【3881】統合失調症の妻が私は病気ではないと突然言いだして薬をやめ、症状が悪化して医療保護入院になりました(【2583】の5年後)

Q:【2583】68歳妻の統合失調症、運命と考える方がよろしいでしょうかでご丁寧な回答を頂いた70代の夫です。あれから5年ほどたちます。
心療内科に通院し服薬しながらも妄想が続き、服薬しているのに妄想がどうにかならないのかな~と内心不満を持ちながらも、通院してくれることを第一に考え過ごしていました。

ところが昨年、通院していた医院が先生の都合により譲渡され、医師が変わりました。医師が変わっても、2回ほど通院していましたが、突然私は病気ではないではない、薬はもう飲まなくても良い、と言い出し、通院しなくなりました。断薬で妄想がひどくならなければ良いがと、心配していましたが、お父さんの妹が隣の家に入り込んでいる。窓から大麻を受け取ったやる。
仏前に置いてあった私の父母の遺影がなくなり、どうしたと聞くとお父さんはあの人らの子供ではない、ので燃やした。と言いだし。
そしてついに隣の方が回覧板を持って来ると、持ってくるな~と,どなったりしだしました。

これでは心配していた、他人に迷惑をかけることになる。と思いどうしても服薬の再開には何とか入院させなければならないと考え、私の説得では通院はおろか、入院を承知しないので、地域包括支援センターの方々の力を借りて医療保護入院をさせることが出来ました。

入院して1か月がたち老練な担当医と面談したところ、奥さんはなかなか本心を明かそうとはしないが話の内容など筋道が通っており、妄想の内容も現実的で宇宙人とか荒唐無稽の類ではない。それにご主人の話を聞いて妄想はは嫉妬妄想のようで、それがなかなか消えない。
一般的に妄想や幻聴があると統合失調症とひとくくりにするが、パラノイアというのがありそれにあたるのではないか?妄想が落ち着く薬を試すことと、服薬しておれば興奮を抑えることはできる。との事でした。
確かに今までの経過や現状を見ると当てはまるとは思いますが、今までパラノイアと言う言葉を知りませんでしたので、 さっそく先生のQ&Aでパラノイアを検索したとこら、”古典的にはパラノイア”と言う文言があったり、あまり認めておられない区分・分野?なのかな~と思いました。ということは、薬で妄想が抑えることが出来る。安心だと、考えに至りましたが、如何でしょうか?

尚、今の処方は リスベリドン内服0.5–1ml朝夕
バレリン錠200      –2T 朝夕
ブロチゾラム0.25   –1T 寝る前

妻はまだしばらく入院が続くようです。

 

林:
ところが昨年、通院していた医院が先生の都合により譲渡され、医師が変わりました。医師が変わっても、2回ほど通院していましたが、突然私は病気ではないではない、薬はもう飲まなくても良い、と言い出し、通院しなくなりました。断薬で妄想がひどくならなければ良いがと、心配していましたが、お父さんの妹が隣の家に入り込んでいる。窓から大麻を受け取ったやる。   
仏前に置いてあった私の父母の遺影がなくなり、どうしたと聞くとお父さんはあの人らの子供ではない、ので燃やした。と言いだし。

これは統合失調症の症状の再燃です。(その前の段階でも妄想は続いており、ある時から症状がひどくなっていますので、「再燃」と呼ぶのが適切です)
このように、症状が持続していてもそれなりに安定していた統合失調症の症状が、主治医の交替をきっかけに悪化・再燃することは少なからずあります。つまり、それまでの安定は、薬だけでなく、主治医の先生の診療技術や、主治医の先生との相性のよさによっていたものが、主治医交替により崩れてしまったと解釈するのが適切でしょう。

話の内容など筋道が通っており、妄想の内容も現実的で宇宙人とか荒唐無稽の類ではない。

だから統合失調症ではなくパラノイアと説明されたとのこと、その説明は誤りとは言えませんが、賛成し難いところです。
パラノイアの概念は現代において統一見解があるわけではないので、どんな説明も誤りとまでは言えません。その背景には、妄想を主症状とする病態の分類は昔からたくさんのものが提唱されてきており、現在は一応は主として統合失調症と妄想性障害に分類することで妥協がなされているという事情があります。「一応は」「妥協」というのは、決してこの分類が正しいと大部分の精神科医が考えているわけではないが、かといってそれに代わる説得力ある分類法はないということにすぎないという意味です。

パラノイアはこの分類でいえば妄想性障害の中の一型になります。パラノイアについての一応の(これも「一応」ですが)定義は、【1143】兄からの執拗な妄想電話で紹介した、「内的原因から発生し、思考、意思、および行動の秩序と明晰さが完全に保たれながら発展する、持続的で揺ぎない妄想体系」というものです。
この【3881】はこの定義にはあてはまりません。この定義には、「妄想以外は完全に正常」という意味が含まれていますが、【3881】のケースはそうとは言えませんし、妄想の内容も、宇宙人が登場するほどまでの荒唐無稽とまでは言えないまでも、【2583】に書かれていた「姉が隣の家に入り込んでいる。姉とセックスをしている。姉から大麻を受け取っている。姉にお金を脅し取られている。買い物で外出しても、旅行をしても姉や妹が後をつけていた。」という内容の異常さは統合失調症の水準とみるべきです。

もっとも、この【3881】のケースで、診断名がパラノイアかどうかは現実にはあまり問題ではありません。一般にはパラノイアというと薬が効きにくいというイメージがあるのですが(ただしこれは証明するのが難しく、本当に効きにくいかどうかは不明です)、この【3881】の経過は「薬を飲んでいる時は安定していて、薬をやめたら悪化した」と要約できますので、入院して薬を再開したこれからは改善に向かうことが十二分に期待できるからです。(但し、症状からみて、今の処方は薬が少なすぎるように感じられます。もっと強くしないと入院が長引くことになるかもしれません)

(2019.9.5.)

05. 9月 2019 by Hayashi
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