【4219】幻聴だけが症状の統合失調症はあり得ますか
Q: 私は44歳の男性です。
元妻が統合失調症を発症(当時32歳)だった事もあり、こちらのサイトはずっと以前より色々と勉強させていただいておりました。
結果的には子どもは私が引き取り、協議の上で離婚という結末になりましたが今回は私自身の幻聴(?)について質問させていただきます。
今年の春ごろから、間違いなく幻聴と思われるような声が、不定期に現れておりまして、とても気がかりです。
私は士業で、自宅兼事務所でデスクワークをする事が殆どなのですが、最初の幻聴は今から7ヶ月前の一番忙しい時期に自室でパソコンに向かっていた時『おい、○○(私の名前)』と知らない男の野太いような声がしたので、ハッとなって振り向くと誰もいません。空耳かと思い仕事を続けましたが、数十分後くらいにまた同じ声色ですが怒り口調で『何をしとんのやぁ!』 という風な声が聞こえ、周囲を見ても勿論誰もいません。
こんな状態が数日おきに夏ごろまで続き、最初は仕事中に限定していましたがTVを見ている時や、本を読んでいる時、入浴中にも徐々に聞こえ始めました。
丁度夏ごろから寝る時、と言うか入眠直前に『意味のない言葉』をよく聞く事が増え、その『意味のない言葉』とは、日本語としておかしくないものの、例えばTVドラマのセリフや、近所の人の世間話のような何の脈絡もないような言葉や文章などです。
『今日は夕食は何を食べたんだ?』
『○○(私の名前)はパチンコに行かないから知らないんだよ』
『××君(知らない男の名前)とは遊びだけど、貴方とは本気だから』
などのような、意味のない日本語をいろんな声色で特に入眠直前によく聞こえ、朝起きるとすっかり収まっているような状態です。最近は仕事が忙しく長い時で1日に15時間ほどパソコンの前で仕事をする事もあり、疲れているのかなと思いマッサージや整体に行ったり、実家の庭の手入を手伝ったり気分転換に努めると若干ましになったような気はしますが、やはり完全には収まりません。
そしてここ1、2ヶ月前頃からは声だけでなく、雑音などが聞こえ始めました。
近くに走っていないのに仕事中に電車の走行音が聞こえたり、誰もいない隣の物置にしている部屋でガタゴトと物を移動させてるような音、来客もないのに呼び鈴の音がした事もあり、念のために防犯ビデオを再生しても来客がない事も確認したりしました。
冒頭に少し書きましたが私は妻が統合失調症になった事から、その幻聴や妄想につきましては若干の知識はあるつもりですが、否定的な幻聴と言うよりは、「意味のない話し声や雑音が聞こえる」というのが現在困っている事です。
その幻聴の出現時は、今の所は決まって『一人で居る時』に限定されてます。誰かと一緒にいる、電話をしている、買い物にデパートに行って周囲に人が居る時などは殆どそういう声は聞こえません。
また、少なくともここ1年ほど前までは音に特に敏感だった事もありませんし他人にそうした指摘を受けた事もありません。
耳がおかしくなったのかと思い、先月に耳鼻科を受診しましたが、耳鼻科の先生は一応耳の中を見て掃除をしてくれましたが耳鼻科的には異常は特にないですとの事で、いくつか問診がありましたが特に統合失調症を疑うような質問はされなかっと思います。(専門外だからかも知れないですが)
妄想などは(多分)ありませんが、幻聴は確実に聞こえています。
なぜ確実、と断言できるかは室内に誰もいない(目視できない)のに聞こえる事実があるという事は幻聴に他ならないからです。
室外にいる長男にも『何か言ったか?』とよく聞くことはありますが、何も言わないよという返事しかありませんし、そんな事で嘘をつく必要もなく、また何者かが盗聴器や発信機を仕掛けた(以前妻がよく言っていた)などとも当然思えません。
妄想も『多分』ないと書いたのは、他人から見て客観的に証明する手段がない以上は、妄想であっても私自身が妄想ではない、と言っているに過ぎないので証明できないので敢えて『多分』と書いた次第です。
上記のような状態なのですが、これは統合失調症を疑う症状でしょうか?
疑われる症状なら今のうちに(正常な判断のできるうちに)精神科を受診する事を考えなければいけませんが、入院治療などになれば仕事上とても困るので躊躇いはありますが、統合失調症だとするとそんな事を言っている場合ではないような気がしますので、病院の提案通りの治療をする事になろうかと思いますが、これは精神科を受診すべきレベルでしょうか?
精神科を含めて、現在かかっている病院はありません。
素人判断ですが、ここ数年仕事が非常に忙しく、ミスをすればクライアントに多大な迷惑をかけてしまう事、コロナなどの影響で仕事を失ってしまう心配や子どもの進学にお金が掛かる事などの不安がありますが、そうした不安要素を人よりも感じやすい(不安神経症的な?)性格傾向はあると思います。
ここ数年、仕事量が増えたなどの理由で、一過性のものであるような楽観的な見方ができれば良いのですが、もし病気だったら、と不安になり質問いたしました。
お忙しいところ恐縮ですが、ご回答いただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
林:
これは統合失調症を疑う症状でしょうか?
難しいご質問です。まず前提事実として、質問者が体験しているのは確かに幻聴です。そして、おそらく幻聴以外には明確な症状は何もなく、明確でない症状(たとえば、漠然とした不安や、生活機能の低下など。そうしたものがあると、統合失調症の前駆期や初期を疑う有力な根拠になります)も何もないと見ていいでしょう。
また、この【4219】の幻聴の内容は、統合失調症に特徴的なものではありません。(ただし、特徴的でないから統合失調症の幻聴ではないとは言えません。統合失調症でも、あまり意味のない内容の幻聴というものは十分にありえます)
すると、「幻聴が唯一の症状のとき、それは統合失調症の発症の可能性を考える根拠になるか?」という問いに帰着することになります。
端的にはこの問いに対する答えは イエス です。幻聴が全くない場合に比べれば、幻聴があるということは統合失調症の発症の可能性を考える根拠になるのは当然です。
ただしその可能性がどの程度あるかというのはまた別の問題です。実際的には、その可能性は、精神科を受診する必要があるレベルの可能性か否かということです。
この回答の冒頭に 難しいご質問です とお書きしたのは、この意味で難しいということです。
このメールに書かれた内容が現状のすべてであれば、まだ受診までの必要はなく、様子をみていいレベルと言えるでしょう。しかし、質問者自身も書いておられるように、妄想の有無などは自己報告だけで判定できるものではありません。そうは言っても受診したところで結局は自己報告以外に妄想の有無を判定する根拠はないではないかと言われればその通りですが、メールのような自発的な報告と、精神科的な問診によって得られる報告とは大きく異なります。少なくとも大きく異なる場合があります。そうしますと今の時点で受診したほうがいいということになりますが、このような論理、すなわち、メールに書かれていない部分に重要な症状があるかもしれないという論理に立てば、いかなるケースも受診したほうがいいということになり、「念のため受診してください」が一律のまさに判を押したような回答になり、回答としての意義は失われるでしょう。
以上がこの【4219】のご質問が難しいといえることの理由です。以上をご参考に、受診する・しないはご自身でお決めください。ただし、質問文にあるように、すぐに入院治療が必要ということにはならないと思いますので、そうしたご心配はせずに、今の状態について精神科医の意見を聞く、という姿勢でよろしいと思います。もしこの質問者を私が診察し、症状がこのメールの内容の通りでそれ以外には重要な所見はないと判断した場合には、治療は開始せず、しかし定期的に通院はしていただき経過を慎重に観察するということになると思います。
(2021.2.5.)