【4379】幼少期の性体験は人格に影響を及ぼすのでしょうか

Q: 20代男性です。
これは私が5歳か6歳頃の記憶についての話なのですが、年が8年ほど離れた親戚のお兄さんから性的な悪戯をされたことがあります。
具体的には、
(1) 彼の部屋でエッチな本を見せられ私は興奮し、それを見た彼が私に亀頭を舐めさせる
(2) その数時間後に一緒にお風呂に入ったのですが、私の肛門に陰茎を入れた。その際、私は女の人の快感のようなものを子供ながらに初めて感じ取った(遺伝子にプログラムされていた性?の本質のようなものを微かに理解できた)
というものです。
これは幼稚園に通う前だったということが私の中で明確に記憶されているので、のちに作られた記憶ではないと100%言い切れます。
私はあまりこの時の体験を悲劇的なものとして捉えているわけではないのです(肛門に挿入された時、とても気持ちがよかったため)。むしろ幼少期の私は、僕と同じ年の子はこんな素敵な体験はできないであろうと、自分は選ばれた人間のように感じていました。

さて、ここで本題なのですが、
今は上記のような感情がないと言えば嘘になるのですが、現在はどちらかというと、私がこの幼少期の性体験により今後異常性欲者になってしまうのではないか、という不安が少しあります(今まで、肛門刺激による自慰は行なっていません)。
また、この体験を機に発現したか、あるいは先天的なものかはわかりませんが、たまに自分が性的に中性な存在になって男性に理不尽に強姦されたいと思うことがあります。これはトラウマにより、無意識に発現したのでしょうか。
私がこの世に生を受ける前後で性被害に遭われた方々はたくさんいたでしょうし、これからも被害者は生まれるでしょう。そのような方々には大変申し訳なくも思いますし、私は本当にレイプ被害にあいたいと思っているわけではないんです。
親にはもちろん姉、友人等にもこの事実を話したことはないです。万一精神科にかかるべきだとしても、親達にバレて悲しませるのは嫌です。

私は精神科に行くべきでしょうか? ご回答よろしくお願いします。

 

林:
私は精神科に行くべきでしょうか?

これはすなわち、

私がこの幼少期の性体験により今後異常性欲者になってしまうのではないか、という不安

この不安について相談し、もし今後異常性欲者になってしまう可能性が高いのであれば、そうならないための治療を受けたい、という希望に基づくものであることがこのメールから読み取れますが、それに対する回答は、残念ながら、

そのような問題についての臨床研究は少ないため、わからない

ということになります。
そもそもこのような問題について信頼できる実証的な研究を行うことは非常に困難で、ほとんど不可能です。
なぜなら、このような問題についての研究方法は基本的には二つしかありませんが、いずれも非現実的だからです。
第一は、この【4379】の質問者のような被害に実際にあった方について、その被害にあった時点から(これが重要な点です)数年、数十年にわたり経過を追い続け、性生活を調べてデータを出す、という方法です。これが不可能であることは言うまでもないでしょう。
第二は、異常性欲者(【4379】の質問者がお考えになるところの異常性欲者にあたる人々)について、過去に、この【4379】のような体験があったか否かを調べてデータを出す、という方法です。これもやはりほぼ不可能です。そもそも「異常性欲者」の定義が難しいことを別にしても、過去においてどのような体験があったかを確認することは事実上不可能です。たとえばこの【4379】のケースにしても、

これは幼稚園に通う前だったということが私の中で明確に記憶されているので、のちに作られた記憶ではないと100%言い切れます。

質問者はこのように言っておられますが、「幼稚園に通う前だったということが私の中で明確に記憶されている」からといって、作られた記憶でないことの証拠には全くなりません。「幼稚園に通う前だった」という記憶自体が正しいという証拠はどこにもないからです。偽記憶の多くについて、本人は「この記憶は100%正しい」と確信しているものです。(そして逆に、それが真の記憶ではないことを証明することもまた不可能ですので、結局は、正しいか正しくないか誰にもわからないということになります)

このような事情があるため、【4379】の質問のテーマである「幼少期の性体験によって異常制欲者になるのか」という問いに答えることは不可能です。関連したことで、「幼少期の性的虐待は人格(パーソナリティ)に影響を及ぼすか」という問いについては、イエスと言えます。もちろんこの場合も、上で説明したような研究上の宿命的な難しさがありますが、ただこちらについては膨大な臨床例がありますので、イエスと言い切ることができます。ただし、「幼少時に性的虐待を受けたと主張するパーソナリティ障害の人」のすべてが実際に性的虐待を受けたか否かは別の話です。その中には偽記憶や虚言も含まれています。

(2021.9.5.)

05. 9月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 性に関する問題, 精神科Q&A, 虐待, 虚言