【3798】同級生からの性暴力

Q: 20代女性、 現在大学生です。

<状況> 1年以上にわたり、同級生の一人から、体を触られたり、学内外を付きまとわれたりしていました。

やめてくれと伝えても、「好きだから仕方ない」「君のことしか考えられない」などという返答にすり替えられ、意思表示を無視されました。

この同級生は私より年齢差が6歳以上離れた30代の男性であることと、日頃のあらゆる場面において自己中心的な言動が見受けられることから(相手が気に入らないと睨みつけたり、他人の人間関係に干渉してきたり、ありもしない噂を立てたりする)、
強く拒否したり、周囲に訴えると何をされるかわからないという恐怖感がつねに伴い、なされるがままになっていました。
現在、大学や諸機関に相談して対応してもらったため、目立った被害は生じていません。

<質問> 警察や弁護士に事情を相談しに行ったとき、「犯罪となるかどうかは明確に断ったかどうかが重要」「誘われて、断れないでついていったなら、自発性が認められると解釈されるかもしれない」というコメントを受けました。
現在、薬を処方してくださっている精神科の医師にも、「どうして断れなかったの?」と聞かれました。「断れたら苦労してない」という言葉が喉元まで出かかりましたが、言われてみれば、私自身、どうして、あれほど嫌だったのに、もっと強硬に意思表示できなかったのか、自分で自分が理解できません。やっぱり、自分がいけなかったのかと自責感を募らせるばかりで、事態の改善を図るために人に相談すると、かえって心理的な負担が増えます。

例えば、不快なことをされた翌日には、まるで昨日のことがなかったかのように(というか、そんな酷い出来事が自分の身の回りに起きたと認めたくないという気持ちが働いて)、その同級生にふつうに接することができていました。不快な出来事を、しばらく思い出せないということもありました。不快な出来事が起きている最中は、まるで自分の身に起きていないかのような感覚もありました。

このことを良しとした本人が、ストーカー行為やわいせつ行為をエスカレートさせる状況を作り上げたともいえます。

昔、教科書かなにかで読んだフロイトの「否認」「解離」という防衛機制が働いたのだろうかとも思いましたが、こんな思い付きを弁護士や警察に言っても理解してもらえるはずがありません。「あなたが好きでついていったんでしょう」と言われても、心の中のことは、客観的な証拠がありません。

性暴力被害者は共通してこのような反応になるのでしょうか。それとも、私が何かおかしいのでしょうか。この事態を防ぐ手立てはあったのでしょうか。

 

林: 質問者の苦悩は理解できますが、これまで質問者がご相談した方々の見解は基本的に正当だと思います。
すなわち、

警察や弁護士に事情を相談しに行ったとき、「犯罪となるかどうかは明確に断ったかどうかが重要」「誘われて、断れないでついていったなら、自発性が認められると解釈されるかもしれない」というコメントを受けました。

まさにその通りで、「誘われて、ついていった」ということであれば、その理由が明確な脅迫などでない限り、自発性ありと解釈されることは避けられません。「自発性が認められると解釈されるかもしれない」は婉曲表現であって、むしろそう解釈されるのが自然です。
したがって、

現在、薬を処方してくださっている精神科の医師にも、「どうして断れなかったの?」と聞かれました。

このように問われるのもまた自然です。断らなかった以上、客観的には自発的とみなされるからです。

「断れたら苦労してない」という言葉が喉元まで出かかりましたが、

という気持ちは理解できますが、現実には、断らなかったという事実には非常に重いものがあります。

性的な行為は、それがいかなるレベルのものであれ、犯罪とみなされることはもちろんあり得ます。しかし性犯罪には、他の犯罪とは異なる独特の特徴があります。それは、行為そのものは犯罪ではないということです。すなわち、窃盗や傷害や放火や殺人は、行為そのものが犯罪ですから、行為があったという事実があれば犯罪として成立します。けれども性的な行為は、被害者とされる側の人の同意なく行われたときにはじめて犯罪となります。すると同意がなかったことが証明できなければ犯罪ではなく、その証明は、最終的には主観的なものですが、証明するためには客観的事実が必要です。したがってこの【3798】のように、「誘われて、断らずについていった」となれば、そこでほぼ話は終わりで、同意があったとみなされることになります。ご本人からすれば、

「断れたら苦労してない」

ということになるのも理解できないことはありませんが、相手が暴力や脅迫を行使していない限り(そしてその行使があったことが証明できない限り)、同意ありと認められるのが自然です。
もし逆に、「暴力も脅迫もなくついていったけれど、本当は嫌だった」という訴えに基づいて、誘ったほうの人物を非難するようなことがあれば、多数の冤罪が発生することは避けられません。

「あなたが好きでついていったんでしょう」と言われても、心の中のことは、客観的な証拠がありません。

まさにその通りですが、だからこそ、断らなかった以上は同意ありとみなさるものだということです。

性暴力被害者は共通してこのような反応になるのでしょうか。

これは性暴力被害とは言えません。理由はここまで説明してきたとおりで、これを性暴力と呼ぶようなこととがあれば、多数の冤罪が発生します。
(ただし「性暴力被害とは言えない」のは、「犯罪とまでは言えない」という意味です。当該男性の行為が適切であるという意味ではありません。質問者の行為が一般的な意味で不適切であるという意味でもありません。この件を犯罪として告発するのは到底無理という意味です。)

それとも、私が何かおかしいのでしょうか。

おかしいとは言えません。が、断らなかった以上、自己責任と言わざるを得ません。

この事態を防ぐ手立てはあったのでしょうか。

嫌なことはきっぱりと断るべきでした。

(2019.3.5.)

05. 3月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 性に関する問題, 精神科Q&A