【4375】しばしば空想の世界に陥ってしまう私は統合失調症でしょうか

Q: 40代男性です。 私はしばしば自分が理不尽に激しく叱責される空想の世界に陥ってしまい、しばらくその世界から脱出できません。極めて不快な世界であるにも関わらず、なぜかその世界に精神が沈んでしまいます。

例を挙げると、パスタ料理を作る時、以前私はレトルトのパスタソースを湯煎するのではなく、パスタソースをフライパンに開け、弱火で温めたところに固茹でのパスタを投入し、加熱しながら絡める、という作り方をしていました。より本格的なイタリア料理店の方法です。
しかし、この方法で調理しようとすると架空の人物が現れます。この人物は外見は実在の知人ですが、存在としては架空の人物です。
彼女は、用意されているフライパンを見ると「なんでフライパンが出てるの?何これ?」と言ってフライパンを片付けようとします。
私は「これが本格的な作り方なんだよ」と言いますが彼女は理解しません。
次に私が冷たいままのレトルトのパスタソースをフライパンに開けるために切り口を切ろうとすると「何やってるの?それはお湯を沸かして温めるの!馬鹿じゃないの?」と私を罵倒し始めます。
パスタを茹でる時、私は独自の方法を行います。例えばそのパスタの茹で時間が「6分」ならば、それは「6分以上茹でてはいけない」という意味ですから、私はタイマーを6分に設定した上で、タイマーのスイッチを入れて作動させてからパスタを鍋に投入します。
すると架空の人物Aは「まだ(鍋に)入れてないでしょ?なんでタイマーを押すのよ。馬鹿じゃないの?」
架空の人物Bは私がパスタを全て湯の中に沈めたところに現れて、タイマーを止めてしまいます。私は「なんでタイマーを止めるんだ?」と言いますが彼女は「止めたんじゃなくて進めたのよ」と言います。「違う、既にタイマーは進んでいる。止めるな!」と言いますが彼女は理解しません。
このような理解されない状況の想像がエスカレートし、最終的に私は「うるさい!」などと実際に大声で叫び、悪態と調理の妨害を繰り返す空想上の存在に対してパンチやキックを繰り出します(実際には誰もいない空間にパンチやキックを繰り出しています)。
これが不快なので、最近はパスタソースを熱湯で温めるという一般的な調理法を行なっています。

別な例ですが、一人でお茶を飲んでいるとしばしば次のような空想が始まります。
とあるカフェ又は喫茶店で見知らぬグループから共にお茶をするように誘われ、そこに参加してみると、グループの一人が私にはとても賛同できないような極端な主張をし始めます。曰く「日本にいる外国人は全て工作員だから全員逮捕して強制送還すべきだ!逃げる奴は射殺しろ」
するとその場にいた人々は次々にその意見に賛同を始めます。
私は全く賛同できないので黙っていると、誰かが「〇〇(私の名)さんはどう思いますか?」と訊かれるので、私はそれに反論します。
すると彼らは皆私を嘲笑い「馬鹿じゃないの?」「お花畑のパヨク」「歴史を勉強しろ」などと集団で私を叱責し始めます。私も反論しますが全く理解されません。私は思わず「お前らこそ馬鹿だ!」などと実際に大声で叫んでしまいます。やがて議論は白熱して殴り合いの喧嘩になります。私は誰もいない部屋の片隅にパンチやキックを繰り出し、空想上の論敵を踏み躙っています。

ただし、これらの空想上の「敵」はあくまで自分の空想、想像であることは自覚できています。実際に耳に彼らの声が聞こえたり、彼らの姿が見えることはありません。
しかし、この「架空の人々から叱責される」という不快極まりない空想の世界から逃れることができません。

このような症状は「統合失調症」なのでしょうか?

 

林: 統合失調症ではないと思います。むしろ解離性障害の色彩がある体験です。しかし、

あくまで自分の空想、想像であることは自覚できています。実際に耳に彼らの声が聞こえたり、彼らの姿が見えることはありません。

その自覚が明確であり、また、幻覚でもない以上、解離性障害とは言えません。病名もつかないでしょう。ご本人としては不快な体験であるとは思いますが、「空想、想像」の範疇を超えるものと言うことはできません。ただし、このような体験と、解離性障害の症状の境界は、実のところは曖昧です。どちらとも決めがたいケースもあります。この【4372】のケースは、上記の通り、空想ないし想像であることを明確に自覚され、知覚領域の体験でもない(つまり幻覚にまでは達していない)以上、解離性障害という診断には至りません。

(2021.9.5.)

05. 9月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 解離性障害