【2570】私は発達障害でしょうか、それとも単純型統合失調症でしょうか、それとも神経症でしょうか
Q: 私は39歳の男性です。どうぞよろしくお願い致します。 20歳のときに勉強のし過ぎで三叉神経痛になりました。最初はすぐに治ると思い大学を卒業して就職もしたのですが、なかなか治らず、これを発端として次第に鬱状態と不安と不眠に苦しむようになり20年近くが経過しています。 ご相談内容は主に診断名についてです。20代のとき精神科を受診したところ「神経症」と診断されレキソタン・トリプタノール・ハルシオンが処方されました。これで数年を過ごしたのですが、その後、不安が激化して嘔吐するようになり休職・療養しました。 28歳のとき、復職に向けて授産所に通うことになったのですがそれには医師の書く書類が必要でした。その書類には封がしてあったのですが診断名を透かしてみると「精神分裂病」と書いてあり、大変大きなショックを受けました。あまりのショックに下痢と吐き気が止まらないほどでした。医師によると単純型精神分裂病 (単純型統合失調症) とのことでした。薬は粉だったのでわかりませんが、うちひとつは最後は錠剤で出されたブロムペリドールだったことがわかっています。 セカンド・オピニオンを求めたところ、心理テストの結果からも精神分裂病の兆候は見られないとのことで「抑鬱神経症」になりホッとしましたが、最近になってまた「単純型統合失調症」と言われているのです。投薬もSNRIからインヴェガに代わりました。「感情鈍麻」が起きているとも言われました。 しかしカウンセラーである臨床心理士は、これに異を唱えて発達障害であると言っているのです。自閉症スペクトラムテストの結果からしても自閉の傾向がかなり強いとのことで、これであと数字に対する執着があったとすればテスト上、明らかに自閉症だということでした。 わたしにとって、自分が「神経症」なのか「単純型統合失調症」なのか「発達障害」なのかは大きな問題なのです。判断する方法・手段がありましたら、是非ご教授をお願いいたします。なお現在は普通に勤務していることを申し添えておきます。
林: 「単純型統合失調症」と「発達障害」は、時に区別が非常に難しいことがあります。また、「神経症」となると、現代では公式の診断名ではないため、何を指すのか、どの範囲を指すのかが曖昧ですので、これら三つの診断名を並べて論ずることは不可能ですが、誤解が生まれるのを承知でこの【2570】のケースに限ってあえて言えば、真の診断名が単純型統合失調症であっても、発達障害であっても、軽症であれば、神経症にみえるということはできます。また、この【2570】の質問者もおそらくそうだと思われますが、単純型統合失調症という病名を告知されれば非常に大きなショックを受け、発達障害という病名を告知されれば、単純型統合失調症ほどではないにせよある程度のショックを受け、しかし神経症と告知されれば安心するというケースはよくありますので、本人には神経症と告知することはあり得ることです。しかしこの【2570】のケースの病名告知がそのような事情でなされているかどうかはわかりません。そもそも症状の具体的記載が乏しいので、診断名を判断することはきわめて困難です。
そこでこの回答では、単純型統合失調症と発達障害をめぐる一般論をごく簡単にご説明します。次の通りです:
・ そもそも単純型統合失調症の診断は難しい。難しいという以前に、単純型統合失調症という病気が本当にあるのか、それは統合失調症の一種なのか、という論争は昔からありました。現代では、単純型統合失調症という種類の統合失調症はあるというのが定説になっています。単純型統合失調症とは、幻覚や妄想は目立たず(幻覚も妄想も無いケースもあります)、陰性症状が進行していくという病気です。それを統合失調症の一種とするかどうかは今後また考え方が変わる可能性はありますが、そういう病気が存在することは確かです。
・ しかしながら、従来単純型統合失調症と診断されていたケースの中には、発達障害がかなり含まれているとする説もあります。私もこの説は正しいと思います。成人してからのある時点の症状だけをみれば、単純型統合失調症と発達障害は事実上区別がつかない場合もあります。このような場合、両者を区別する根拠は成育歴だけになります。
・ したがって、現在39歳であるこの【2570】のケースの今の症状をいかに詳細に検討しても、単純型統合失調症か発達障害かは区別できない可能性は高いです。直接診察してもそうなのですから、メールからの判断は到底不可能です。
・ 質問文の中に
カウンセラーである臨床心理士は、これに異を唱えて発達障害であると言っているのです。自閉症スペクトラムテストの結果からしても自閉の傾向がかなり強いとのことで、これであと数字に対する執着があったとすればテスト上、明らかに自閉症だということでした。
とありますが、ここに書かれていることだけを理由に発達障害であると主張しているのであれば、この臨床心理士は知識不足です。理由は上記の通りで、現在の【2570】のケースの症状をいかに観察しようが、いかに詳しい検査をしようが、単純型統合失調症か発達障害かを知ることはできません。
・ 先に、「従来単純型統合失調症と診断されていたケースの中には、発達障害がかなり含まれている」と言いましたが、現代では逆の傾向があるといえます。すなわち、現代ではある意味発達障害という診断名は「流行り」ですので、この臨床心理士のように、テストの結果等から安易に発達障害という診断がくだされる傾向が発生しています。 【1523】アスペルガーは薬で治るのでしょうか もその1例です。このあたりの事情はサイコバブル社会もご参照ください。(「流行り」の診断名とは、本当とはその診断名でないのに、そのように診断される率が高くなるものを指しています。これを「過剰診断」といいます。現代では「うつ病」がその最たるものですが、「発達障害」もそのひとつです。また、「双極2型障害」も最近では流行りの兆しがあります)
・ このように、単純型統合失調症、発達障害、(さらには、「神経症」と呼ばれるもの)の区別は難しいです。しかし「難しい」ということは、「厳密に区別することにあまり意味はない」と言い換えることもできます。
わたしにとって、自分が「神経症」なのか「単純型統合失調症」なのか「発達障害」なのかは大きな問題なのです。
とのことですが、あまり診断名にこだわらないことを【2570】の質問者にはお勧めします。(それにこだわること自体が、発達障害の傾向ありという考え方も可能ですが、「傾向あり」から「発達障害という診断」には大きな距離があります。
現在は普通に勤務している
ということである以上、診断名はさしたる問題ではないと考えるべきでしょう。
(2014.3.5.)