【3728】覚醒剤後遺症なのか本当に統合失調症だったのか

Q: 40代前半の性別曖昧(男と女の間を行ったり来たりしてるFTM)の者です。
19歳から29歳まで覚醒剤使用歴があり、決してヘビーユーザーではなかったですが、25歳頃から寒い時期に覚醒剤が切れると鬱っぽくなり(なぜか暑い時期は平気)、死にたいとか思うようになり、そうするとTVで命の大切さとかやっていて、思ったことが日本中に漏れてると確信し、理科の実験のように、漏れると内圧が下がって真空管になるので、そこへ他人の思いをかけられると洗脳されると恐れて引きこもり、29歳の時に精神科病院に2ヶ月入院しました。
入院の数ヶ月前、「絆」「人と人とのつながり」など他人と自分がつながってしまうキーワードが聞こえ、「分離」「人と人バラバラ」など逆のことを言って対抗してましたが、他人と自分がつながってしまう携帯電話が怖くなって解約し、売人も仲間も薬物関係ない友達もみんな縁切って、覚醒剤はその時点でやめました。
しかし、病院で薬物のことを言わなかったので、統合失調症の診断でした。
(退院後、デイケアに通ってた頃に言われました。)
処方されてた薬はリスパダールで、退院後3年ほど通院しましたが、私の中では統合失調症ではなく覚醒剤の影響だと思っていたので、通院も服薬もやめました。
それから8年ぐらい経つ現在、思ったことが漏れてないことは頭ではわかってますが、洗脳の意図がないこともわかってますが、声も聞こえませんが、いまだに思いや情をかけられるのが怖く、たとえば私の痛みを自分の痛みのように捉える人とか悪魔にしか見えないし、それと非常に無気力で身だしなみも整える気になれず、1度も働くことなく半引きこもりです。
生活は親からの仕送りで1人暮らし、半引きこもりというのは、近所のコンビニに買い物に行ったり、誰にも話しかけられない状況下で散歩したり自転車乗ったり、というのはできていて、部屋は片付けられずゴキブリ出ますが、ゴミ出しはできてるのでゴミ屋敷にはなってません。
しかし、近所のコンビニは顔が知られてしまい、私は男性ホルモン剤の影響でM字ハゲなのですが、「本当は女なのはわかってる」とか言ってきたり、「剛毛うらやましい」「ビッシリ生えてますね」とか事実と逆のことをわざと言ってくる店員がいて嫌なので、もっと遠くの店に行くことにして、といっても徒歩15分圏内ですが、これからは買い物がもっと億劫になります。
そこで質問なのですが、覚醒剤をやめてから12年経っても、このような後遺症がずっと残るものなのでしょうか、もっと時間が経てば徐々に改善するのでしょうか、あるいは他人と接触するのが苦手で無気力なのが私の本来の性格なのか、人と会話する以外で改善の努力方法があれば知りたいです。

 

林: 精神科を受診して治療を再開してください。

あるいは他人と接触するのが苦手で無気力なのが私の本来の性格なのか

性格の問題ではありません。

もっと時間が経てば徐々に改善するのでしょうか

徐々に悪化していく可能性のほうがはるかに高いです。

覚醒剤をやめてから12年経っても、このような後遺症がずっと残るものなのでしょうか

それは誰にも正解がわからない問いです。
つまり、この【3728】のような症状と経過の場合、
(1) 統合失調症が正しい診断で、覚醒剤使用は無関係。(統合失調症の人が、たまたま覚醒剤を使用しただけ)
(2) 覚醒剤後遺症。 (覚醒剤の使用が脳に永続的な影響を残し、長年たった後でも精神病症状が出る)
の二つの考え方があり得ます。(厳密にそのほかにも考えられます。たとえば、統合失調症が覚醒剤で誘発された。つまり、統合失調症の素因はもともと持っていたが、発症しない可能性もあったところ、覚醒剤を使用したために発症した などです。しかし大きく分ければ上の(1)か(2)の二つです)

この【3728】のようなケースの場合、それでも、精神症状を精密に診断すれば、統合失調症なのか覚醒剤の後遺症なのかがわかるという考え方もあります。けれどもそこには、そもそも統合失調症の症状と覚醒剤精神病の症状には違いがあるという仮定があり、その仮定は、覚醒剤使用中または使用後に発生した症状が覚醒剤精神病であるという(一見すると正しく思える)前提があります。けれども、ある症状が「覚醒剤使用中または使用後に発生した」としても、その原因は覚醒剤とは限らず、上記(1)(統合失調症の人がたまたま覚醒剤を使用しただけ)の可能性を排除できませんから、いかに覚醒剤精神病(と思われる症状)をいかに多数みている医師でも絶対に区別できないというのが論理的に正しいということになります。それでも、覚醒剤の使用中や使用直後に精神病症状が発生した場合は、偶然そのタイミングで統合失調症を発症した可能性を厳密には排除できないとはいえ、それはあまりに偶然すぎると考えるのが普通ですので、覚醒剤精神病と診断するのが常です。しかし覚醒剤使用から何年もたって発症した場合は、同じ偶然でも十分にありうる偶然ということになります。
というわけで、この【3728】のケースにおいて上の(1)と(2)を区別することは不可能です。

したがって、

覚醒剤後遺症なのか本当に統合失調症だったのか

その問いに対する正解は誰にもわかりません。

なお、精神科Q&Aをたどってみますと、
2004年の【0611】以前違法薬物を使用していた親戚がおかしくなりました
で私は、「薬物使用の後遺症です」と断言していますが、これは振り返ってみると間違いだと思います。「薬物使用の後遺症と統合失調症のどちらも考えられる」が正しい答えです。

(2018.9.5.)

05. 9月 2018 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 覚醒剤 タグ: , |