【4054】周囲の人に不快感を持たれている

Q: 心の病というものと思春期のころから付き合っている、現在30代半ばの男です。
大学卒業後、地元の精神科に通院し、病名は特になく強いて言えば「関係念慮」があるということでした(ほかの2,3の精神科で両親とともに行ったときは、統合失調症という初回診断がついたようで、じぶんはかなりあとで親から聞きました)。周囲の人間と自分を結びつける傾向が強いということでした。ひきこもりがちな生活を実家で過ごし、アルバイトや派遣として働いても長く続かず(最長1年1ヶ月)辞めるときは急に出社できなくなり、突然辞めてしまったり、期間満了という形でも精神的にぼろぼろになって辞めることが多かったです。
職場では周囲の人と協調してことを進めるのが苦手で、自分ひとりでものごとを進めがちでした。対人関係で精神のストレスを多く受けやすく、混乱してしまいがちでした。
今の職場でも、まわりがみえてないとか、自分本位の行動をする、動きがかなりほかの人と比べて目立つ、などと直接ほかの社員から言われました。(それで周囲が迷惑しているという意味ではありません。ただ仕事のことで自分が相談したときにそういう面があるといわれました)

最近、主治医に自分の病名について、統合失調症の気はあるとはっきり言われました。そして抗精神病薬(セレネース0.75mgとアキネトン1mg)を1日1錠寝る前に飲むようにと処方されました。

林先生にお尋ねしたいのはこのまま精神科に通院して薬を飲んでというやり方でいいのかどうかということです。と言いますのは現在非常に困った事態を抱えているからなのです。周囲の人間に不快感を持たれるというのがその困った事態なのですが、詳しくいうと職場で仕事中まわりの人間を「見ている」という噂が立っているからです。ただ、自分の実感としては噂というよりはほぼすべての人が自分に多かれ少なかれ警戒心を抱いているという感じです。妄想についても考えてみましたが、職場の数人に聞いても「妄想だよ」という返事はききません(気持ちの問題だと言われたことはあります)。職場以外の場所、レストランや電車の中でよく不快をあらわにした表現(露骨なおおげさな咳払い)を近くでされます。そういう周囲の反応もそうですが、自分の中で留まっているという感覚はあります。身体が固まっているとか思考が停止しているとか、目が固まっているなどです。まわりの音が過敏にはいってきて大きな音を立てられると、身体のバランスを崩すほどに反応し動揺してしまうのですが、耳鼻科に行っても機能的に問題ないといわれます。顔の右側に常に違和感(左より敏感で少し痛い感じ)があり(軽い難聴もあります)、それも煩わしいのですが、実際自分の目の動きが正常なのかどうかも自信がもてません。何か部分部分にこだわって全体としての自分が忘れられている、という感じもします。統合失調症という名の通り統合体としての自分を忘れてしまいがち(このメールを書いている今は比較的まとまり感はあります)です。精神病としての治療をすればいいのか、前頭連合野を鍛える運動をすればいいのか、それとも神経内科で顔の右側の痛みの原因を含め脳の診察を受けてもらったほうがいいかということで悩んでいます。どこにいても落ち着けないということで死んでしまうしかないのかなくらいにまで思いつめるときもあり、ある意味追い詰められています。宜しくお願いします。

 

林:
林先生にお尋ねしたいのはこのまま精神科に通院して薬を飲んでというやり方でいいのかどうかということです。

はい、そうしてください。ただし、今の症状からみて、セレネース0.75ミラグラムという量は少なすぎるのだと思います。もっと増量することで、さらなる改善が期待できます。

と言いますのは現在非常に困った事態を抱えているからなのです。

その困った事態は統合失調症が十分に改善していないことによる症状です。

周囲の人間に不快感を持たれるというのがその困った事態なのですが、詳しくいうと職場で仕事中まわりの人間を「見ている」という噂が立っているからです。

統合失調症に典型的な症状です。

ただ、自分の実感としては噂というよりはほぼすべての人が自分に多かれ少なかれ警戒心を抱いているという感じです。

そのように感じるというのもまた典型的です。

妄想についても考えてみましたが、職場の数人に聞いても「妄想だよ」という返事はききません(気持ちの問題だと言われたことはあります)。

それは妄想でないと判断する根拠にはなりません。妄想を持っている人は、周囲の人が「それは妄想でない」と言えば妄想でないと考え、「それは妄想だ」と言えば周囲の人が間違っているとか嘘をついていると考えるものです。

職場以外の場所、レストランや電車の中でよく不快をあらわにした表現(露骨なおおげさな咳払い)を近くでされます。

これも同じように典型的な症状です。
なお、このレベルの症状ですと、妄想(関係妄想、被害妄想)とは呼ばず、念慮(関係念慮、被害念慮)と呼ぶのが正しいとする立場も考えられますが、それは言葉の使い方の違いにすぎません。

そのほか、このメールに書かれている質問者の苦悩はいずれも統合失調症によるものとして矛盾はありません。

この【4054】ように、精神科で治療を受けつつ仕事をし、しかし職場への適応が今ひとつという統合失調症のケースは非常に多数存在します。その中には、薬の調整等で驚くほど改善して職場適応がスムースになるケースもあれば、治療しても改善がある時点からはなかなか進みにくいケースもあります。この【4054】がどちらであるかを現時点で判定することは困難ですが、薬は今ほぼ最小量ですので、増量によって、特に副作用が出ることなく症状が著しく改善し、その結果として職場適応も著しく改善することが十分に期待できます。今の状態を主治医の先生にお伝えし、適切な処方調整をしてもらってください。

(2020.6.5.)

05. 6月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症