【4267】母が浮気をしていると騒ぎ出した父

Q: 父について質問したくメールさせていただきました。
私は25歳の女性です。
父は57歳の会社員、母は50歳で同じく会社員です。

母は15年ほど前に過呼吸になって以来、情緒不安定の様な状態になり、現在も心療内科に通っています。
診断名を聞くとはぐらかされるのですが、以前ヒステリーとパニック障害、不安神経症と言っていたことがありました。
両親が不仲で、妹が生まれる前(18年前)までは父の暴力も頻繁にありました。
そして母は「病気になったのは父の責任」と言っています。
現在は父と激しく喧嘩をすると過呼吸になり、酷い時は子どもの様な言動になったこともありました。

母は会社では重要なポジションを任され、朝早くから夜遅くまで仕事をしています。
会社では心療内科に通っているのがバレないように一生懸命頑張っているためストレスが溜まるらしく、家では不機嫌なことが多いです。そのためみんな母に気を使い、家事は私や父で行うことも多いです。
父は過去のことを反省して、たまに母に不機嫌さを表すこともありましたが、母のために本当によく尽くしていたと思います。

そんな父の様子がおかしくなってしまいました。
1週間前に母が浮気をしていると騒ぎ出したのです。
母に確認すると、実際17歳も年下の男性(10年間友人関係)と食事をしたこともあったが、浮気は絶対していないということです。
しかし、相手の男性は母に想いがあったらしく、彼からの手紙が母の車内にあったそうです。

父になぜ母が浮気をしたと思ったか聞いてみると、半月前に母と道ですれ違い(両親とも車)その時の反応がいつもと違った。
怪しいから1週間母の仕事帰りを尾行した。
そしたら2人が同じ書店で立ち読みをしていた。
だから浮気をしている、ということのようです。

その後の父は、家族が否定しても「母は浮気をしている。不貞をはたらいた女は信じられない」、「あの女は全財産を持ってもう帰ってこない」、「早く離婚したい」、「証拠をつかんでやる」など、浮気に関することを繰り返し言っています。
しかし父に責められ続け、母が過呼吸になると「俺が一生そばに居る」と言いますし、私の前では母を愛しているとも言いました。

現在の父の様子は本人が自覚している部分は・・・。
(1) 母の浮気のことが頭から離れず仕事が手につかない。
(2) 自分の行動(毎日母の仕事帰りを尾行するなど)の衝動が抑えられない。気持ちがコントロールできない。
(3) 不眠が続き市販の薬を服用している。
(4) ここ1週間の自分の行動で思い出せない部分がある。

しかし家族から見ると、ほんの些細なことすべてを母の浮気に結びつけ、そのことしか考えられず、証拠を掴むという行動に執着しているようにみえます。
また、母の携帯は1週間の間電源を切っているのに、3回電話が繋がったと言っていました。

父の父親(私から見ると祖父)も定年を迎えた頃から、「母に毒を盛られた」、「近所の人にお金を盗まれた」、「近いうちに3億もらえる」など、妄想とも痴呆とも思える言動を繰り返していたそうです。
父は10代で母を亡くし、祖父も若い頃から変わり者と言われていた家庭で苦労して育ったようです。
そして10年間もの間、私は父を粗末に扱ってきました。
また姉は現在は一人暮らしをしていますが、自殺未遂を繰り返したり喜怒哀楽が激しく、心療内科に通院しています。
姉は両親に「病気になったのはお前達のせいだ!」と喧嘩になると叫んでいました。

父がおかしな言動を取るようになったのは私たちに責任があるのでしょうか?
また父は妄想性障害などの病気になってしまったのでしょうか・・・。
母も精神的に不安定なので、どちらの肩を持つのが1番良いのかがわかりません。。。
私もいつか精神的におかしくなってしまうのではないかと不安でいっぱいです。

長文になってしまいましたが、回答宜しくお願いします。

 

林:
そんな父の様子がおかしくなってしまいました。
1週間前に母が浮気をしていると騒ぎ出したのです。

その後の父は、家族が否定しても「母は浮気をしている。不貞をはたらいた女は信じられない」、「あの女は全財産を持ってもう帰ってこない」、「早く離婚したい」、「証拠をつかんでやる」など、浮気に関することを繰り返し言っています。

これは嫉妬妄想の可能性があり、この年齢の方に嫉妬妄想が見られたときは、質問者がご指摘のように妄想性障害を発症したか、または、認知症の初期も考える必要があります。

(4) ここ1週間の自分の行動で思い出せない部分がある。

この記載からは記憶障害がありそうですが、これだけの記載ですと具体性に欠けますので記憶障害が本当にありそうかどうか判断困難です。もし記憶障害が徐々に進行してきたのであれば、認知症を発症しており、嫉妬妄想はその症状と見るのが妥当でしょう。

(3) 不眠が続き市販の薬を服用している。

これについては、他の症状と関係あるか否か判断困難です。いつごろから不眠が続いているのかという重要な情報についても不明です。

(1) 母の浮気のことが頭から離れず仕事が手につかない。
(2) 自分の行動(毎日母の仕事帰りを尾行するなど)の衝動が抑えられない。気持ちがコントロールできない。

これらは(上記の(3)(4)も含め)、「現在の父の様子は本人が自覚している部分は・・・」として記載されていますが、やや不可解です。お父様は、「仕事が手につかない」「衝動が抑えられない。気持ちがコントロールできない」と「自覚」されているのでしょうか。他の部分の記載や文脈からは、「妻が浮気しているのだから、仕事が手につかなかったり、妻を尾行するのはむしろ当然」とお父様は考えておられるのではないでしょうか。この二つ(本人が自分の行動を、抑えられないなどと自覚しているのか、それとも、当然であると自覚しているのか)には重大な違いがあります。

それから、これは嫉妬妄想の診断一般について言えることですが、本当のところ浮気が事実か事実でないかはそう簡単には判定できないことがしばしばあります。
この【4267】では

母に確認すると、実際17歳も年下の男性(10年間友人関係)と食事をしたこともあったが、浮気は絶対していないということです。
しかし、相手の男性は母に想いがあったらしく、彼からの手紙が母の車内にあったそうです。

とのことで、質問者は「浮気は事実でない」と判断されているようですが、本人(お母様)が「浮気は絶対していない」と言っていることは、浮気が事実か否かを判断する根拠としては薄弱です。実際に浮気をしている人の多くは「浮気は絶対していない」と主張するのが常だからです。

妄想の一応の定義としては、その内容が事実でないことが条件ですが、するとこのケースで仮にお母様が本当に浮気していた場合、お父様の訴えは嫉妬妄想ではないということになりますが、実際には、こだわりの強さによっては、それでも嫉妬妄想と診断できることもあります。

(2021.3.5.)

05. 3月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 妄想性障害, 精神科Q&A, 認知症