らし、暴力を振るい、物を投げて破壊し、ひどい日には、窓から出たり入ったり、塀を登ったり、公園に寝に行ったりすることがありました。そういうときには、決まって、僕のことを、人格を破壊するような言葉で罵ります。その一方、リストカットもしたり、自ら階段から転げ落ちたりするのですが、突然、捨てないでと泣き出します。その騒ぎの最中、救急車を呼んだことも何度かありましたが、少し話を聞いてもらっただけで、解決にはなりませんでした。後から聞くと、僕に心配させたかったようです。
その後、よく観察していると、落ち着いているときは、普通の人以上に理性的で、今は幸せだし、僕のことを愛していると言います(Aの状態)が、突然、人が変わったかのように罵りはじめ、死にたいとか、もう疲れたとか、明日にでも別れると言い出すのです(Bの状態)。Bの状態のときには、体全身が痛いとか頭痛がすると訴えることがあります。さらに、激しくなると、暴力的になり、何をするかもわからなくなります(Cの状態)。
この3つの状態が、突然人が変わったかのように、交互に現れます。問題が起きた当初は、Bが主で、エスカレートしてCになるという感じでしたが、時間が経つに連れ(数ヶ月で)、Aの状態が主になり、Cの状態はなくなり、Bの状態も減ってきました。ただ、すべて記憶は繋がっています。 1年経った今、彼女は、自分が非常に幸福で、毎日、僕のことを愛していると言い(真実だと思いますが)、二人ともとても仲良く暮らしています。普段は、全く病的であることなど感じさせません。しかし、1-2ヶ月に一度、何かのきっかけ(たまたま前妻のことが話しに出たりするときや、僕が彼女の意見に反対したとき)で、Bの状態になるのです。そうなると、4年も5年も前の、忘れていたようなことも思い出して、僕を罵ります。解決のつかないことを言い、現実にできないことを要求します。その時は、会社を休んででも、ゆっくり話を聞いてあげると、ある時点で、「あ、落ち着いてきた」と言って、これも突然、Aの状態に戻ります。戻ったら、何とも無かったかのように、Aの状態が戻ってきます。 しかし、最近の最大の問題は、妊娠です。妻は、子供を欲しがっていて(もちろん、僕も欲しいのですが)、ただ年齢だけに、難しくなっています。妊婦をみると、それがBになる引き金になり、子供ができないのは、その期間に妻に見向きもせず(それは事実ではありません)、問題を起こした僕の責任であると責め立てます。とにかく、僕を責めるときの言葉は、本当に耐えられなくなることがあるほどです。 平常(Aの状態)のときに、本人に、Bの状態のときにどういう感じか尋ねてみると、本人は、あれ(B)も自分だと言います。その状態のときは、なぜだかわからないが、心からそのように思っていて、その時の記憶も全部あるけれど、今(A)は全然そうは思えない、と言います。また、Bの状態だと、自分で頭をぶつけたりして後で痛くなるので、Bにはなりたくないとも言います。なので、意識的にBになっているのでもなさそうです。また、一旦Bになると、いつAに戻るかわかりませんが、大体1日くらい、ゆっくり話していると、突然Aに戻ります。印象ですが、話の内容を、以前のトラブルを理性的に考えるような方向に話を進めてやると、Aに戻るのが早くなるようです。対策として、Bの状態にあるときは、考え方がBになっているので、Bの状態の人間を説得するというより、Aの状態に戻すように説得しています。ただ、二日前のAの状態を思い出すように頼んでも戻りません。Aの考えをこちらから自然に話しているうちに、突然「それはそうだ。あなた(僕のこと)が正しい。」と言って、正気にかえる、という感じです。そのくらい、AとBは極端な考え方を持ち(ある意味、お互いに相容れないこともある)、態度も違い、人格が解離しているかのようです。Bにあるときは、一旦夜になって寝て起きても、まだBのままです。普通は、前日の夜に大喧嘩をして一時的に怒っても、朝になると少しは冷静になっているはずだと思うのですが、妻の場合は、そうではないのです。一晩経つと、Bの中で、少し落ち着いている感じですが、基本はBです。で、翌日、突然Aに戻ります。 平常の妻は、人一倍理性的に物事を考えますし、とても優しい性格です。責任を他人のせいにすることもありません。しかし、昔のトラブルから、前妻のことは非常に恨んでおり、恨み方も、そこまで考えなくても、と思うほどに激しいものです。前妻のことでは、前妻に全て責任があるような言い方もします。また、人一倍僕を愛しており、とても良くしてくれますし、僕に感謝も言ってくれます。僕自身は、彼女が境界性人格障害ではないかと思ったときがありました。本人に言ってみると、確かに、「見捨てられ願望」があって、今でも、毎日、「私のことを嫌いにならないで」と言っています。しかし、Aの状態では自傷行為はありません。痛いことが、人一倍嫌いなのです。Bの状態のときに、境界性人格障害用テストをすると、ほとんど当てはまってしまいます。普段は怒ることもありませんので、ほとんど喧嘩もしません。不安定さと言えば、1-数ヶ月に一度、Bの状態になることがあるだけですが、それも減ってきております。AとBが余りに極端なので、解離性障害かもとも思いましたが、上述したように、AとBはお互いに記憶があります。 この4年間、何度か精神科に行きましたが、4年ほど前の精神科医は、とてもよく話を聞いてくれて、対症療法的に睡眠導入剤を出してくれましたが、治療はそれだけでした。1年前の精神科医は、躁鬱を疑っておられた上に、こちらの話を良く聞いてくれませんでした。どちらも合ってないような気がしたのと、時間の経過に従って、問題が少なくなってきたので、今は精神科には通っていません。 6年前のトラブルの内容は書きませんでしたが、ほとんどの点で、ある意味、僕に責任があります(女性関係とかではなく、僕の前妻との付き合い方の問題です)。ただ、Aの状態にある限り、妻はそれも理解してくれておりますので、前を向いて生活していますし、当時の僕の行動について、責めたりはしません。普段は、人から見ても羨ましいと言われるくらい、仲が良いのです。 情報としてですが、妻の母親は、小さい頃から、妻に暴力的でした。その上、癇癪を起こすことが度々あって、その度に、いわゆるヒステリーのように泣き喚き、その辺りに置いてあるグラスなどを次から次へ割っていたのだそうです。精神的にも抑圧されて育ったようですが、妻が家を出た後は、父親がその犠牲となって、母親の怒りを一身に受けていたようだとのことです。また、妻の特徴的なことは、掃除が全くできないことです。なので、家中が、いつも泥棒が入ったかのように散らかっています。 文頭に書いたように、今の妻の状態を、どのように見れば良いのか、また治療が必要なのか、などについて、ご見解をいただけると大変ありがたく存じます。どうぞよろしく御願い致します。

 

林: 定義上は解離性同一性障害(多重人格)にはあてはまりませんが、実際上は解離性同一性障害の一種、または亜型といっていいと思います。
定義上あてはまらないという理由は、質問者自身が指摘されているように、それぞれの人格で記憶が繋がっていることです。
もっとも、厳密な定義上はそれぞれの人格で記憶は別々に独立していることになっていますが、実際の解離性同一性障害では、ある程度の記憶の繋がりがあることは少なくありません。けれどもこの【4385】のケースでは、記憶がほぼ完全に繋がっているようですので、解離性同一性障害にはあてはまりません。しかしそれは現在の定義上はあてはまらないということで、解離性同一性障害とかなり共通するメカニズムによる症状であると言っていいでしょう。母親との関係がその背景にあると考えられます。

治療が必要なのか、

必要でしょう。残念ながらこれまで受診した二人の精神科医からは、適切な治療をしていただけなかったようです。しかしそれはある意味いまの精神科医療の現実で、精神科医なら誰でも解離の適切な治療をしているわけではありません。
他方、

時間の経過に従って、問題が少なくなってきたので、

とのこと、自然経過だけでさらに良くなる(根本的に良くならなくても、問題がさらに少なくなる)ことも期待できます。
経過を慎重に見て、良くなっていかないようであれば、適切な治療をしてくれる精神科医を探すというのが現実的な対応ということになるでしょう。

(2021.9.5.)

05. 9月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 解離性障害