【3792】レム睡眠行動障害、そしてパーキンソン、そして幻覚

Q: 私は20代女性です。 いつもこちらのサイトを閲覧させて頂いている者です。この度、実家で暮らしている父(60代)の幻覚症状について家族で困り果ててしまい、こちらへ質問を送らせていただきました。

父は40代ごろから寝言が激しく、床や壁を力一杯叩いて怪我をしたり、睡眠中に立ち上がりそのまま部屋を出て階段を降りるなどの行動を繰り返しておりました。(大きな怪我がなかったのは奇跡的でした)
この時点で睡眠外来のある病院にかかったところ、レム睡眠障害と診断されておりましたが本人が医者嫌いで勝手に服薬を止めたり通院を辞めたりで、ほぼ無治療のままでした。

そして特段治療することもないまま50代になり、右手の震えによって字が書けなくなったことから病院を受診したところ、パーキンソン病との診断を受けました。しかしこの時も初期は服薬をさぼることも多く、私たち家族の指摘も聞き入れませんでした。やがて病状が進行し、手が震えてうまく字も書けず頭がぼうっとしてものが覚えられない(本人談)ようになり、会社を早期で退職しました。この頃からようやく真面目に病院へ通い始め、処方はネオドパストンのみだったと記憶しています。

60代になるとますます病気が進行し、足にも震えが出て歩き方がおかしくなりました。また、運転が覚束なくなり、バック駐車ができなくなりました(大幅に右や左に傾いてしまう上に自分で修正が効かないためです)
お薬手帳を見るとこの辺りからレキップの処方も始まっているようです。しかしこの頃は病院へは父だけが行っており、薬も父自身が管理していたため実際どのように服薬していたのかは私たちでは把握できかねています。

それから、少し時間が空きますが数年前辺りから自力で立ち上がる、すわることが困難になり始め、病院のリハビリテーションへ通い始めました。この時点では父の強い希望により、まだ本人が車の運転を続けていましたが併発していた白内障によって視界に難があったり(これは手術で完治しました)、また本人も突然運転中に運転の仕方が分からなくなる、と言ったことがあり、運転にはかなりの支障がある状態でした。それでも本人はその事を医者には伏せていたらしく、私たちがいくら反対しても話も聞かず、免許の更新も勝手に行ってしまい(しかも更新できたとのこと)、一年ほど前まで運転を続けていました。
ですが本人もさすがに不安が出てきたのか、次第に自転車で出かけることが増え、今年の春ごろに自転車で転倒して鎖骨の辺りを骨折しました。それからますます身体の動きがぎこちなくなり、食事の際も箸などを使っても食べこぼすようになり、非常に時間がかかるようになりました。

そして、ここ半年ほどで急速に状況が悪化しました。食事中ですら眠ってしまったり、テレビのリモコン操作にも戸惑うことが多く(以前は家で一番詳しかったのは父でした、またテレビもレコーダーも十年以上使い続けているものしかありません)、年数回しか帰省していない私の目にも悪化が明らかなほどでした。
それが秋にぎっくり腰になって寝室から身動きが取れなくなったことで緊急搬送、入院に至ったのですが、この時に大幅に薬が増えたようで、お薬手帳を見るとネオドパストンとレキップが入院前後で2倍に増え、この頃処方されていたトレリーフに加えて新しくコムタン(COMT阻害薬)が追加となっていました。

そのせいなのか、あるいは病状の進行なのかわたしには判断しかねるのですが、この入院を皮切りに父の幻覚症状が出始めました。内容としては様々あるのですが大きなものとしては私の勤務地が台風に見舞われていて(実際にはどこでも台風など発生していない時期です)、大変なことになっている、今すぐ電話しなければならない、ということを夜中の1時にナースコールして言い出したというものです。とにかく非常に興奮していたようで看護師さんの説得など一切聞かず、困った看護師の方が家に電話してきて母に事が知れました。母も電話で言い聞かせましたが話を聞くことはなく、しかし1時間もすると収まったようで、それからようやく寝たようでした。
これについて翌日には父は何も覚えていなかった、と母は申し述べています。私も一度だけ見舞いに行ったのですが、とにかく起きている事が出来ず、言葉もうまく発音出来ず飲み物を飲みかけたまま寝てしまうような状態でした。

先生の診断ではせん妄だろう、家に帰って環境が戻れば落ち着くだろうとの見立てで、早期に退院して家で様子を見ることになりました。

しかし退院しても上記のような劇的な幻覚に陥らないだけで幻覚は続き、小さい私がテーブルの上や布団の上にいたり(勿論私が他県で働いている時です)、うじ虫がご飯の上にいたり体表を這っている、また畳の上に虫がいたりして歩けない、米が赤くなっている(実際には白米です)、と言うようなことを毎日繰り返すようになりました。そこで困った母が勝手にコムタンとトレリーフを止めたところ(本来このような判断を勝手に下すのは問題であると重々承知しております)、随分幻覚を口にする回数が減ったとのことで、次の診察の際にそのことを医者に言うと主治医はコムタンの服薬を止める判断になったそうです。しかしネオドパストンとレキップの減薬にはあまり積極的ではなかったらしく、もしコムタンを辞めても続くようであればトレリーフを止めるようにと指導されたようです。現在はトレリーフを止め、ネオドパストンとレキップを服用しております。なお、このほかにも胃薬の服用もあるようでした。

長くなってしまいましたが、以上を踏まえての質問です。
第一に、これは薬の副作用による幻覚なのでしょうか、それともパーキンソン病から来る幻覚なのでしょうか。
帰省の際に幻覚の起きる時間を確かめてみましたが、服薬から数時間後のこともあれば服薬直前のタイミングのこともありまして、いわゆるウェアリングオフの時間帯に限って起こっているもののようでは有りませんでした。小さな子供や小さな虫がいるという幻覚がパーキンソン病治療薬の副作用にあるという表記も見かけましたが、本人に幻覚であるという自覚がなく、完全に現実のものと信じており、生活に支障がある状態です。
また、第二にこうした幻覚が起きた際、周囲はどのように対処すべきなのでしょうか。
私は幻覚であると分かれば本人が虫が見えると言った場所に触れ、ここに虫はあるかどうか尋ねると大抵消えているため、それが幻覚なのだと説明していましたが、母などは面倒臭がって幻覚だから、そんなものはいないと言うだけであとは無視しているようです。ただ、私の帰省の期間は相当短いため、都度細かく対処するのが苦ではなかっただけでもあります。毎日幻覚のある相手と接して母も同居している弟も大分辟易しているようで、なんとかならないものかと案じています。
厳密には神経内科の領域かとも思うのですが、過去同じくパーキンソン病の患者の方からのご質問もありましたのでこうして質問させていただきました。お手数ですが、よろしければ回答いただけると助かります。よろしくお願い致します。

 

林:
これは認知症の一種で、レビー小体型認知症と呼ばれるものです。経過も症状も典型的ですので、まず間違いないと思います。
メールに記載された経過を順に見ていきますと、

父は40代ごろから寝言が激しく、床や壁を力一杯叩いて怪我をしたり、睡眠中に立ち上がりそのまま部屋を出て階段を降りるなどの行動を繰り返しておりました。

これはおそらくレム睡眠行動障害で、レビー小体型認知症では、認知症の発症のかなり前の時期にこの症状が見られることがしばしばあります。
さらには便秘などの自律神経症状もこの時期によく見られますが、この【3792】では如何でしたでしょうか。
ただしもちろん、レム睡眠行動障害や便秘だけで、認知症の始まりということは言えませんが、40代や50代になってこのような症状が認められた場合は、レビー小体型認知症の可能性を視野に入れて経過を慎重に観察するのが現代の医学の方法です。

そしてこの【3792】のその後、

そして特段治療することもないまま50代になり、右手の震えによって字が書けなくなったことから病院を受診したところ、パーキンソン病との診断を受けました。

この時点でレビー小体型認知症の可能性は大きく高まります。すなわち、レム睡眠行動障害で始まり、後にパーキンソン症状が出現すれば、レビー小体型認知症の診断は確定的とは言えないまでも、相当に高いということになります。つまりこの時点で、将来認知症になる可能性はかなり高いと予想できます。

現に【3792】ではそのような経過をたどっています。自動車の運転という局面で明らかになったようです。

それから、少し時間が空きますが数年前辺りから自力で立ち上がる、すわることが困難になり始め、

これはパーキンソン症状の悪化であると認められ、

突然運転中に運転の仕方が分からなくなる、と言ったことがあり、運転にはかなりの支障がある状態でした。

これは認知症の症状が出現しているのでしょう。

この入院を皮切りに父の幻覚症状が出始めました。内容としては様々あるのですが大きなものとしては私の勤務地が台風に見舞われていて(実際にはどこでも台風など発生していない時期です)、大変なことになっている、今すぐ電話しなければならない、ということを夜中の1時にナースコールして言い出したというものです。

これはその時の医師の診断の通り、せん妄でしょう。せん妄は様々な原因で起こり得ますが、認知症に罹患しているとせん妄が起こりやすくなります。入院のように環境が変わったときに起こるのもしばしばあることです。
せん妄は認知症の種類にかかわらず現れ得る症状ですが、レビー小体型認知症に特徴的な症状として、せん妄とは別の幻視があります。アルツハイマー病でも幻視はあり得ますが、レビー小体型認知症では、より鮮明で実体的な幻視が特徴です。

小さい私がテーブルの上や布団の上にいたり(勿論私が他県で働いている時です)、うじ虫がご飯の上にいたり体表を這っている、また畳の上に虫がいたりして歩けない、米が赤くなっている(実際には白米です)、と言うようなことを毎日繰り返すようになりました。

これはいかにもレビー小体型認知症の幻視らしい幻視だといえます。

そこで困った母が勝手にコムタンとトレリーフを止めたところ(本来このような判断を勝手に下すのは問題であると重々承知しております)、随分幻覚を口にする回数が減ったとのことで、次の診察の際にそのことを医者に言うと主治医はコムタンの服薬を止める判断になったそうです。

この経過をみますと、幻視の出現に薬の作用が影響していると判断できます。
しかし幻視の性質からみて、また、ここまでの全経過も含めて総合的にみて、これはレビー小体型認知症の症状としての幻視であるとみるのが妥当でしょう。そこに薬が加わって悪化したいということだと思います。

厳密には神経内科の領域かとも思うのですが、

認知症に精神症状を伴う場合、精神科と神経内科の両方が関連する領域ということになります。実際には病院によって、神経内科が扱うか精神科が扱うかはまちまちです。
いずれにせよ、残念ながら現時点で、レビー小体型認知症の根本的な治療法はありません。薬や環境を調整しながら、症状の軽減をはかるというのが現実的な対処法ということになります。そして特に認知症の場合、薬は使い方によって副作用のほうが強く出ることも少なくありませんので、これまでこの【3792】の質問者がなさってきたように、症状を詳しく主治医にお伝えし、薬を調整していただくことを続けることが勧められます。

(2019.2.5.)

05. 2月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 認知症