【4278】統合失調症の再発を繰り返してきた妻

Q: 私は60代男性です。
55歳の妻が統合失調症を再発しました。最初の症状は8年前の急性期にさかのぼります。気が狂ったようにひどい錯乱状態と解体した言動と行動により警察をよび、救急車で搬送、入院しましたが、一ヶ月ほどでかなり本来の状態に戻ったため統合失調症との診断にいたらず、家族も何だったんだろうねという具合でした。それから、1年後に再発、6年間はほぼ寛解、7年後に再発、さらに8年後に再発(現在)となりました。林先生の 統合失調症 患者・家族を支えた実例集 を拝読しました。とても励みになりました。病院もクスリも好きじゃなかったことが災いしていました。病院は、急性期のときだけのものではないのですね。この本を読んだときに、思いました。精神病院で、初診の患者がきたとき、家族へのガイドブックのようなものを渡すとか、ネットでこんなことを勉強しなさいとか、アドバイスがあったらどんなによかっただろうかと。
ところで、近所の人から聞いたことで、真偽のほどはわかりませんが、精神病の人が薬漬けになって荒廃状態になった人も多いというような話を聞いて不安になりました。コロナウイルスにおいても、ワクチンで効果が出る場合は多いが、まれに良くない結果がでることと似ていると考えていいですか?

 

林:
精神科病院で、初診の患者がきたとき、家族へのガイドブックのようなものを渡すとか、ネットでこんなことを勉強しなさいとか、アドバイスがあったらどんなによかっただろうかと。

現在は多くの精神科病院にそのようなシステムが整えられています。ただし、初診の段階でそのようにすることが適切かどうかはケースによって異なります。なぜなら、統合失調症という診断を告げられただけで、そんなはずはない、そんな診断は信じられないと言って治療を拒否する人々が今でも相当数存在するからです。他の病気と同じように、統合失調症という診断をごく自然に告げられるようになれば、もっと多くの人々が現代の精神医療の恩恵を受け、穏やかな生活を送ることができることは確実ですが、まだまだそうはなっていないというのが現状です。

精神病の人が薬漬けになって荒廃状態になった人も多いというような話を聞いて

このような迷信もいまだにかなりの人が信じいるのが現状です。この迷信が払拭されない理由は複雑ですが、まず前提としての事実としておさえるべきことがいくつかあります。主要なものは次の3点です。

(1) 精神病(多くは統合失調症を指します)は慢性化し荒廃状態になることがありうる。
(2) 薬によって荒廃状態になることはまずあり得ない。
(3) 「薬漬け」という言葉は、過去において、入院患者を管理するため(つまり、興奮状態になったり暴力的になったりする患者を管理するため)、過剰に薬を投与して鎮静することが一部の精神科病院で常態化していたことを指したものである。それ以外の事例についてこの言葉を用いるのは適切とはいえない。

精神病の人が薬漬けになって荒廃状態になった人も多い」という迷信の背景にある最も重要な事実は上記の(1)です。このため、たとえば精神科病院の慢性病棟での入院患者の様子を見たとき(実際に見た場合はもちろんですが、映画などでの描写を含みます)、これは薬の影響に違いないと考える、またはそう考えることで自分を安心させるという心理が生まれます。さらには、ご家族の立場等を考えるとやむを得ない面もありますが、ご自分のご家族が統合失調症の慢性化により長期入院状態になってしまったとき、他人に対しては、家族がそのような状態になったのは薬が原因であると説明するのは少なからずあることです。
このような事情のため、

精神病の人が薬漬けになって荒廃状態になった人も多いというような話

がまことしやかに語り伝えられるという事態が続いているのです。
実際に統合失調症のご家族が薬による治療で回復するのを目のあたりにすれば、この【4278】の質問者のように治療の必要性が理解でき、結果として統合失調症当事者の方々が安定した生活を送ることができる可能性が大きく高まるのですが、そもそもの治療の出発点における薬への誤解や偏見という根強い問題が、それを阻んでいることがしばしばあるというのが現状です。

(2021.4.5.)

05. 4月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 薬の副作用 タグ: , |