【3284】相模原市の障害者福祉施設殺傷事件の被疑者の病名は? 措置入院していたのになぜ退院させられてしまったのでしょうか?
Q: 私は30代女性です。
2016年7月26日、相模原市の障害者福祉施設で殺傷事件が発生しました。
被疑者男性について、連日のように様々な情報が飛び交っています。
医療関係者ではない私から見ても、この男性の行動は常軌を逸しているため、何らかの精神疾患にかかっているのではないかと思います。
そこで今回は
「被疑者の男性は何の精神疾患にかかっていると考えられるか」
「経緯から見て未然に防ぐ術はなかったのか(もしあったならそれは何か)」
「措置入院をしているのになぜ退院させられてしまったのか」
ということを質問したいと思います。 よろしくお願いします。
林:
「被疑者の男性は何の精神疾患にかかっていると考えられるか」
わかりません。
「経緯から見て未然に防ぐ術はなかったのか(もしあったならそれは何か)」
わかりません。
「措置入院をしているのになぜ退院させられてしまったのか」
この質問は間違っています。なぜなら、この質問の背景には、「あんな犯罪を引き起こすような人物をなぜ退院させたのか」という疑問(あるいは非難)があると解されるからです。そこには措置入院という制度についての根本的な誤解があります。この誤解と、それに基づく議論は、精神障害者による重大犯罪が発生する度に繰り返されてきているものです。毎回、同じ出発点からの同じ議論になっていることが否めません。
たとえば2001年に大阪で発生した池田小事件です。小学校に乱入して複数の生徒を殺傷した犯人は、以前に措置入院させられていましたが、比較的短期間で退院しています。池田小事件はそうした状況で発生したものです。この事件と措置入院との関係について、当時の読売新聞の社説に、簡潔かつ的確な記述がなされています。次の通りです。
法務省の犯罪白書によると、一九九五年から九九年までの五年間に、いったんは措置入院させられたが退院し、その後一年以内に犯罪を引き起こした精神障害者は百二十九人にのぼる。
措置入院は、精神保健福祉法に基づく制度であり、治療と社会復帰が目的だ。再犯防止の視点は一切入っていない。
(2001.6.9. 読売新聞社説より)
この引用から明らかな通り、措置入院から退院し犯罪を起こすケースが相当数にのぼることは、ずっと昔から統計としてはっきり示されていたことです。その意味では特に今回のケースが特別というわけではありません。そしてこれも引用の通り、措置入院という制度には「再犯防止の視点は一切入っていない」以上、犯罪という結果をみての「措置入院をしているのになぜ退院させられてしまったのか」という質問は間違っています。
(2016.9.5.)