【4047】妻が私を非難する理由が理解できない

Q: 私は50代、妻は40代で結婚20年ほど、未成年の二人の子供がおります。
結婚当初より、妻は私には理解できない理由で私を非難してきました。
いわく、

・ あなたは、良いことをしゃべる場合には右に力を入れ、私の方を見ると左に力を入れ、そうやって私を嫌いということを表現している。
・ テレビで綺麗な女が出ると右に力を入れている。
・ ごみを捨てる時に限って私の方を見て、私を捨てるということを表現している。
・ 私の頭を見て、私が臭いということを表現している。
・ 「××が大きい」(××は例えば山とかその時話題になっていた妻以外の何か)、と言いながら私の方を見た。どうせ私の顔は大きいけど、そこまで表現しなくてもいいではないか。
・ あなたは、私の後に近づく時には息を吐き、離れると息を吸う。私が臭いのをそこまでして表現するのはまともではない。
・ トマトを食べたとき、ヘタの捨て方が私を嫌っていることを表現していた。
・ 地図を見るときに、私がすぐ隣にいるのに、そんなにバサッ、バサッと風をたてなくてもいいではないか。私が臭いのを嫌っているのをそこまでして表現するのは異常だ。
・私に似ている長男は可愛がらず、自分に似ている長女ばかり可愛がる。これでは、長男がかわいそうだ。

以上は最近の例です。その内容は20年前からだんだん変わっていますが、私は特に何もしていないのに、私が妻をその容姿等を理由として嫌っており、それを何らかの形で表現して妻にいやがらせしている、という点においては大体共通しています。私が反論しても、妻は一切認めません。上記例の文章はさらっと書きましたが、実際はもっと強い表現で私に言ってくるし、妻を説得することは全くできないので最終的には私も強く言い返して夫婦喧嘩のようになってしまいます(時間も非常に長く費やします)。しかし、内容的には世間一般で喧嘩といえるような内容ではなく、私は何か非常に無駄な非生産的なことをしているという暗い気持ちになってしまいます。

このような状態は、ほとんど私に対してだけであり、私以外の人を巻き込んだことは数回あるだけで、妻は外では普通にパートタイマーとして働いています。

この20年の間には、なんとか説得して医者に連れて行くことができたことも数回ありましたが、結局つづきません。処方された薬も飲み続けることができません。しばらくして薬を飲んでいないのに気づいて問いただすと、「私は病気じゃない。薬は必要ない。おかしいのはあんただ」などと言います。最近では、1年位前に医者にかかり、リスパダールを飲んでいましたが、やはりつづきませんでした。
最後の医者に聞きましたが、プライバシーを理由に病名は教えてもらえませんでした。

妻は病気でしょうか。それとも、妻の言うように私が態度に気をつければいいのでしょうか(とてもそんなことはできないと思っていますが)。病気だとしたら、治療を続けるにはどうしたらよいのでしょうか。

 

林:
妻は病気でしょうか。

病気です。統合失調症とみていいでしょう。

このメールに箇条書きで列記していただいた内容は、どれも統合失調症の症状として矛盾はありません。ひとつひとつを切り取ってみれば、中には病気でなくてもありうる勘ぐりとも解釈できる内容ですが、全体としてみれば統合失調症の症状であるとみるのが妥当です。
たとえば

・ トマトを食べたとき、ヘタの捨て方が私を嫌っていることを表現していた。

これは妄想知覚と呼ばれる症状です。妄想知覚とは、知覚したものに異常な意味づけをするという症状で、この場合であれば、知覚そのものは正常で(つまりトマトのヘタはトマトのヘタとして正常に知覚されている)、その意味づけが異常(トマトのヘタの捨て方に、自分を嫌っているという意味づけをするのが異常)ということになります。このように、妄想知覚の意味づけは、自分に対するネガティブなメッセージであることが多いものです。

・ 地図を見るときに、私がすぐ隣にいるのに、そんなにバサッ、バサッと風をたてなくてもいいではないか。私が臭いのを嫌っているのをそこまでして表現するのは異常だ。

これは、たまたま風をたてたのであれば、それを自分が臭いという表現であると考えるのは、関係念慮あるいは関係妄想ということになります。
ただし実際には、このような関係念慮(や関係妄想)と妄想知覚の区別は曖昧な場合が多々あります。

病気だとしたら、治療を続けるにはどうしたらよいのでしょうか。

これは大変難しい問題です。このケースに限らず、統合失調症で病識がない場合や不十分な場合は、治療の開始も継続も容易でないのですが、この【4047】のケースでは、

妻は外では普通にパートタイマーとして働いています。

というように、ご本人には社会的には適応してりおり、

このような状態は、ほとんど私に対してだけであり、私以外の人を巻き込んだことは数回あるだけで、

というように、症状による問題は質問者である夫との関係にほぼ限定されていますので、第三者から見れば、何が何でも治療をしなければいけない状態であるとは言えませんし、強制的な治療の対象と考えるのには無理があります。

実際にはこの【4047】のように、ご家族以外の前では症状がはっきり現れず、医療に繋がっていない統合失調症のケースはかなり多いと思われます。

(2020.5.5.)

05. 5月 2020 by Hayashi
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