【3913】彼女がいないのにいると言う虚言

Q: 私は30代女性、 男性Aさんも30代の男性です。
Aさんは同い年の女性Bさんと結婚していましたが、昨年離婚しました。
私はAさんとは大学からの友人であり、Bさんとも面識があります。

Aさんがよく「Bさんは最近○○にハマっている」や「土曜日にBさんと○○へ出掛けた」と言うので、周囲の人間が「2人は付き合っているの?」と聞くと「うん」とAさんは答えます。

私はBさんのSNSを知っているのですが、BさんのSNSにはAさんは登場せず、他の男性Cさん(新しい恋人)と付き合っている様子が書かれています。
(Aさん自身もBさんのSNSは知っています。)
(私がBさんのSNSを知っていることを、Aさんは多分知りません。)

BさんがSNSで「Cさんと○○公園に行った」と書けば、Aさんが「Bさんと○○公園に行った」と周囲の人間に言うような感じです。

おそらく、Aさんは空想の中でBさんとお付き合い、あるいは結婚生活を送っているのであり、虚言だと思われます。

最近はそんなAさんの不思議な言動を周囲も察し、「なんだかおかしいね」と囁かれています。 自分自身も以前に比べ少し距離を置くようになりました。

Aさんは元々、研究者気質、のめり込んだら一直線なタイプで、学業も相当秀でており、所謂エリート階層に属しています。
しかし物事を大げさに捉えたり表現するところがあり、「○○は俺の事を貶めようとしている」という被害妄想が強い面もありました。
それでも、オンとオフを切り替えて、社会生活は普通にこなしています。

また、「基本的に人間は信用出来ない」「人間はいつか裏切る」「人間はよく嘘をつく」と昔から言っていて、元妻であるBさんが30代で初めての恋愛相手でした。

Aさんはどういう心境でこの虚言をしているのでしょうか。
また、精神病理として何かに当てはまると考えられるでしょうか。

尚、本人は虚言を楽しんでいるようですし、今の所社会生活に支障をきたしてはいないようなので、病院に行くことは無いと見ています。
(虚言を除けば、一見、真面目で仕事の出来る人間に見えます。)

 

林:彼女がいないのにいると言う」だけですと、世の中にはそういう人はかなり存在すると思われ、殊更に虚言であると指摘するほどのことではありませんが、この【3913】のようにその「彼女」とのことを何回も具体的に話すようですと、病的な虚言の範疇に入っていると言えるでしょう。

おそらく、Aさんは空想の中でBさんとお付き合い、あるいは結婚生活を送っているのであり、虚言だと思われます。

その通りだと思われますが、ここで一つの問題は、それが空想であることをAさん自身が意識しているかどうかという点です。病的な虚言者の中には、自分の虚言を真実であると信じているケースがあり(といっても、厳密には本当に信じているかどうかはわかりません。「信じているとしか思えない」とまでしか言えないのですが)、【3913】のAさんもそれにあたるかもしれません。

Aさんはどういう心境でこの虚言をしているのでしょうか。

わかりません。虚言者の心理は多くの場合わからないままであり、推定しかできません。上記、「自分の虚言を真実であると信じている」というのも一つの有力な仮説ではあります。

物事を大げさに捉えたり表現するところがあり、

そのような傾向が虚言に親和性ありということも考えられます。

Aさんは元々、研究者気質、のめり込んだら一直線なタイプで、学業も相当秀でており、所謂エリート階層に属しています。

プライドの維持が虚言の根底にありということも考えられるでしょう。

また、精神病理として何かに当てはまると考えられるでしょうか。

病的な虚言者 です。ただしこれは正式な精神医学用語ではありません。

尚、本人は虚言を楽しんでいるようですし、

楽しんでいる」という自覚が本人にあるかどうかは不明ですが、

今の所社会生活に支障をきたしてはいないようなので、病院に行くことは無いと見ています。

おそらくその通りでしょう。虚言者の大部分は病院を受診することはなく、仮に受診しても長続きせず、あるいは、仮に受診しても虚言者であるとは医師にもなかなか気づかれません。こうした事情から、虚言は精神医学の死角に位置したままになっているのが現状です。

(2019.11.5.)

05. 11月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 虚言