【4066】人の話がダブルミーニングに聞こえ始めてからのこと

Q: 5年くらい前から心療内科に通っている35歳、女性です。
お医者様には、心因反応と診断されています。

5年前、人の話がダブルミーニングに聞こえ始めたのが最初で、
次々と統合失調症のような症状が出ました。

家中に監視カメラ、隠しマイクがついていると思い込み、それを、近所の人や、遠い友人が観察していると思った。
左手をあげろ、右を向いて寝ろなど命令される。
他人が話している言葉はもちろん、看板、通っている車、他人の服の模様、犬や鴉のしぐさにまで、何か自分を誹謗する意味があると思っていた。

以上のような感じです。1年弱くらい続きました。(恥ずかしくて書けないこともたくさんあるのですが。)

最初の2年くらいは、医院へ通うものの、これらが妄想だと信じられませんでした。

3年目くらいから病識ができたものの、初めよりは軽いですが、時々、上記のようなことが再発します。

このような症状の後は、脳が疲れたと感じ、とにかくゆっくり休ませてくださいという状態になるのですが、それが終わって、普通に生活できるようになっても、自分の記憶力のなさに唖然とするのです。

過去のことを覚えていないとか、そういうことじゃなくて、例えば、仕事の帰りに郵便をついでに出さないといけないとか、はたまた、あの時、そう言えば、何を持っていたか?などそういう日常の些細なことが覚えていられない、もしくは思い出せないのです。
もう、びっくりするくらい、物忘れがひどいです。

病気をする前の私は、記憶力がよく、人からちょっと言われた用事でも、メモすることもなく、すべて忘れず、こなせていました。自分の今までの学歴にも自信がありました。

しかし、今の私は、仕事を人並みにするだけの能力が全然ありません。陽性症状の時や陰性症状の時ではなくて、普通の時にこれだけ記憶力がないのは、どうしてでしょうか?

これは、病気の影響なのでしょうか?

発病してからというもの、今まで満足に働けず、将来が不安です。職場の人には、善意かどうかはわからないのですが、今度は内職のような単調な仕事をしたらどうか?といわれます。大学院まで出たのにという、自分のつまらないプライドもあり、泣きそうな思いで日々過ごしております。

昔のようには、もう戻らないのでしょうか。

 

林:

心因反応と診断されています。

本当の診断名は心因反応ではなく、統合失調症に間違いないと思います。

 
しかし、今の私は、仕事を人並みにするだけの能力が全然ありません。陽性症状の時や陰性症状の時ではなくて、普通の時にこれだけ記憶力がないのは、どうしてでしょうか?

それは陰性症状です。「陽性症状の時や陰性症状の時」という表現は、陽性症状・陰性症状という言葉についての誤解から生まれていると思います。統合失調症の陽性症状は経過によって確かに現れたり消えたりすることがしばしばありますから「陽性症状の時」という表現に矛盾はありませんが、陰性症状は基本的に慢性的なもので、一過性のものではありませんので、「陰性症状の時」というのは普通はありえない表現です。
つまり、質問者の今の症状(記憶力低下の自覚)は、陰性症状であると考えるのが普通だということです。
もう一つの可能性として、薬の影響も考えられます。このように指摘されると多くの人は、「薬の影響に違いない。薬を減らすかやめるかすればよくなるに違いない」と考えがちですが、それは多くの場合、願望にすぎず、事実ではありません。しかし可能性としてはありえますので、薬の調整は主治医と相談のうえ行ってみる価値は十分にあるでしょう。

昔のようには、もう戻らないのでしょうか。

戻るかもしれませんし、戻らないかもしれません。

(2020.7.5.)

05. 7月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症