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太宰治(だざい・おさむ; 1909−1948)は、「人間失格」「斜陽」など数々の名作を残し、39歳の時に愛人と心中してこの世を去りました。それから50年以上たった今でも人気は抜群で、太宰治の文庫本は1500万部以上も売れています。文筆家としてはまさに天才型で、口述筆記を得意とし、彼の口から出る文章は句読点から括弧にいたるまで、そのまま出版できたといわれています。名文といわれる彼の文章はすべてとはいわないまでもほとんどは頭の中だけで完成させていたようです。太宰治はそんな優秀な頭脳の持ち主ですが、境界型人格障害であったようです。

そう思われる理由の第一は、自殺未遂を繰り返したことです。自殺というと、うつ病を連想する方が多いと思いますが、太宰治のように何回も繰り返したり、慢性的に「死にたい」といっているような場合は、むしろ境界型人格障害のことが多いものです。26歳の時には入社試験に落ちたことを苦に首をつろうとしています。プライドの高い彼には落ちたことがとてもショックだった、と説明されていますが、境界型人格障害に特有の、自分が見捨てられたと感じると激しく落ち込むという反応であったとも解釈できます。

それから酒やドラッグに溺れやすいのも境界型人格障害の特徴です。太宰治は一升くらいすぐに飲んでしまうくらい酒好きだっただけでなく、パビナールという鎮痛薬の中毒になり、精神病院に入院したこともあります。このときの病名は「慢性パビナール中毒症」ですが、病名そのものは薬物やアルコールの中毒や依存症でも、その原因は境界型人格障害だということは今でもよくあることです。

入院治療の甲斐あって、退院後の太宰治は次々に名作を発表していきます。それでも彼は、自分を入院させた師や友人を恨んでいたといいます。人に頼るかと思うと、急に手の平を返したように非難・攻撃するというのが境界型人格障害の対人関係のパターンです。太宰治は津軽の大金持ちの生まれで、そのことに反発して実家の兄たちを困らせながらも実際にはとても頼っていたということも、これに関係があるかもしれません。現代の境界型人格障害の人は、家族、友達、医師に、依存するかと思うと強く非難するというパターンをとることがよくあり、安定した対人関係を続けられないことが多いものです。

言葉や態度で周囲を振り回すことも、対人関係の崩壊につながっています。太宰治はとても嘘つきだった。実社会でもまるで自分が主役の演技をしているようだった。彼は井伏鱒二を尊敬し、井伏鱒二の前では決して膝を崩さなかったという意外な面を持っていますが、その恩師に対しても嘘が多かったことは、井伏自身が述懐しています。26歳の時の手紙に、「タバコやめました。注射きれいにやめました。酒もやめました。ウソでございません」と書いていますが、その後に酒もクスリもまた始めています。

この手紙を書いたときは、彼は本気で全部やめるつもりだったのかもしれません。境界型人格障害の人は、自分自身のことを深く洞察していて、それだけ理解していればもう大丈夫とまわりに思わせることがあります。ところがまた同じことを繰り返す。そうすると結局はウソをついているのと同じことになる。その結果信用を失っていき、人は去ってゆき、境界型人格障害の人のもっとも恐れている「人に見捨てられる」という恐怖が現実的なものとなり、ウソや自殺行為はさらにエスカレートする、という悪循環に陥りがちです。

自殺未遂にしても、まわりの人を困らせたり脅迫したりするためにわざとやっていると思われることがよくあります。太宰治は自殺未遂を少なくとも4回し、5回目についに死んでしまったのですが、未遂の4回は完全にポーズだったという説もあります。たとえば21歳の時には人妻と服薬・投身心中未遂をし、相手の女性だけが亡くなっていますが、この時に太宰治の飲んだ薬はたいした量ではなく、投身も実際にはしていないというかなり信頼できる研究があります。

もちろんいまとなっては自殺未遂の真相はわかりませんが、ひとつだけはっきりしていることは、彼は最後は本当に死んでしまったということです。自殺未遂を繰り返すと、周囲の人は「またか」いう感じであまり関心を払わなくなり、何回目かに実際に命を落としてしまっても、ご家族は「本当は死ぬ気はなかったんだと思います」とおっしゃることがほとんどです。死ぬ、といって実際に死んだ人はいないなどという俗説もあります。そんなことはありません。女にすぐ死にたい、殺してくれ、と言っていた太宰治が自殺したのは、決して例外的なことではありません。一度は命に別状がなかった方法でも、二度目もそうだとは限らないのです。

 


 

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