【4222】「エレクトロニック・ハラスメント」は存在しますか?

Q: 30代女性です。某ニュースサイトにて、非常に気になる内容があり本当かどうか、(私は統合失調症の症状では?と感じました)林先生のご意見をお伺いしたくメールしました。
概要としましては『24時間、人の声が聞こえる」中国当局によるエレクトロニック・ハラスメントの恐怖』というタイトルで、中国当局が非致死性兵器を使って対象者に精神的な苦痛を与えているというものです。
この記事の中で「電磁波攻撃やV2K送信が存在すると認めている」と書かれていますが、対象者に内部障害、精神疾患と同様の症状を発病させる非致死性兵器の一種である電磁波攻撃、マイクロ波聴覚効果、聴覚を介さないボイス・トゥ・スカル(V2K、脳内音声)技術…はたしてそんなものがあるのでしょうか。
被害者の声も載っていましたが、毎日24時間、どこにいても(地下鉄や飛行機に乗っていても)対象者を攻撃することなど不可能に思います。
この様な脳内の声に悩まされて自殺したものもいる、とありますが冒頭に書いたように統合失調症の症状なのではと感じました。
統合失調症の症状を引き起こすもの、なのかもしれませんがこんなものが存在するのか信じられず林先生の見解をお伺いしたくメールいたしました。
よろしくお願いします。

 

林: 訴えの内容は統合失調症の典型的な症状と一致しています。被害妄想の対象として、当事者個人の偏見や、そのときの社会の状況に応じて、特定の集団が名指しされるのは、統合失調症の妄想としては昔からよくあるものです。【3500】韓国人のIT空中攻撃でプチ鬱で眠れず涙が止まりませんもご参照ください。

【3500】は、素直に読めば、この人の言っていることは変だ、何かの病気に違いない、と、特に統合失調症についての知識がない方でも感じられると思います。【3500】のような場合はその人の受けている「被害」は事実ではなく病気の症状であると納得されやすいのですが、統合失調症の妄想はそのようなものばかりとは限らず、妄想の内容以外はかなり精神的にもしっかりしているように見える(または、事実、しっかりしている)こともありますので、そうなるとそれを聞いた人は、「この人の受けている被害は事実なのではないか」と考えることも十分にありえます。さらには、同じような「被害」を訴える人がたくさん存在することを知れば、その「被害」は事実でないかというのは合理的な推論ということになるでしょう。

このような誤解を回避するためには、統合失調症についての知識を(ごく基本的な知識で十分です。この種の被害妄想が典型的であるというのは基本中の基本です)身につけていることが必要ですが、統合失調症という病気についての社会の認識はまだまだ非常に乏しいというのが実情です。

この問題が深刻な事態を招来した実例として、【3987】にも記しましたが、2015年に淡路島で2家族の男女5人を刺殺した事件があります。この事件の被告人には、自分が「脳ジャック」を受けているという妄想があり、ネットを調べて同様の訴えをしている人が全国に存在することを知り、自分の「被害」が事実であるという確信を強めたと伝えられています。(この被告人は妄想性障害であるとされています。実際には妄想性障害か統合失調症かは微妙であろうと私は見ています。この被告人の診断が何であるかはともかくとしても、妄想性障害では妄想の内容以外の思考はあまり乱れていないことがしばしばあり、それどころか妄想以外は全く正常に見えることもありますので、妄想性障害の人の訴える「被害」を聞いた人は、それは事実かもしれない、さらにはそれは事実に違いないと受け取ることもしばしばあり、すると被害妄想の対象として名指しされた人や人々に非常に深刻な事態が発生し得ることになります)

(2021.2.5.)

05. 2月 2021 by Hayashi
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