【3395】統合失調症の姉の徘徊を止めるにはどうしたらいいか
Q: 私は36歳女性です。姉の統合失調症についての質問です。姉は現在42歳で、発病は今から20年ほど前です。原因は恐らく、父の縁故で無理矢理入った会社で、かなりのハードワークから疲れと不満で爆発したんだと推測しています。会社に行きたくないと言い出し、休みがちになり、あるときとうとう泣きわめきながら暴れだしました。私たち家族は驚きました。当時うつ病や統合失調症の情報が今ほどなく、家族はどうしていいか解らずないまま精神科に連れて行き、投薬とカウンセリングをうけましたが、症状はあまりよくなりませんでした。私達も知識がなかったので、なまけているように見えたり、何故なの!?と時には思いやりのない言葉や態度で姉を苦しめていた事もあり、今となっては大変申し訳ない事をしてしまったと反省する毎日です。そのうち、被害妄想を言うようになり、独り言も言うようになりました。最初はブツブツ言っていたのが、現在は声を張り上げるように一人でしゃべっている時もあります。現在も投薬とカウンセリングに通っています(通院を嫌がる時もあります)がよくはなりません。統合失調症と診断されています。
そしてこの間、とうとう近所に徘徊するようになってしまい、今現在入院しています。二ヶ月になりますが、全く変わりありません。徘徊を見つけたのは私で、何してたの?と聞くと、”家があるか聞いていた”と言いました。次の日は”結婚してるから家に帰らないと”と言い、出掛けようとしたのを母と二人で止めました。それがきっかけで思いきって入院に至りました。病院に行くまでは入院をひどく拒みましたが、入院の手続きをするとすんなり入院し、今は家に帰りたいと全く言いません。まだしばらく入院して経過を見ている最中です。姉の入院後、先生の著書、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 を初めて読ませて頂き、大変勉強になりました。そこには妄想は肯定も否定もしてもならないと書いてありましたが、姉がもし退院してまた徘徊するようになったらなんと言って引き止めればいいでしょうか…ご近所の迷惑になるので、やりたいようにさせる訳にはいかず、かといって強引に否定して引き止めて興奮させないかと心配です。
林: 統合失調症の方が徘徊する場合、理由がある程度わかるケースと全くといっていいほどわからないケースがあります。この【3395】は、
徘徊を見つけたのは私で、何してたの?と聞くと、”家があるか聞いていた”と言いました。次の日は”結婚してるから家に帰らないと”と言い、出掛けようとしたのを母と二人で止めました。
という経緯からすると、理由がある程度わかるケースといえるでしょう。すなわち、妄想があり、その結果として徘徊に至っているということです。ということは、妄想が薬物療法によって消えるかまたは弱まれば、徘徊は防止できるということになります。
統合失調症の妄想は、適切な薬物療法がなされれば、消えるかまたは弱まることが大部分ですが、残念ながら薬物の効果が乏しいケースもあります。この【3395】の経過を見ると、発症から20年以上たった現在の状態が、
現在は声を張り上げるように一人でしゃべっている時もあります。現在も投薬とカウンセリングに通っています(通院を嫌がる時もあります)がよくはなりません。
とのことですので、薬で十分な治療効果があがらないケースであることが窺われます。
(それは、適切な薬物療法がなされていないのか、あるいは、そもそも薬が効きにくいタイプなのか、このメールには具体的な処方内容が記されていないのでわかりませんが、ここでは適切な薬物療法がなされているのにこのような状態であると仮定することにします)
そして、最近になって、徘徊というこれまでにない問題行動が現れたことを見ると、状態は徐々に悪化傾向にあるといえます。また、
今現在入院しています。二ヶ月になりますが、全く変わりありません。
これが事実だとすれば、見通しはさらに悲観的になります。(「事実だとすれば」というのは、「全く変わりありません」というのがご家族の判断にすぎないのか、医師もそのように判断しているかどうかが不明だからです。ご家族から見て変化があまりないように見えても実はよくなっている場合もあれば、その逆もあります)
以上からみますと、
姉がもし退院してまた徘徊するようになったらなんと言って引き止めればいいでしょうか…ご近所の迷惑になるので、やりたいようにさせる訳にはいかず、かといって強引に否定して引き止めて興奮させないかと心配です。
このケースでは、もし徘徊があるようであれば、引き止めるのは困難だと思います。「薬物療法によって妄想を軽くする」のが唯一ともいえる方法ですが、その効果が不十分だとすると、手段に窮します。
妄想は肯定も否定もしてもならない
それは事実ですが、そこには「妄想によって重大な問題行動がない場合には」という前提があり、もし重大な問題行動があれば、「肯定も否定もしない」などと悠長なことは言っていられないということになります。
徘徊が重大な問題行動にあたるかどうかは一概には言えないことですが、現代の一般的な日本社会においては、放置するわけにはいかない問題行動であることは否定できません。そうしますと、
姉がもし退院してまた徘徊するようになったらなんと言って引き止めればいいでしょうか
残念ながらこれに対する答えは、「再入院しかない」ということになります。
なお、
原因は恐らく、父の縁故で無理矢理入った会社で、かなりのハードワークから疲れと不満で爆発したんだと推測しています。
この推測には統合失調症という病気に対する重大な誤解があります。統合失調症は内因性の精神障害であり、会社のハードワークが原因となることはあり得ません。(きっかけになることはあり得ますが)
(2017.4.5.)